オネェ騎士はドレスがお好き

しろねこ。

いらっしゃいませ

「いらっしゃいませ」


一人の長身の男が入ってきた。


ここはドレスを扱う店だ。

男性一人で来るということはプレゼントだろうか?


「どのような物をお探しでしょうか?」

貴族向けのドレス売場である、値段はけして安くはない。


「普段着用に欲しくてね。少し見ていて構わないか?」

白い髪をし、毛先はピンク色をした、目立つ容貌の人だ。

腰には帯剣をしており、胸元にはキレイな薔薇が刺さっている。

顔にもメイクが施されており、黒い服に金糸で刺繍されたその服は騎士服だ。

目元の紫のアイライナーが目を引く。


「オーナー、どうしましょう?」

こそっと店員とオーナーが陰から男性を観察していた。

あからさまに普通の人ではなさそうだ。


「あらあらぁ、今のところ普通のお客様なのだから、様子を見ましょうねぇ」

たまたま視察に来てたメィリィがおっとりと答える。


見た目はどうであれ、真剣にドレスを見てくれている。

自分がデザインしたものを見てくれてるとは嬉しい。


「少しお話してみたいですねぇ」

間近で感想を聞けるのではとうずうずしてしまう。


「お待ち下さいメィリィ様、まだ良い人とは、決まってませんよ?」

商売敵のデザインを盗りに来たものかもしれないと、制された。


「そうですねぇ、ようやく軌道に乗ってきたのものねぇ」


友達がメィリィのデザインしたドレスをパーティで毎回着用してくれるため、認知度が上がっている。


そのおかげで、ちらほらと注文が増え始めているのだ




カランカランとドアベルが鳴る。

新たな客だ。


「こちらのドレス、どういうことだ?!」

怒鳴りながら持ち込まれたのは一着のドレス。


怒りに満ち溢れた貴族の男性と、その細君だろうか。

女性がさめざめと涙を流している。


「こちらのドレスに針が残っていて、妻が怪我をした。どう責任を取ってくれるのか」

「あらまぁ」

メィリィは陰からそれを聞いて驚く。


「申し訳ございません、こちらで詳しくお話をお聞きしますので…」

店長のリザが丁寧に応接室へと促す。


男はドン!とカウンターを叩いた。


「この店は、こんな不良品を売りつけてもみ消そうと言うのか!」

そんな話はしていないと、メィリィは眉を顰める。

店の客の目線が男に集まる。


「そうではありません、落ち着いて下さい」

「では、ここで良かろう。他の客にも知ってもらわねば困る。このようなドレスを高額で売って無かったことにされては他の客だって嫌だろうし。それに妻は怪我をしたのだから、それ相応の賠償を約束してもらわねば納得いかん!」


隠蔽するなという事か。


リザが宥めようとするが、男は更にヒートアップしている。

夫人は泣く素振りをしながら、店のドレスをちらちらと見ていた。


「償いの証として、このドレスの代金の返却と、妻の望むドレスを数着頂ければ裁判まではしないでおこう」


あぁ…たかりか。


メィリィはため息をつく。


金が欲しいという事がありありだ。

確かにメィリィの店のドレスは高い。

しかし高いものには理由がある。


「お話中、失礼しますぅ」

リザと男の間に割って入った。


「あなたは誰ですか?」

「私はメィリィと申しますぅ、この店のオーナーですわぁ。お話を聞いていたのですが、ドレスに針があったという事ですわよねぇ?」

「そうだ、このドレスに」


男が見せたのは確かにこの店のドレス。


夫人の腕には包帯が巻かれている。


「痛々しいですねぇ。針が刺さったのですかぁ?」

「着ている時に裂かれるような痛みが走って…痛かったですわ」

わっと声を上げて泣かれる。


「痛ましいですわぁ、ちなみにその針はどちらに?」

「これだ」

渡されたのは変哲もない普通の縫い針。


「これはうちのじゃないですよねぇ」

メィリィは笑いながら針を返した。


「何を言う、これは確かにこのドレスから…」

「うちの針は全部ナンバーがついた特注品なのでぇ、こんな普通のは使ってませんわぁ。それに針は全てお店で管理してますものぉ、無くなったという報告はありませんよねぇ?」

「ええ、確認されてません」

リザは硬い口調で返す。


「御婦人、些かドレスのデザインが変わっていますわぁ。つまり、ご自身の針子に追加の刺繍を頼んだ覚えはございません?」

ハッとした表情。


「こちら全て私がデザインし、監修しておりますので覚えておりますぅ。このようなところに、刺繍をさせた覚えはありませんのぉ。ですから…うちの店のせいではないですわねぇ」


メィリィはドレスを手にする。

「本来ならば、ドレスに手を加えた場合返品は出来ないのですが、この子が可哀想ですぅ。代金をお返ししますので、ドレスはこちらで受け取りますわぁ」

愛おしそうにメィリィはドレスを持つと、リザにそう頼む。

すぐさま帳簿に目を通し、代金を調べ、男性に渡した。


「お待ち下さい、それは私のドレスで…」

名残惜しいのか夫人は返してほしそうだ。


メィリィのデザインはこれから流行るかもしれないのだ。

生地だって上質なものを使っている、一着持ってて損はない。


「あなたのような方に、私のドレスは渡したくありませんわ」

つんとメィリィはそっぽを向く。


「ちょっと待ってくれ、これは返すから」

代金を渡そうとするが、メィリィは受け取らない。

「お金じゃないんですのよぉ、こちらは私の大事な子達です。どうぞお引取りを」

「この…!」


無理矢理ドレスを奪おうとする男性にメィリィは思わず引っ張られる。

「きゃっ!」

「お待ち」


男性を止めたのは先程の派手な騎士だ。


「レディには優しくよ。ドレスにもね」

男性の腕を握って止めたようだ。

騎士が力を込めたのか、男性の表情は歪む。


「あのね、デザインするってとっても大変なの。それを商品として完成させるのは、もっと大変。その大変な中生み出した作品は我が子同然よ、あんたみたいな難癖野郎に渡すわけ無いじゃない」

フッと騎士は笑った。


侮辱の笑みだ。

「貴様…!」

「帰りなさい、今日は見逃してあげるわ」


騎士が剣に手をかけたのを見て、そそくさと二人は帰っていった。


「ありがとうございますぅ、助かりましたわぁ」

「いいのよ、こんな可憐な女性があんな男に挑むなんてびっくりしたわ。あなた度胸があるのね」


不思議な口調だ。


メィリィはニコニコと笑みを崩さない。


「必死でしたわぁ。ドレスが破けたら困りますものぅ」

殴られたら憲兵行きに出来たし、怪我は友達が凄腕の治癒師なのであまり問題にはしていなかった。


ただドレスは破けると直すのが難しい。


「ドレス好きなのねぇ、このデザイン素敵よ」

男から守ったドレスを褒められる。

「嬉しいですわぁ。でもこちらさすがにこのままにはしておけないので、リメイクしますぅ」

手を加えられたし、自分用にするしかない。


「アタシが買い取るから、アレンジしてプレゼントさせて貰っていいかしら?」

騎士から言われたのは思いもがけない事だった。

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