ハッピー・エンディング その2
ウィル・ストレイト、人生最高のツッコミを更新した。
そしてそれをアルマを否定できなかった。
多元宇宙最高頭脳、敗北の瞬間である。
転生して1000年である。
それだけあれば、前世の性別や趣味趣向なんて文字通り記憶の彼方。
前世の構成要素なんてほとんど残ってはいない。
「…………ふぅ、ふぅ。……すみません、ちょっと冷静さを失いました」
息を整えて、ウィルは考える。
そして気づく。
アルマ・スぺイシアは――――――――コミュ障であると。
冷静に考えれば当然なのだ。
周囲を見回す。果てのない書架、無限に続く穴倉。こんな所に1000年いて直接のコミュニケーションは限られている。
ウィルは知らないが、自身が発足したネクサスにしても一方的に指示を出すだけで会話らしい会話はほとんどなかった。
そして極めつけに、直接でないコミュニケーションは掲示板でやりたい放題だ。
そんなのが続けばどうなるか。
ニートになって掲示板で無駄なレスを稼ぐだけのインターネットモンスターなんて目ではないコミュ障の完成である。
そしてさらに考える。
根っこは善性なのだ。
それをウィルは知っている。彼女を知る誰もが「ほんとにそうか……? 邪悪ではないけど良い奴か……?」と首をかしげてしまうだろうが、ウィルだけはそう思っている。
その目線で見るとしたら。
アルマは、自覚無自覚はおいておいて自分の思っていることをぶつけるのは得意なのだろうが、感情をぶつけられるのはダメなのだ。
特に好意の類をまともに受けれない。
ウィルを助けるために行動はするし、勢いで凄いことを言うけれど、冷静になると引いてしまう。
好きな女の子に優しくするけれど、告白は出来ない――――そういう高校生童貞男子メンタルがアルマ・スぺイシアなのだ。
で、あれば。
やることは簡単だ。
「―――アルマさん」
「な、なに……って、ちょ」
名前を呼び、ウィルは前に出た。
膝をついたまま、光る泉に波紋を揺らしながら、アルマの頬に手を伸ばす。
これ以上ないくらいに頬を赤くしたアルマは体を震わせたが、止めなかった。
「――――ぁ」
ウィルの手が、アルマの頬に触れた。
赤く染まり、熱を持っている。ゆで卵のようにつるつるで、珠のような肌は水滴を弾きながらもウィルの指に吸い付く様な触り心地だ。
当然、距離が縮まる。
元々対格差は激しく、開いていた彼女の足にウィルが体を割り込むように。
自然とアルマの体から力が抜けていた。
それを追えば、はたから見ればウィルが少女を押し倒したように見えるだろう。
実際そうであるし、或いはアルマが自ら受け入れたようにも見えた。
そして、今度こそと。
ウィルは自らの右手をアルマの手に絡め握りしめた。
「――――」
言葉はなかった。
ウィルはここで押さないと、また彼女が離れてしまう気がした。
アルマはもう何が何だかわからずいっぱいいっぱいで、ただウィルの顔が近すぎるとことだけしか分からなかった。
真っすぐに真っ黒な目と、潤んだ輝く赤い瞳の視線が交わる。
「―――――ん」
そして二人は唇を重ねた。
赤が見開き、少しして力が抜けた。
少年の手が少女の手を掴むのではなく、少しづつ、けれど最後は互いに握りあっていた。
カチリと、何かが嵌ったように。
鍵と錠前が揃ったように。
或いは誰も開けられなかった堅い鍵を、初めてその鍵が開けたのだ。
どちらもファーストキスで。
アルマが思わず顎を上げて歯と歯がぶつかってしまった。
二人の距離がゼロになっていたのはほんの数秒で、顔を上げた時アルマはまだぎゅっと目をつむっていた。
「……………………どうするんだ。どんな遠距離するつもり?」
「えぇと……それは……その、全然考えてなかったんですけど」
「真っすぐが過ぎるよ、君は」
思わず、苦笑してしまう。
だけど、ウィル・ストレイトはそういう少年だった。
真っすぐに進む意思。
出会った時から、彼はずっとアルマに対して真っすぐに接してくれた。
感謝をしてくれて、学び、話し、笑い、過去を打ち明けてくれて、手を握り―――それで、最後にはキスをした。
ずるいだろ、と彼女は思う。
アルマ以外にもいたのだ。
自分の世界の誰かと一緒になればいい。
その方がいいと思っていたのに。
こんな風に直球で来られてしまえば、どうしようもないじゃないか。
「―――――なんとかする」
息を吐きながら彼女は言った。
「アルマさん?」
「なんとかする……違うな、なんとかしたい。僕も……うん、僕も君と一緒にいたい。少し、準備がいるかもしれないけど、それでもなんとかするよ。だから……それでいいかな」
「―――――はい」
少し首を傾けて、ウィルは笑った。
少し顎を上げて、アルマも笑った。
なんでもできるかもしれないけれど、なんでもはできない少年と。
なんでも知っているけれど、なんでもできるとは限らない少女は。
それでも二人なら何でもできると笑っていた。
●
【祝】>1天てぇてぇスレ【13】:プライベートサーバー
1:脳髄惑星
君が僕の希望だ(キリッ
2:自動人形職人
僕がクリスマスプレゼントだよ♡
3:暗殺王
僕がこの状況を打開する希望だよ♡
4:サイバーヤクザい師
あらー!!!!!
5:元奴隷童貞
おほ~~~~~
6:冒険者公務員
こんな最強の告白決めて
7:ステゴロお嬢様
ラブラブ合体技決めて
8:アイドル無双覇者
そっからヘタレって何も言わずに帰るやつwwwwwww
9:脳髄惑星
そんなやつおりゅwwwwwwwwwww???
10:艦長
いないよねぇwwwwwwwwwwwwwww
11:希望
全員ぶっ殺す!!!!!!!!!!!!!!!!!
12:イッチ
あはは……
超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方 END
●
季節は巡る。
出会いと別れの季節へ。
≪アクシア魔法学院≫は冬を超えて、春を迎えようとしていた。
数か月前の魔族の出現は、世界規模に激震を走らせたがしかし時は過ぎ落ち着いている。
学園のある一室、ウィルは窓の外に桜が咲きそうだなと思った。
桜。
異世界にあるのが不思議な感覚だが、アース・ゼロから派生しているこの世界ではそういうこともあるのだろう。
そこは主席と次席のみが集められてた部屋だった。
新3年主席、龍人族、カルメン・アルカラ。
新3年次席、トリシラ聖国の巫女、パール・トリシラ。
新2年次席、天津皇国第六皇女、天津院御影。
そして新2年主席ウィル・ストレイト。
各学年の主席と次席によって学園の生徒会は構成されている。
全ての授業過程が終わり、春休みになる直前のことである。
先んじて、新一年生主席と次席が学園に訪れて入学前に挨拶をするのだ。
ウィルはそれをしなかったが、滑り込み故で、事前挨拶を行っていたのは御影であり、その上で主席を譲ってくれたのだからありがたいことだなと思う。
最も、御影も横やり相手が弱かったらどこかで主席の地位を奪おうとしていたらしいのだが。
そして、その部屋に新1年主席が足を踏み入れた。
足を踏み入れ――――――ウィルは驚いた。
それはもう驚いた。
輝く銀色の髪。
宝石のような真紅の瞳。
ブラウスには同じ色の細めのネクタイ、学園指定のブレザーではなく、赤いコートの袖を通していた。
それを、彼女が「マント」と呼んでいたもの。マントのように袖を通さず肩にかけていたが当然そういう風にも着る。
年明けごろからウィルがいつも片肩に掛ける短いマントと同じような衣装。
左手の人差し指と中指には指輪が。
白く透き通るような首にはシンプルなチョーカーが。
彼女を、ウィルは知っていた。
実際に会うのは約二か月ぶりだ。
「―――待たせたね」
ニヤリと、彼女は笑う。
「新1年主席、アルマ・スぺイシア―――――これからよろしく。先輩」
超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方
GRADE1 END
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