第39話 嘘の終わり

 トゥルースの捕縛から3日かけて家に戻ったヒメノたち。

 事情を聞いて複雑な思いを胸に秘めながら、自分が紹介した彼が災いとなったことをコサクは謝る。

 その一方で無断で外出したうえに家の金で川下り船や貸馬を手配したガクリンとアズミは酷く叱られたわけだが、これも無茶なことをする子供を心配する親心に他ならない。

 コサクはガクリンが居なくなった時点で教習所にはしばらく息子を休ませると連絡していたので、気兼ねなく座敷牢にガクリンを入れてしばし反省を促した。

 それからしばらくの時が経過して王宮にコサクは呼び出される。

 連れて行かれた先は沙汰を待つ囚人たちが繋がれた牢屋の奥、重罪人が繋がれた個室の一つ。


「まさかこんな形で帰ってくるとは思わなかったよトゥルースくん」


 中ではコノースからの護送を終えたトゥルースがのぞき窓から見下ろすコサクを見ていた。


「これまで尋問で幾度も聞かれたであろうがワシからも聞いておこう。申し開きはあるか?」


 凶行に及んだ現場を知らないコサクは彼自身の口で嫌疑を晴らしてほしい一心でたずねた。

 しかしフフフと笑みをこぼしたトゥルースは答える。


「あるわけないですよ。オタクのバカ息子が供述した内容はすべて本当のことですので。それにしてもガクリンはいけ好かないガキだとは前々から思っていましたが、貴公も負けず劣らずのバカですよ。未だに私が無実だと思っているのですから。ふふふ、フハハハハハ!」


 コサクを馬鹿にして笑いだしたのは諦めの意味。

 頼みの綱である痣の力を失った彼はサンスティグマーダー秘蔵の能力者「複痣」の一人にして、近衛騎士団に教習所教官として首尾よく潜入している工作員としてのアイデンティティを失っていた。

 騎士としての能力も結局は痣だよりなので自力ではガクリンと比べても数段劣る。

 ラックパーム家という家柄もこうなればもはや形骸化している。

 あとは処刑の沙汰を受けて死を待つだけだとヤケになり、出来ることと言えばお人好しなコサクを馬鹿にすることでマウントを取ることだけだった。


「残念だよ」


 コサクはトゥルースがあの様子では嘘か真かに関わらず、認めれば即首を落とされる状況でも問われれば声を大にして嫌疑を認めるだろうと落胆した顔を浮かべて他の役人が待つ審議室に向かう。

 トゥルースにかけられた嫌疑の中には養父マツヨシ・ラックパームと、そのマツヨシが死する半日前、同様に殺害されたカタブツという老騎士の殺害疑惑もあった。

 トゥルースはサンスティグマーダーの仕事か、あるいは自分の正体を知ったカタブツに対しての口封じとして彼を殺害し、それがカタブツ殺しの犯人として義息を疑ったマツヨシとトゥルースの対決を引き起こしたという仮定のストーリー。

 どこまでが本当なのかは別にしてトゥルースがサンスティグマーダーの能力者だと判明した時点で沙汰の結果は決まっていたのだろう。

 最後まで彼を庇いたいと思う気持ちも虚しくすべての嫌疑が有罪となったトゥルースは、死刑執行の日を待つだけの余生となった。

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