天津院御影ー鬼の間に その2ー

 そして、「彼」の手が数秒止まってまた動き出し、少しずつ背を降りていく。

 まだ慣れていないたとたどしい手つきが可愛い。

 もっと、がっつり来てくれるのが理想なのだけど。

 鬼族の女的に、惚れた男ないし自分の全霊を倒した男に閨で屈服させられるのは理想の一つだ。

 強さを最も尊ぶ種族だからこそ、性欲も戦闘欲もわりと直結している。

 このまま後ろからがばっと来てもウェルカム。

 褥を共にするには聊か少し離れた距離に人も多くて声とか漏れそうだが、御影的には一種のスパイスだ。

 鬼という種族は、性に開放的なのである。

 

 最も、あまり性に開放的だったり、奔放なのは人間からすると引かれる原因になるという。

 ≪魔法学園≫ではそのあたりの文化差における授業もあり、マジかと思ったものだ。

 だが文化差なので仕方ない。

 

「んふ……ぅ」

 

 「彼」の指が、掌が腰あたりを撫でまわす。

 下腹あたりがむず痒い。

 好きな男に体を撫でまわされて、興奮しないわけがないのだ。

 先輩ならきっといつもの無表情で同意してくれるだろう。

 フォンは顔を真っ赤にして何も言えなくなるが、そういう所が可愛いと思う。

 

「は……ぁ……んっっ♡」

 

 「彼」の手が一瞬だけお尻にまで伸びる。だが、我ながら肉の詰まった尻が「彼」の指を弾いてしまった。

 学園に来るまで、「彼」に出会うまでは無駄に肉が詰まった乳も尻も好きじゃなかった。

 だけど、「彼」が思わず見てくれるのならば好きになれる。

 

「ふぁ……んくっ」

 

 あの、と「彼」が絞り出すような声を上げた。

 

「ふぅ……ふぅ……ん、どうした婿殿?」

 

 首だけで振り返って彼を見る。

 御影の腰に手を当てたまま、必然的に前かがみの姿勢で―――そこには突っ込まないでおく―――顔を真っ赤にして目を閉じていた。

 変な声を出さないでくださいと、「彼」は言う。

 

「変? いやいや、婿殿の手管故だとも。つい身体が火照ってしまった―――もっと熱くしてくれてもいいんだぞ?」

 

 顔の位置を戻しながら、膝を折り曲げて彼の腕にぺちぺちと触れる。

 足蹴にしているようでちょっと興奮した。

 逆もまた良いな、とも思う。

 もういいですよね、と「彼」は立ち上がろうとした。少なくとも、御影の脇からズレようとしたのだろう。

 素早い動きだった、御影が振り向くよりも早くこの場から離脱、ないしはそのまま海に飛び込もうとする勢いだった。

 というか、実際に飛び出していた。

 

「こらっ婿殿。まだだぞ?」

 

 そう動くと分かっていたので、体をひっくり返して彼の足首を掴んで無理やり逃亡を阻止した。

 ぐえっ、と「彼」がうめき声を上げるが、身体強化魔法を使っていないのならば種族差の基礎スペックで御影が負けるはずもない。

 結果的に、「彼」が御影のお腹に墜落して、

 

「…………うむ、これはこれで乙だなぁ」

 

 起き上がれば太ももとお腹と胸で、「彼」を挟み込む形になった。

 ひぃあ、と少し高め声を「彼」があげるのがちょっと興奮する。

 まな板の鯉ならぬ、鬼の体の上の人間である。

 

「ふむ」

 

 胸をそのまま、「彼」の背中に乗せる。

 「彼」が脱出しようともがくが、

 

「婿殿。水着取れたままなんだよな、私」

 

 その一言で時間でも止まったかのように停止してしまった。

 水着の上は外したままなので、当然明るめの褐色の乳房とその頂点の桜色の突起は晒されている。

 コテージには柵があり、パラソルの下にいるから外からは見えないだろうが、しかし今重要なのはそこではない。

 

「―――ふふっ」

 

 ぞわりと、「彼」の背を撫でる。

 両手が空いた以上、色々触り放題である。

 色々触りたいが―――我慢だ。

 色々我慢した方が、最後の最後の瞬間が最高だと御影は知っている。

 元々、妾腹・混血の身から王位継承権第一位までもぎ取った。それは10年近くの歳月をかけたものだったのだ。 

 だから、あと2年半くらいの我慢なんて興奮へのスパイスと言っていい。

 もし来年くらいに「彼」の本能が爆発したとしてそこで待ったを掛けるというのももしかしていいんじゃないだろうか。

 

「なぁ、婿殿」

 

 身をかがめて、つまり胸を強く「彼」の背中に押し当てながら耳元でささやく。

 とっくにその両耳も首筋も真っ赤だった。

 可愛い。

 かなりむらっとする。

 絞る様に、言葉を発する際に生じる吐息をそのまま真っ赤な耳に当てるのが御影のお気に入りだ。

 妙な体勢で挟んでいるからか、変に硬直した腕に、自分の指を這わせながら五指を絡ませる。

 

「まぁーだ」

 

 ぶるりと、「彼」の体が震えた。

 ぞくりと、御影の体も震えた。

 片手で五指を絡めとり、片手は「彼」の体を撫でまわし、乳と太ももで挟み込む。

 自分も「彼」も息が荒くなっているのを、自覚する。

 けれど、これで終わりではもったいない。

 折角の夏休み。折角の海。

 少しばかり、いつもはできないことを。

 

「前が終わっていないだろう?」

 

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