制裁という名の私刑

「うふふ〜見つけたわ」

強盗のアジトと見られる場所。

貧民街の中である。


オスカーはここでは目立つ格好で走り抜けてきたが、誰も彼に目を向けることはない。


先に情報が伝わり、逃げられては困ると一応認識阻害の魔法を掛けて気配を消していた。


「木造建築…いいわねぇ」

右手で剣を抜き、左手にはポケットから出した植物の種。

パラパラとそれを地面に落とすと地響きと共に土が盛り上がる。

木造の建物からは悲鳴と怒号が聞こえてきた、ギシギシと建物が軋む音が響く。


周囲からは訝しげな目線。

暫しして静かになると、誰も彼もが視線を外し、通常に戻る。


触らぬ神にたたりなしだ。




「オーホホホッ、たっぷりと甚振るわよ」

オスカーはダンっとドアを蹴り開ける。


既に歪んでしまったドアには鍵など意味を為さない。


「た、助けてくれ!」


中には数人の男共。

身動きが取れないよう木や蔦が絡まり、誰も彼もが動けないようだ。


「あらあら、助けに来たように見える?アタシあんた達を捕まえに来たのよ、わかってるかしら」



まずは店を襲った実行犯から。


オスカーの刃は男の肩を貫いた。

「ぎゃあああぁっ!」


「これくらいどうってことないわよ。あれだけ店を荒らしたんだもの、恨まれるってわかってたでしょうが」

グリグリと剣を押し込んでいく。


「やめっ、やめてくれ!俺が、悪かった!頼まれたんだ!」

激痛に男は逃げようとするが、身動き1つ取れない。


「あぁ証言は後でして頂戴。今は私刑の時間、アタシのデザイナーを傷つけたのだから許されないわよ」

剣を引き抜くと、今度は違う男に向かう。


オスカーが左手を翳すと男達を締めつける力が強まった。

「物を作るって、創造するって、凄く大変な事なのよ。それをあんた達はあんな事をしてメィリィを傷つけて、二度と創れなくなったらどう責任持つ気?アタシ許さないからね」


クリエイターはとても繊細だ。

こんな事件があってはメィリィも落ち込んでしまう。


「どうせあんた達はお金で雇われたんでしょ。お金は大事だけど、この世にはお金よりもっと素晴らしいものがあるわ。

女の子の希望なんて、その最たるものよ」


オスカーは新たな種子を取り出して、ふっと息をかけた。

軽いそれは男達に向かい飛んでいく。


「死なない程度に苦しんで頂戴」


「あっ、がっ?!」


苦しみか痛みか、もがき始めた。

細い蔓が男達の体に潜り、喰い込んでいく。


「ねぇ、キール。後始末はよろしくね」

『わかった…』


通信石にて全てを見ていたキールは言葉少なく答えた。


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