【勇者配信】聖剣に選ばれたので世界を救います9【多分最終回】 その2


 

「うわすごい」

 

 ゲートの先、まさしくそこは世界が違った。

 勇者がいたのは絵にかいたような中世ファンタジー。

 だが、ここは、

 

「すごい、不思議……」

 

 それは勇者から見れば凡そ十数年ぶりに見る―――どころか、生前を含めてもアニメや映画の中でしかない未来的な廊下だった。

 正方形のブロックが縦に繋がっているのか、つなぎ目が光っている。突き当りには取っ手がなく、脇にコンソールのある扉らしきものが見えた。

 

「あぁ、だろうね。SFという概念でいえば把握している限り最先端……でもないか? 脳髄なんて訳の分からないものもいるし」

 

「?」

 

「こっちの話だ。進もう」

 

 歩みを進めれば、カツカツという高音が響く。

 石畳や大理石ではならない音だ。

 

「ここ、なんなんですか?」

 

「船だ。ま、詳しい説明はこの船の主から聞けばいい。言っておくがそいつは性格が悪いから気を付けるといい。君の様な素直な子ならね」

 

 扉の前で足を止めた彼女はローブの懐に手を突っ込み、

 

『認証、ゲニウス様。ロックをオープンします』

 

 取り出したスマートフォンをコンソールに当て、扉を開けた。

 

「……」

 

「なんだい? こんな格好をしてるから電子機器は使えないとでも?」

 

「正直違和感が……」

 

「言うなよ。私も此処にいる時しか使わない」

 

 肩をすくめながら、スマートフォンを懐に仕舞い、

 

「さぁ、操舵室だ」

 

「わぁ……!」

 

 ゲートの先、それは絵にかいたようなSFの宇宙船の操縦室だった。

 正面、大きな液晶のようなパネルに漆黒の宇宙と星々が広がっている。その下や外周には同じく電子パネルと空中投影されたディスプレイ。席は幾つかあるがどれも無人。

 そして、中央には円卓型の大型コンソールがあり、

 

「やぁ、来たかい。ゲニウス、新人さん」

 

 そこに白い詰襟とアシンメトリーの銀髪、男にしては華奢な青年がいた。

 中性的で、右目元の泣き黒子が艶めかしい、美青年だ。

 軍帽を弄りながら二人を出迎えた彼は、

 

「誰の性格が悪いって?」

 

「……君しかいないだろう」

 

「おやおや」

 

 くすくすと口元に手を当てて笑う姿すら絵になる。

 それこそ前世でアイドルなり俳優なりになれば、世の女性を虜にしていただろう。

 

「こちらがこの船の『艦長』だ。繰り返すが性格が悪いから気を付けて」

 

「どうも初めまして新入りさん。ちなみにこちらの天才さんも性格が悪いから気を付けて」

 

「おい。私の個人情報掲示板でばらしたこと忘れてないからな。今から報復してやろうか」

 

「先にばらしてくれたのは君だろう。深宇宙に置いてけぼりにしてもすぐに帰ってくるから困るんだ」

 

「……仲がよろしいので?」

 

「まさか」

 

「どうだろうねぇ」

 

 ゲニウスは本当にごめんだというように吐き捨て、艦長は感情の読めない笑みで答えた。

 どうやらそれなりに長い付き合いらしい。

 

「―――ん」

 

 唐突に、ゲニウスが宙を見つめた。

 数秒それで止まり、

 

「急用だ。私の役目は集めること。後は君に任せる」

 

 踵を返し、手を掲げ、

 

「おっ、例の「彼」かな」

 

「地獄に落ちろ」

 

 言い捨てて、一瞬勇者に視線を向けて、

 

「それじゃあね、勇者。また近いうちに会うだろう」

 

 手を振り下ろし―――光と共に消えた。

 一瞬の出来事に、思わず目を白黒させた勇者が艦長に目を向ければ、

 

「演出過剰だよね、彼女」

 

「はぁ……お忙しいんでしょうか」

 

「いやぁあれは推し活だよ」

 

「推し活」

 

「そっ、最近あの子お熱を上げてる転生者がいてね。いやぁTSロリババアだってのに、少女漫画見せられてる気分だ。ちなみにそのあたりからかうと滅茶苦茶キレるから気を付けてね」

 

「はぁ」

 

 良く分からないが、忠告には従っておくことにする。

 次に会った時は触れないようにしよう。

 

「さて、それじゃあ」

 

 艦長が入ってきた扉に向けて手を広げる。

 

「ここは僕の部屋でね。他のメンバーは別で集まっているからそちらに行こう。―――ノーチラス、操舵は任せたよ」

 

『畏まりました、艦長』

 

「わっ、凄い」

 

 電子音声に驚きながら部屋を出て、さっきまでの道を戻り、さらに別の通路へ。

 そして、いくつかの通路とゲートを潜り抜けた先は、ラウンジバーのようなところだった。

 内装はかつて前世の時代にもありそうな高級そうなカウンターバーといくつかのテーブル。

 そこに、数人の男女がいた。

 勇者と同じように鎧の者もいれば、和装の人も。特撮か何かのような機械のアーマーもいれば、パーカーにデニムというラフな現代スタイルの者もいる。

 彼らを背にし、艦長が手を広げ、

 

「さぁ、敵の話も大事だがまずは味方の話といこう。ようこそ、多元宇宙の守護者にして、世界を繋ぐもの――――≪ネクサス≫へ」

 

 絆、連結、繋がりを意味する言葉―――ネクサス。

 そして、

 

「まずは新入りの君から挨拶を」

 

「はい!!」

 

「わぁ素直」

 

 背筋を伸ばし、左手は聖剣の柄に添え、右手は程よく膨らんだ右胸に。

 

「何が何だか良く分かりませんが、任されたからにはやり遂げます!ついさっき自分の世界は救ってきたので、他の世界を救える力があるのならば、全力で振るいましょう!」

 

 それが、彼女の道の歩き方だから。

 

「座右の銘、モットーは、理不尽に未来を奪われるのは納得しない!」

 

 かつて――――理不尽に全てを奪われたから。

 そして一度、自分の手で台無しにしたから。

 後悔だらけの前世だけど、奇跡のように掴んだもう一度の生。

 勇者に選ばれた。だから世界を救った。

 今度は≪ネクサス≫とやらに選ばれた。だったら宇宙を守ろう。

 それが今、彼女にできることだから。

 

「ロータス」

 

 それが今の己を示す名前。

 蓮華。

 救済の意味を持つ花。

 

「勇者、ロータス・ストラスフィア! 頑張れる限り頑張ります!」

 

 

 

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