第6話 また自宅


「なんでこうなった?」


 正人は疑問を口にしながら、自宅のキッチンで豆腐をカットする。


 一方、女性はテーブルのイスに着席する。


 女性は正人の腕を掴んだ後、「1人にしないで」と頼み込んだ。


 ナンパ男達の前では堂々していたが、実はかなりの恐怖を覚えていたらしい。


 正人はその際、わずかな動揺を感じたが、すぐに平静を取り戻した。それから、途中まで帰るように促した。


 しかし、正人が自宅に到着すると、女性は「家で1人になりたくない」と力強く訴えた。その時の女性の目は明らかに恐怖を帯びていた。


 突き放すわけにもいかなかった。そのため、正人は以前の麗奈のように女性を自宅に入れた。


 そして、今に至る。


「自己紹介をまだしてなかったね。俺は堀江正人。岡本大学経営学部の2年生だ」


 正人は豆腐2丁分を切り終わったタイミングで女性に対して自己紹介を行った。


「私は仲間理佐(なかま りさ)。あなたと同じく岡本大学に所属しているわ。教育学部だけどね」


 女性は凛とした態度をキープしながら正人に倣って自己紹介をした。


 女性は普段と思しき態度だけは崩したくないらしい。その証拠に口調は堂々としたものだった。おそらく、頑張って普段の態度をキープしているのだろう。


「今気になったことだけど、夕ご飯とかもう食べた?」


 正人は麻婆豆腐の素がインされた箱を開ける。


「夕ご飯?まだ食べてないけど」


 理佐は頬杖をつきながら、答える。


 正人はさっきと態度が大違いだな、と心の中でつぶやく。


「了解。それじゃあ、君の分も料理を作るよ」


 正人はフライパンに箱の説明通りに麻婆豆腐の素を作り終わった。


 フライパンには赤とオレンジが混ざったような麻婆豆腐の素があった。


「よっと!」


 正人はカットした豆腐をフライパンに投入する。その結果、豆腐に火が通り始める。


「麻婆豆腐を炒めてる間に味噌汁を作らないとな」


 正人は冷蔵庫から味噌を取り出すなり、レジ袋に存在する油揚げや野菜ミックスをキッチンの台に置いた。


 正人は野菜ミックスをザルに流し込み、少しの時間、水道水で洗った。


 油揚げも小さくカットする。


 目的の作業が終了したため、味噌汁用の鍋の中に適当に(多すぎず少なすぎず)水を入れる。


 それから、鍋に野菜ミックスを投入して火を通す。現在、IHコンロには1つのフライパンと1つの味噌汁用の鍋が居を構える。


 数分後、鍋がぶくぶくと沸騰し始めた。そのため、正人は油揚げを鍋に入れた。


「おっと、麻婆豆腐も沸騰してきたな」


 正人は麻婆豆腐のサイドの火を止める。麻婆豆腐は完成した合図だ。


「もう少しでも全て完成するな」


 正人は味噌汁をちらりと一瞥してから炊飯器を開放した。中には出来立てほかほかのご飯が湯気を遠慮なしに吐き出していた。


「それで2人分を用意して」


 正人はしゃもじを用いて2つの茶碗に米を適量盛る。


「そろそろいいかな」


 正人は未だに沸騰する味噌汁の火を止める。


「よし。最後は入れるだけだな」


 正人は麻婆豆腐をお皿に味噌汁をお椀にそれぞれ丁寧に盛った。


 それから、麻婆豆腐、味噌汁、ご飯を順番にテーブルに置きに行った。正人の分と理佐の分を。


「はい。できた!」


 正人は全ての準備が完成したところで、わずかに興奮した声をあげた。


 テーブルには湯気を上昇させる料理達がある。


「では。どうぞ!」


 正人は理沙の目を見つめながら、前に手を差し出した。

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