栗林怜子の思い出話

@Yu1ki7ha

第1話

栗林怜子の青春は貧しい青春だった。それと同時に、輝く青春でもあった。

 怜子は三人兄弟の長女として生まれ、裕福とは程遠い家庭で育てられた。怜子の成長過程に親の愛は欠けていないが、やはり怜子やその妹の裕子よりも、一番下の雄太の方が愛されていた。古来の男女観念が深く影響していた。

 怜子を一番かわいがっていたのはむしろ祖父のほうだ。怜子が子供のころ、よく祖父に呼び出され、お菓子をもらっていたらしい。しかも妹や弟たちにバレないように隠れて食べてって言われていた。いざという時は、祖父が身を挺して怜子を隠して、その背後に怜子がむしゃむしゃしていたという。食いしん坊の性格はこの時にできたかもしれない。

 二年前に、その祖父が亡くなった。もう90をこえた老人だから、天命を迎えたと怜子が受け取ったのか、母が死んだときのように泣きわめくことはなかった。私もその葬式に出たが、白衣を着て祖父の遺体に最後の別れをつけていた怜子は、穏やかな表情を浮かんでいた。少し笑みを浮かべていたようにも思うが、きっと子供のころのことを思い出して、おかしくなっていたんだろう。

 ちなみにその葬式の現場は、法事を営む人の声と麻雀やポーカーをやっている人の声が混ざりあってざわめいたので、私にはどうしても落ち着けなかった。最悪な葬式ですら思ったが、それも私には怜子のような思い出がなかったからだろう。

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