優しくしてたヒロインに刺し殺されたので二周目からは合理的にいく〜従来のテンプレ転生とは一線を画する誰もが模範とすべき合理的異世界生活譚〜

@childlen

第1話︰腐れ柿が渋柿を笑う


コンビニにカップアイスを買いにいった帰り道、アクセル全開のダンプカーが歩道めがけて突っ込んできた。

自分の体が軽く十メートルくらい吹っ飛び地面にバウンドする次の瞬間、俺は知らない町なかにつっ立っていた。

都心のような賑わいを見せる街角は妙に中世風のつくりをしていて、行き交う人々はだいたい2割くらいがケモ耳だ。

時間は夜。全身を撫でるような肌寒さで、綿のようなふわふわした大きな雪がゆっくりゆっくり降りてきている。


「ふむ……つまりこれは『異世界転生』ってことだな?」


たもう瑛人、十五歳。

ついこの間卒業した中学校において最後まで成績トップを維持していた天才性があっという間に置かれた状況を導き出した。


異世界転生──現代日本で死んだ老若男女が何故か異次元のファンタジー世界にて復活。チートスキルやそこそこの優しさを武器に無双を繰り返し、一月くらいで王族にまで成り上がるパターンのことを指す言葉だ。

近年のナウなヤングにバカウケの概念でありいくつかのWEBサイトにて特に盛り上がりを見せている。


「はぁ……やれやれ……まさかこの俺が異世界転生なんてなぁ……」


思わず額に手を当て首を振る。

憂鬱な態度の理由は簡単。週に十五時間は異世界転生を読みあさることを習慣としている俺だが、数千数万という作品に触れてきて、徐々に胸のうちに一つの考えが浮かんできた。


お話のパターンがあまりにも陳腐すぎやしないか、と。


「さあさあ、皆様ご注目ください!今となっては珍しいエルフ族の少女でございます!」


と、突如街中に大きな声が響き渡る。

声の方向を見てみるとそこには小太りの商人が一人いて、鎖をぐいぐいと引っ張っている。

鎖が繋がれているのは一人の少女の首輪である。綺麗な金の髪と透き通るような肌をした小さな可愛い女の子。

ボロ布のような服を着せられ両手にも手枷がつけられ、鎖を引かれる度に大きくグラつき、体にはあちこち痣があり、生気を失った目をしながら、道行く人の見世物にされている。

目に見えて衰弱している彼女は、どこからどう見ても売りに出されている奴隷であった。


「………………ほら来たよこのパターン。いい加減飽き飽きしてるんだよなぁこっちとしては」


一から十まで既視感のある展開に辟易とする。


俺が前々から異世界転生ものに抱いていた不満……それは『合理性の欠如』である。

『奴隷として売られる可憐な少女』……これに対面した時の主人公の行動は大きくわけて二つ。『なんて可哀想なんだ……!いま助けるぞ!』といった優男パターンと、『ふん、目下の労働力が必要だっただけだ……』の雇用主パターン。

どちらも買い取った奴隷をそこそこにもてなし好意を寄せられるまでがお決まりのところ。


俺から言わせてみれば、どちらも全くお話にならない。

本当に奴隷の身を案じるのであれば、奴隷を買うことは奴隷商を潤わせ更なる奴隷を生むことに気がつくはず。

本当に労働力を求めているのだとすれば栄養状態のいい屈強な男を雇う。衰弱した女子など候補にあがるわけがない。


掲げる目的がどうであれ、まともな脳みそをしているならばこの状況で奴隷を買うのはありえない。ラブコメに脳を溶かされた哀れなチンパンジーとでも評するべきか。

結局のところ、どいつもこいつも頭が悪いのだ。


「はぁ……くだらねぇ……」


あまりの馬鹿馬鹿しさに思わず息を吐く。

実際に異世界転生した身であっても、そんな真似ができるほど恥知らずではない。


だから────俺は『合理的』にいく。

世間に蔓延る凡庸な異世界転生とは違う、合理を突き詰めた理知的な生き方でこのファンタジー世界で成り上がってやる。


深い決意を立てた俺の手のひらは、自然と力強く握りしめられていた。


「…………で、そうなるとまずは現状確認だよな。服装は異世界チックな感じに修正されてるみたいだけど……?」


自分の体をまさぐってみると、懐に小さな革袋が入っていた。

紐をほどいてみると中に銀貨が十枚入っている。


「持ち物はこれだけか……うーん、銀貨の価値がわからない以上なんとも言えねえな。情報収集が最優」

「こちらの奴隷、銀貨八枚、銀貨八枚での取引とさせていただきます!躾は十分に済ませております!従順な下僕としてご安心してお使い頂ければと存じます!」

「…………チッ」


と、思考に大声が割り込んできて思わず舌打ちする。

見るとさっきの奴隷商が商品の喧伝を続けているらしい。


内容はどうでもいいがとにかくうるさい。騒音問題になりそうなわめき声だが道行く人は誰も気にしていない様子で、注意しようとする人は出てくる気配がない。


「…………………………はぁ……場所変えるか」


街の構造などわかるわけもないので、とりあえず叫ぶ奴隷商から反対方向へと向かうことに決め、異世界の一歩目を踏み出した。

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