第16話

 発進した時と同じように、静かにバンは止まった。車に乗っていた時間はそれほど長くなかった。街灯の無い道は暗く、ここが一体どこかは分からなかった。でも、何となく見覚えのある景色な気がしていた。


「まだ降りないよーにねぇ。」


 そう言われて、開閉レバーに触れていた手を放す。窓はあけていいよ、と言われたので軽く開ける。少し開いた窓から外の様子を覗く。五角形の形を取った石畳の広場、頂点の場所に位置している天を仰ぐ銅像、周囲を囲むように立つ赤レンガの建築。どれをとっても見覚えのある光景だった。まるで私が通っているT大学だった。ただ、それは今の状況とあまりにも噛み合わなくて、口にするのは憚られた。口をつぐむ私に変わって、ミヤコさんが上機嫌に言う。


「ここはT大学。通ってるなら驚いたでしょ。」

「はい。でも、どうして、大学に?」


 私の問いにミヤコさんが答える前に、ガゴン、と車体が揺れた。そのまま周りの景色が上に昇っていく。いや、身体に少し浮遊感がある。周りが上がっているのではなく、自分達が下がっているのだ。何故、どうして? いや、どうやって?

 シートベルトを両手で握りしめる私を見ながら、ミヤコさんは嬉しそうに、そして自信ありげにしていた。サプライズが成功して嬉しいらしい。


「もちろん、ここにボクらの秘密基地があるからさ。」


 その言葉と共に、車体の降下が停止した。同時に正面の扉が開き、鉄製の格納庫が現れる。下の台座が移動し、収納される。


「な、何ですかこれっ!?」

「「ミヤコさん、お帰りなさい。」」

「にゃはは、ただいまぁ。」


 私達の到着と共に、何人かの職員らしき人間が何人か現れた。背後にある扉がしまったのを確認してから、ミヤコさんから降車の許可が下りた。乗せた時と同じように、葵さんを運び出す。司令官幼女に関しては、所定の手続きがある、ということで車に残すことになった。ミヤコさんも見張ると言って、私だけが職員達と葵さんを診療所へ運ぶことになった。

 分厚い鉄扉を抜けながら、車庫に残ったミヤコさんの方を見る。具体的には、ミヤコさんが言っていた、屋根上にいる人を探していた。でも、それに該当する人間はどこにもいなかった。嘘をつかれていたのだろうか。けしてそんな風には見えなかったけれど。そうこうしている内に扉は閉まり、ミヤコさんは見えなくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る