黒歴史転生 ~全ルートでもれなく殺される【闇属性】と【魔法創造】持ちのクズ貴族に転生した俺、ここが自作ゲームの世界だと気づいたので死亡&没落フラグを回避して堅実に生きようと思います~

鈴木竜一

第1話 転生先は自作ゲームの世界でした

 ふと頭の中に知らない記憶の数々が浮かび上がった。

 それらはあっという間に全身へと溶け込んでいき、当たり前のものとしてすんなりと定着する。


 ここはゲームの中――しかも、【ファンタジー・クエスト・メーカー】というソフトで俺自身が中高六年間という大事な青春時代を捧げて制作した完全オリジナルRPGの世界だ。


 俯いていた視線を正面へと向ける。

 目の前にはツルッパゲにいかにも牧師って感じの服装に身を包んだ老人がいた。


 彼の目の前にはなぜか大きな水晶玉が置かれていて、そこに映し出された自分の姿を見た瞬間、驚きのあまり絶句。


 サラサラの赤い髪。

 切れ味鋭い刃物のような目つき。

 でも全体的に整った顔立ち。


まだ幼いけど成長したら間違いなくイケメンになるだろう面構えだ。


……うん?

なんだかどっかで見たような?


ていうか――これが俺?


「なんじゃあああああこりゃあああああああ!?!?」

「ひいいいぃっ!? ど、どどど、どうされましたか、エナード様!? わ、わわ、わたくし何か粗相を!?」

「あっ! い、いや、なんでもありませんよ、アドル神官」

「あ、ああああ、あのエナード様が人の名前を覚えてしかも敬語まで!?」


 たまらず叫んでしまい、それに驚いたアドル神官は椅子から転げ落ちて涙目になる。


 まるで凶悪なモンスターに囲まれたような怯え方をする神官だが、自分が何者であったのかを思い出して一連のリアクションに納得がいった。


 エナード・セロ・ガディウス。

 アストラ王国でも有力貴族で通称・御三家の一角を担うガディウス公爵家の長男。


 才能に恵まれたが怠惰で傲慢な性格が災いし、人々から畏怖の対象として恐れられた。

 気に入らないものは徹底的に握りつぶす。


 それがエナード・セロ・ガディウスという人間。


 絵に描いたような悪役貴族――という設定で俺がキャラデザしたんだ。


 こいつはとにかく嫌なヤツで主人公がどんなルートを選ぼうが必ず死ぬようにフラグを立ててある。


「あれ?」


 そこで俺は気づいた。


 俺がエナードってことは……どう足掻いても死ぬ未来しかねぇ!?

 なんでよりによってこいつなんだよ!

 自分で作ったゲームなんだからせめて主人公にしてくれよ!


……落ち着け。

冷静になれ。


 これって確か魔力量、属性、特殊能力ギフテッドを診断する鑑定の儀だよな?


 ってことは、今のエナードは儀式を受ける年齢の十歳。

 こいつが殺される最短ルートでは年齢が十五歳だから、あと五年のうちに死ぬかもしれないのか!?


 ……けど、回避する方法はあるはずだ。


 幸い、ここは俺の自作ゲーム世界。

 俺の夢と理想を詰め込んだ世界だ。

 これからどんな事態が起こるのか、それは手に取るように分かる。


「あ、あの、エナード様……鑑定の儀を始めさせていただいてもよろしいでしょうか」

「っ! え、えぇ、どうぞ」

「ふぁあっ!?」


 今度はなんだよ!?


 ――って、そうか。


 今の俺はエナード・ガディウス。

幼少期から己の才能に酔いしれるクソ生意気なガキなんだから、あんな丁寧な返しではダメだ。


もっと偉そうに。

もっとふてぶてしく。


そういうキャラ設定にしたじゃないか……中二の夏に!


 それが鑑定の儀をきっかけに性格が激変したとなったら何事かと疑われてしまうかも。

 ここはエナードらしく振る舞うべきだな。


 慣れてきたら少しずつ態度を軟化させ、改心したと受けて入れてもらおう。

 でないと最短で五年後には殺されるからな。


 となれば、早速ミッション開始だ。


「しまったな……この俺らしくもなく少々緊張していたようだ。まあ、鑑定の儀で人生を大きく狂わされる者もいると聞くし、致し方ないか」

「えっ? 緊張? ああっ! 緊張しておられたのですね!」

「うん? 何をしている? さっさと始めろ。これ以上待たすというなら父上に頼んで貴様をこの大聖堂から追いだしてやるぞ!」


 そう言って、俺はドカッと両足を机の上に放り出してふんぞり返る。

 

「し、失礼しました。それでは始めさせていただきます」


こうして鑑定の儀は再開されたのだが、正直結果は分かっている。


 何せそうなるように設定したのは俺自身だからな。


 ――でも、ちょっと待てよ。


 もしその設定どおりだとすれば……


「ただいまより鑑定の儀を行います」


 神官が手をかざして魔力を込めた途端、水晶の色が変わっていく。

 

 まるで透明度の高い水に真っ黒な墨汁を混ぜ込んだような色合いとなった。


「ふむ。俺の属性は【闇】だな?」

「っ! その通りでございます! よくお分かりになりましたね」

「なんとなく、な」


 平静を装っているが、俺は内心でガッツポーズをしていた。

 やはりゲームのシナリオ通りに進んでいる。


 念のため、どういう属性なのか説明を聞いておこう。


「自分で言っておいてなんだが、炎や水といった属性に比べて闇というのは聞き慣れないな。どんな属性だ?」

「は、はい。先ほどエナード様がおっしゃられた自然界にある五つの属性をすべて自在に操れるのですが……少々問題がありまして」

「問題だと?」

「すべての属性を高威力で発動可能な一方、たとえば炎は青く、そして水は緑色など、通常の自然界にある力とは異なってしまい……もっと言えば、魔界における炎や水が魔法として生み出される対象となります」

「魔界にある自然界の力、か」


 ――うん。

 これも俺の設定通り。


 残りの鑑定結果もすべて俺の描いたシナリオ通りのものだった。


 まず魔力量。

 こいつは常人の十倍だという。


 神官は興奮気味に語るが、事前にネタバレを食らっている状態の俺にとってはさほど驚きはしない。

 むしろ大事なのはそのあとだ。

 

 俺が重要視している――特殊能力ギフテッドの鑑定結果である。


 しかし、これに関しては神官が言い淀んでいた。


「どうした? さっさと教えないか」

「その……【魔法創造クリエイト】というものでして」

「どういった特殊能力ギフテッドなんだ?」

「実は前例がなく、わたくしどもも詳しい内容までは……」


 申し訳なさそうにこちらの顔色をうかがいながら神官は話す。


 いつものエナードならここで嫌味のひとつでも言うのだろうが、これも俺が設定した内容と一緒だったので「分かった」のひと言で済ませる。


「しょ、詳細を説明しきれず、申し訳ありません」

「問題ない。むしろ自分でいろいろと調べることができる……俺としてはそちらの方が好ましいな」


 厳密に言うと説明は不要なのだ。


 何を隠そう、この世界に存在する特殊能力ギフテッドのすべては俺が考案したものだからな。


 当然、【魔法創造クリエイト】についても詳細は把握している。

 作中で一番のチート能力だ。


 あまりにもバランスブレイカーだったので本編中では使えないように組んでおいた。

 言ってみれば没データってわけだ。


 こいつは名前の通り、オリジナルの魔法を創造できるというとんでもない仕様で、おかげで好きに新たな魔法を作れる。


 実際に「魔法を使う」という行為をこれまで経験していないため、どう使うか未知数の部分は多い。


 今後の一番の楽しみとなるだろうな。


 ただ、浮かれてばかりもいられないな。


 これが鑑定の儀というなら……明日は俺の婚約者でのちに全員で五人いる主人公のハーレム要員のひとり――【聖女セイント】テオリア・ジュナトスとの初顔合わせとなる日。


 いきなり死亡フラグ回避の正念場がやってきたな。






※本日は10時、12時、15時、18時、21時に投稿予定!

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