第2話 ヒロインさん、出番です


 鑑定の儀から帰るとすぐに部屋へとこもって今後の方針を決めていく。

 大事なのは「確かな情報」と「圧倒的な力」を手に入れること。


あと、それとは別にひとつの目標を定めた。


 ――「堅実に生き抜いてこの世界を楽しむ」ということだ。


 ここは俺が生み出した世界ではあるが、今の俺は決して神ではない。


 もし本当に創造神としてこの世界に転生したとするならこんな死亡フラグだらけのヤツなんて即交代どころかそもそも選択肢に入れないからな。


 あと気になるのはどうしても出てくるであろうオリジナル要素だ。


 たとえば鑑定の儀で世話になった神官だが、俺はこんなキャラを作っていない。

 

神官だけじゃない。

 

この世界に暮らしているすべての人の誕生から現在に至るまでの細かなデータまではさすがに手つかずだった。


 にもかかわらず俺の知らない人が生き、俺の知らない歴史が紡がれている。


 つまり、今後俺の知らない情報が出てくる可能性も大いにあると分析できるのだ。


 以上のことから、今後死亡フラグを回避して生きるために「確かな情報」と「圧倒的な力」というふたつが重要になってくると考える。


 それさえ入手できれば動きやすくなるってものだ。


 どこまで忠実に再現されているのか。

 どんなオリジナル要素があるのか。


 そう考えると今から凄くワクワクしてくる。


 これらを実現させるためにも、まず情報を集めて尚且つ実力を磨く必要があるのだ。

 ――っと、死亡フラグ回避をきちんとやっていかなくちゃな。



  ◇◇◇


 翌日。


 記念すべき(?)最初の死亡フラグとは屋敷の庭園で初めて顔を合わせた。

 現在は両親の計らいによって生まれた、いわゆる「あとは若い者同士で」っていう状況であり、一緒に屋敷内の庭園を見て回ろうという話になった。


 その前に軽く自己紹介をしておこうか。


「エナード・セロ・ガディウスだ。よろしく頼む」

「初めまして。テオリア・ジュナトスです」


 慇懃にお辞儀をした、同い年の女の子。


 腰まで伸びるライトブラウンの長い髪。

 ピジョンブラッドのルビーを彷彿とさせる赤い瞳。

 幼いながらもどこか完成された美しさを感じる美少女だ。


 ……うん。


 間違いなく俺がキャラデザをしたメインヒロインのひとりだ。


 彼女の家は俺と同じく御三家に数えられる国内でもトップクラスに力を持ったお家柄ということもあって事態はよく耳にしているらしく、親同士が決めた急な婚約といっても特に不思議がることなく受け入れているようだ。


 ――というのは建前だろう。


 実際はめちゃくちゃ嫌なんだろうな。

 目のハイライトが消えちゃってるし。

 あと、恋愛小説好きで「恋に恋する乙女」ってタイプの設定なんだよな、彼女。


 ゆえにゲーム内では主人公に対する愛が凄い。


 ていうか、ちょっと重い。

 もっといえばヤンデレ気質もある。

 聖女セイントなのに。


 当時の俺はこれこそ純愛だと躍起になってシナリオを書いていったが……いろいろ経験した今となってはところどころに若さと粗さが出ており、いわゆる理想的ヒロイン像をそのまま表したような存在となっている。


 だから、愛する主人公を殺そうとする俺を途中から憎むようになり、最終的には彼女の放った炎魔法によって黒焦げの消し炭になる。


これが【ハーレム要員END(テオリア編)】の流れだ。


 ただ、両親からすればガディウスとジュナトスの両家には強い結びつきをもっておきたい理由があった。


 御三家のひとつであるクロフォード家に対抗するためである。


 今、クロフォード家にはとんでもない天才がいる。

 俺たちよりもふたつ年上で、のちに学園の生徒会長に就任する子だ。

 ちなみに彼女も主人公のハーレム要員だったりする。


 ともかく、そのクロフォード家の天才令嬢が好き勝手やれないように手を組んだ形なのだ。

 

 ……原作者としては幸せになってもらいたいと心から願っている。


 そうなると、一番彼女が幸せな結末を迎えているのはハーレムルートなんだよな。

 こんな極悪貴族のもとに来るより、仲の良い他のヒロインたちと一緒に主人公とキャッキャウフフしていてくれた方が俺としても嬉しいのだ。


 主人公はできるヤツだからな。

 すべてのヒロインを満足させてくれるだろう。


 だから、俺は彼女にある提案をした。


「お互い苦労するな、テオリア」

「えっ?」

「家が大事なのは理解している……だが、実際に結婚する本人たちの意思を無視してまで推し進めるのはどうかと思うのだ。そんな結婚生活には必ず無理が生じる。俺は互いを思いやれない状態でともに暮らしていくことはできない」

「エ、エナード様……」


 よしよし。

 いい感じにこちらへ乗ってきそうだな。


「あと二年もすれば学園に通うようになるし、そうすればきっと他に好きな相手ができるだろう」


 もちろんその好きな相手というのは主人公のことだ。

 テオリアと主人公は学園で絆を深めていくエピソードが多いからな。


「もしそうなったら婚約は破棄してもらってもいい。何なら、今この場でやってくれても構わないぞ。理由については全面的に俺が悪いと伝えておいてくれ」

「そ、そんな、それでは――」

「クロフォード家の天才令嬢がどれほどの実力者であろうと、要は俺が彼女より優れていると証明できればいいのだ。そうすれば、わざわざ望まぬ結婚などしなくてもよい。だろう?」


 ジュナトス家の力を借りずとも、俺が闇魔法と特殊能力ギフテッドの力を駆使すれば件の天才令嬢にも必ず勝てると踏んでいた。

 

「おまえは自由に生きろ。由緒ある御三家の令嬢だからと人形のように親の言いなりとなる必要はない」


 そう告げると、なぜか彼女はクスクスと笑い出す。


「お優しいのですね、エナード様は」

「優しい? 俺が?」

「えぇ。私……あなたのことを誤解しておりました」

「誤解も何も、今日会ったばかりだろう?」

「ふふっ、そうでしたね」


 小さく笑ったテオリア。

 この調子ならあの話題を振っても大丈夫そうか。


「もうひとつ――これからは普通に話さないか?」

「普通、と言いますと?」

「敬語は禁止にして互いを呼び捨てにする」

「えぇっ!?」


 テオリアは驚いているが、俺としては逆に敬語で話をしてきたのが意外に感じていた。


「俺たちは同じ御三家に数えられている。立場としては上も下もない、対等な関係のはずだ」

「そ、それはそうですが……」

「本音を言えば、家族以外で対等に話し合える存在がほしかったんだ。俺の我儘に付き合わせてしまう形になるが」

「あっ、私も同じことをいつも考えていました。気兼ねなくお話しができる友だちがほしいなって」

「ならば俺と友だちになってくれないか?」


 我ながらナイスアイディアだと思う。

 良き友として互いに切磋琢磨し、テオリアは主人公と結ばれる。

 

 俺はその光景を原作者として近くから見守ろう。


 この提案にテオリアは食いついてくれた。

 入学までまだ時間はあるが、友たちがいてくれるというのは心強いな。


「今から学園で学ぶのが楽しみだ」

「私も。……けど、学園で好きな人はできないかも。というか、その必要はないかな?」

「何っ? どういう意味だ?」

「そのままの意味よ。それから、婚約破棄の件は保留ってことにさせて。いずれきちんと答えは出すから」


 えっ?

 それって主人公に対して恋愛フラグが立っていないってことか?


 いや、よく考えたらまだ出会ってないんだから当然か。


 しかし……なぜかテオリアは喜んでいるように見えるんだが?


「……本当に分からない?」

「あぁ」

「エナードって意外と――うぅん、やっぱり何でもない」

「おい。気になるところで話を止めるな」


 なぜか急にテンションが高くなるテオリア。

 うん。

 やはり強制的に婚約をさせられるのが気に入らず、それを自由に解消していいと聞いて安堵したようだな。


 目にハイライトも戻ったことだし。

 

 帰り際、テオリアからの提案により俺たちはしばらく使い魔を通して文通することにした。

 SNSやメールなんてないし、これもまた奥ゆかしくていいな。


 これを機にテオリアとは十分に友情を育んでいこう。



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