第4話 集まる参加者達!! 前

 ◆◆◆◆◆◆◆




「ん? 何です? 知らない人からのDMですね⋯⋯えーっと⋯⋯規格外の逸物を持つ男性争奪ゲームへの御招待、但し生命の保証は御座いません。ですか、気持ち悪いですわね」


 黒と白のゴスロリ服に身を包んだランドセルを背負った童女が、スマートフォンの通知に気付き、確認すると何かしらの招待状のようなタイトルを見て訝しげに首を傾ける。


「⋯⋯十中八九詐欺だってわかるのに」


 彼女は天才だった。天才故に緩やかに滅びへと向かっていくこの世界に退屈を感じていた。そして、百合だった。が、この子にも確かに貞操逆転世界のDNAが刻まれていた。備わった本能が、このDMのスルーを許さない。


 本文はURL、それだけ。


「お母様でもコレには引っ掛かるでしょうから、もし詐欺でも笑って許して下さるわ」


 口ではなんやかんや言い訳しつつも、その指は躊躇いなくURLを押してしまった―――


 ゴスロリランドセル、エントリー完了




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 古びたビルの一室で女の怒声と女の悲鳴が交互に聞こえてきてくる。


「おい!! 豚よぉ⋯⋯おめぇちゃんと言いつけ通りにクリを伸ばしてきただろうなぁコラァ!!」


 金と黒のストライプのロングヘアーを振り回すヤンキー女が、眼鏡を掛けたスレンダー女の髪を鷲掴みにしながらがなり立てていた。

 文面からの想像になるが⋯⋯ヤンキー女は眼鏡スレンダーのクリを伸ばし、チ〇ポの代用にしようとしているのでは無いだろうか? 狂っておられる。


「無理よっ!! たった三日で出来る訳ないじゃない!! アンタなら出来るの??? ふんっ、もういいわよ!! 出来なかったら殺すんでしょ? さっさと殺しなよ!! さぁ!! さぁ!!!!」


 被害者と加害者の関係なのだろう。

 目に涙を浮かべながらだが、睨み殺す勢いでヤンキー女に対峙している眼鏡スレンダー。

 三日で身体改造が出来る訳もなく、ブチ切れてガン開き直った眼鏡スレンダーの勢いが強く、何時もの勢いが無くなっていくヤンキー女。


「クッ⋯⋯豚のクセに⋯⋯チィッ⋯⋯一週間、やる。それまでにやってクリ伸ばしておけ、豚がっ」


 自分に従順で人畜無害な小型犬の突然のブチ切れ反抗、これにビビらない人居る? 居ねぇよなぁ!?

 誰しもが似たような経験があると思う。死にかけの蝉の悪足掻き、自分の身や肉を美味しく食われて堪るかという気迫の寄生虫アタック、追い詰められて顔面へ向かい飛び込んでくるゴキブリなどなど、思いもしていなかった反抗は人を怯えさせるのだ。

 コレが功を奏し、眼鏡女はヤンキー女を撤退させる事に成功した。人間、死ぬ気になればやれない事はないのである。成功するとは限らない、が。


「アハハハッ!! あの高慢ちきなブサイクが!! あたしなんかにビビって逃げたわ!! アハハハハハハハハッ」


 怖くて、怖くて、怖くて⋯⋯怖くてしかたなかったアレが、逃げた。いつもいつもいつもいつも、事ある毎にぶち殺すなんて言いながら、だ。


「あーはははは⋯⋯ん?」


 楽しい気分に浸っていたが、それを中断させる大好きなBLアニメの曲が流れる。着信音が鳴る設定にはしていないのに⋯⋯


「なによ⋯⋯は?」


《規格外の逸物を持つ男性争奪ゲームへの御招待》


 嘘と即座に理解。


 これは、詐欺⋯⋯ッ!!


 しかしッ!! このタイトル悪魔的だ⋯⋯ッッ!!



 押した。それはもう、滑らかで最小限、最短な動きでURLを押した。アレを退けた今の私には、もう何も怖い物などない、と。


 眼鏡スレンダー、エントリー完了




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「クッッッソがァァァ!!!!」


 ガシャーン


 怒りに任せて蹴り倒したゴミ箱が、中身である缶を派手にバラ撒き騒音を立てた。


「クソがっ!!!」


 メキャッ


「クソがっ!!!」


 ガシャーン


「クソがっ!!!」


 ビチャァッ


「あ゛ぁぁぁぁぁぁ!!!


 散らばった缶を踏み潰し、ビンの詰まったゴミ箱を投げ捨て、生ゴミの袋を壁に投げつける。それでも尚、怒りが治まらず、雌叫びを上げる。


「クソッッッ!! どっかに男落ちてねぇか!!」


 落ちている可能性は、皆無。そう頭では理解しているが、それでもそう思わずには居られないほどに腸が煮えくり返っていた。その時、僥倖とも言える一通のDMがヤンキー女のスマートフォンへと届いた。


 むしゃくしゃしていたヤンキー女は、それを見て、一も二もなく飛び付いた。


 降って湧いた幸運に、だらしなく口を歪めながら。


 ヤンキー女、エントリー完了。




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 力の無い足取りで帰路につく、窶れて萎びた女。


 左手には半額シールの貼られたお惣菜、朝用のペラい食パン、翌日の昼用のこれまた半額シールの貼られた惣菜パン、とりあえずアルコールさえ摂取出来ればいい人種が嗜むウイスキー、棚卸しの為に値引かれていた缶チューハイ多数の入った重いエコバッグを引っ提げている。


「あのクソ使えねぇ年季だけは立派な上司⋯⋯合法的に殺せないかしら」


 右手に缶チューハイをセットしながら物騒な事を口に出す程、その上司からのパワーハラスメントに苦労していた。


「何よ、長年応援していた男性演歌歌手が若い女と契約したってニュース見たくらいでヒスりやがって」


 南大陸みなみたいりく 六郎ろくろう 御歳66歳。


 野郎が天然記念物なこの世の中では珍しく16歳から芸能界入りし、老若女幅広い世代から圧倒的な支持を得ている芸能界の重鎮。男からも己から目を逸らすデコイとして一定の支持がある稀有な存在。

 クソみたいに高い年会費を払い、応募にすら金の掛かる年二回のゲロ吐きそうな程高い倍率と料金のディナークルーズへ応募し、コンサートのチケットの販売日には仕事をサボって戦に赴き、それに敗戦すればオークションに血肉を注ぐ女郎が世に溢れているくらいの人気者だもの。いつもボランティアで資金力に物を言わせる老害共を相手にしてんだから若い女くらい囲わせてやれよと思う。


 まぁそんなド大物の衝撃的な発表が三日前にあった訳で、その余波でワタシは今、こうなっている。

 阿鼻叫喚となったババア共が仕事なんて出来るはずもなく、愚痴を吐き散らかしながら邪魔をしてくるのである。本当にやってらんねぇよ。


「ゴクッゴクッゴクッ⋯⋯ッカァァァァッ!! 畜生めっ!! 分を弁えろ、分を。てめぇらみてぇなヤツらに男が靡く訳ねぇだろがっ!!!」


 最寄り駅から徒歩十五分の自宅へ帰る途中だが、既に空けた缶チューハイは五本。大卒で入社し勤続十六年、ちょっと肝臓がアレだから酒を控えるようにとついこの間健康診断で言われたアラフォーはその事を頭からニフ〇ムして飲む。飲む。飲む。


「飲まなきゃやってらんねぇ!!!」


 酒カスアラフォー、魂の慟哭。その大声に驚いた飼い犬たちが一斉に吠えだしたりもしたとかしないとか。



 その後家に無事に着き、立派な酔いどれになった彼女はスマートフォンに来ていた通知を見て、酔っ払いーズハイのままURLを押して⋯⋯リビングの入り口で倒れるように寝た。


 酒カスアラフォー、エントリー完了




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 JK男装歌劇グループ『薔薇ローズ』


 ジャ〇ーズとA〇Bグループと宝〇歌劇団のハイブリッドのような集団有りけり。


 毎年全国各地から男装の麗人を100名JCから集めた『薔薇の蕾』、その中から過酷な下積みとレッスンとランキングを繰り返す事三年、JCからJKへと成る段階で総選挙を行い、選ばれた49名が晴れて『薔薇ローズ』へと進む事が出来る。


 残念ながら総選挙で選ばれなかった51名の活動はそこで終わり⋯⋯ではない。仮令選ばれなかったとしても、彼女達はエリートの中のエリートである。

 若い娘が味わうには残酷すぎる現実と屈辱を、それらをバネにしてでも成長しようとする気概のある女の子達には後日、『薔薇の棘』と云うグループに招待される。

 残念ながらあくまで選ばれなかった者達なので『薔薇ローズ』のように大っぴらには宣伝される事はない。

 ⋯⋯ないのだが、水面下での活動はかなり活発に行っており、さながらそれはメジャーでは知名度は然程無いが、熱量のバグったコアなファンを一定数抱えるインディーズバンドや地下アイドルのような存在となっている。所謂知る人ぞ知るの真骨頂のような物であった。

 人によっては『本家よりもアツい』だとか『寧ろ棘の方を嗜んでこその薔薇』とも言われている。


 さて、そんな『棘』の一員。


 人呼んで“邪悪役令息”の異名を持つ少女が居た。


 彼女は持ち前のドギツイ目付きとツルペタストーンの長身、言いたい事を素直に言えるポイズンマウスを併せ持つハイブリッドヴィランとして、それはそれはもう、コアッコアなファンを抱えているのである。


 そんな彼女の唯一の悩み、それは⋯⋯


「なんでッッ⋯⋯なんで男装していない素の姿を“女装”って言われなきゃならないのよッッ!!!!」


 ―――これであった。


 しかしその慟哭も、彼女のファンが聞けば『嗚呼、女の子っぽい喋り方に目覚めたのね⋯⋯微笑ましいけど嘆かわしいわ。ハスキーな低音ボイスで耳が孕みそうになるけれど、ギャップが大きすぎで脳が混乱しますわ』的な事を言われてしまう始末。

 ぶっちゃけると、既にメンバーから似たような事を普通に言われている始末。


「ゴリッゴリに甘い格好の女の子のファンを獲得するよりも、素敵な殿方に見初められたいのにっ⋯⋯ワタクシだって女の子なのですわよっ!!!」


 元々、望んでいた訳ではない。ジャ〇ーズ事務所へ勝手に親戚や身内が応募するアレと似たような経緯で『蕾』となり、思春期真っ只中の女子特有の陰険さの渦巻く魔境へ放り込まれた彼女は、あの陰険女に共は負けたくないと嫌がらせの数々にブチ切れ、今に至っている。途中で冷静になった時にはもう手遅れであった。


 心の疲労が既にピークに達していた彼女は、先の女装問題で精神が圧し折れてしまい遣り処の無い怒りの行き場を無くしていた。


 ピロン―――


 そんな時に彼女の元へ届いた、例のアレ。


 手を拱いていても殿方が来ないなら、自分から動けばいいじゃない⋯⋯と、URLを押す。もし詐欺でも金ならば引く程ファンから貢がれているから問題は無いのであった。


 邪悪役令息ガール、エントリー完了

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