第21話 協力者候補
「それでは本題に入ろうか。手紙に書かれていたサンスティグマーダーについてワシなりに調べてみたが……これはなかなか厄介な相手だな」
「それは奴らが強いからですか?」
最初にコサクが切り出した厄介という言葉に反応したヒメノは先日の戦いを思い浮かべていた。
自分がオリジナルのサンスティグマを所有していること。
キジノハの助け。
ミオの思惑。
これらが噛み合った結果、ヒメノは運良く初戦を切り抜けられたに過ぎない。
なので厄介と言われれば、ミオやアルスと比べても遜色のない屈強な男たちがゾロゾロと所属しているのだろうとヒメノは思い浮かべた。
だがヒメノが予想と実情は違うようだ。
「強さよりも連中の立ち位置が問題なんだ。王宮の関係者が町長一人だけの地方と違い、王都には王様を支えるために様々な役職を持った役人がいる。近衛騎士団もその中の一つだ。だがな‥…権力を持った人間が複数いると身内での争いが起きてしまうんだよ。単なる衝突ならまだいいが、場合によっては相手を殺してでも上になろうとする輩もいる。そんなときに金で雇える暗殺者なんて格好の存在なんだ」
「つまり権力争いのために奴らと繋がっている人間がいるってことですか」
「そういうことだな。ここ数年で役人が何度か暗殺されているがいずれも下手人は捕まっていない。近衛騎士団でも犯人探しをしているが、サンスティグマーダーの暗殺者に殺されたということ以上の捜査は行き詰まっておる。ワシとしてはキミに協力したいところだが、誰が依頼人かわからぬ状況で派手に動いたら依頼人からキミの情報が連中に伝わるかもしれない。これが厄介なんだ」
「そうなると近衛騎士団の協力は──」
コサクの言い分を自分なりに噛み砕いたヒメノはコサクの口利きが得られないのかと言いかける。
「今すぐに役人とサンスティグマーダーの繋がりを断たせたり、キミの手足として近衛騎士団を動かしたりは出来ないな。だがワシ個人としてキミに力を貸すことは出来る。とりあえずウチにいる間はワシが責任を持ってキミを護ろう」
(護ってくれるだけでは奴らを潰すことが出来ないよ)
それを違うとコサクは否定したわけだが、結局のところ彼の言う助力とはダイサクが勧めた通りに保護者になるというもの。
護られたいのではなくサンスティグマーダーを叩き潰す協力者を欲しているヒメノにとっては期待外れである。
そこでヒメノも言い返す。
「それは嬉しい申し出ですが、ボクと一緒に奴らと戦ってもらうことは出来ないんですか?」
「随分と血気盛んだな」
「ボクは責任を取らないといけないんです。だから隠れておめおめと暮らすわけにはいかないんですよ」
「兄さんの手紙にも責任がどうのという話は確かに書いてあった。だが焦ってもどうにもならんぞ。ワシは兄さんとは違ってキミのことをよく知らないしほだされてもいない。単純に兄さんからの頼みで力を貸すだけだから、無策で連中に突っ込んで行こうとも気にはしない」
ざっくりした言葉に置き換えるならば「死にたいのなら勝手にしろ」と言い放つコサク。
その目は騎士として数多の敵を葬ってきた古強者のモノになっており、ヒメノもビクンと体が反応してしまうほどだ。
「しかし……兄さんが懇意にしていたミュージン氏の一人娘で兄さんもキミを可愛がっているのにムザムザ見殺しにもできない。ワシなりにキミの仲間になりそうな人間を募ろう」
「それは嬉しい話です。だけど……」
「無論、命の危険も考慮した上でだ。主にキミと同様にサンスティグマーダーを恨んでいる人間に当たるつもりでいるから、生き死にの心配は気にせんでいい」
「そうですか」(王都にもボクと同じように恨む動機と戦う意志を持った人がいるのか)
しかしコサクも兄の頼みということで、出来る限りの助力として仲間集めの協力を申し出た。
彼によればこれまで暗殺された役人の家族を当たれば、命がけの復讐劇への参加に名乗りを上げる人間が居るらしい。
口ぶりから候補者は既にアタリをつけているのだろう。
「不安があるとすればキミのような子供と一緒にという部分での反発だが……気概がある人間ならばキミが力を示せば納得するだろう。だからキミはしばらくウチで休息をとりつつ、来る日に向けて牙を磨いておいてくれ」
そして続くコサクの言葉は、彼が目をつけている候補者はヒメノを子供と侮ることが予想されているようだ。
「その話しぶりだと協力者に目星がついているんですね。わかりました。言われた通り、しばらくコサク様のお世話になります」
「うむ。それと牙を磨くにしても相手が必要だろう。ワシの息子のガクリンとハウスメイドのアズミにキミの相手をさせよう。ガクリンはあいにく騎士見習いの教習所に行っていて不在だが、アイツの訓練も兼ねてキミと切磋琢磨してくれると嬉しい」
ひとまずヒメノはドックウッド家に滞在しつつ、協力者候補との顔合わせまでここで稽古を行うことになった。
稽古相手としてコサクが白羽の矢を立てた息子ガクリンは外出中ということで、彼が帰宅するまでの間に滞在中に使う部屋や屋敷のルールをミキというパーラーメイドからヒメノは教わる。
田舎と都会というよりも、父娘の二人暮らしと複数の使用人を雇う権力者の暮らしの差だろう。
初めての経験と覚えることの多さに、稽古前からヒメノの頭は茹で上がりそうである。
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