第13話 フリーロッジの女子会
ミオの案内で山道に入ったヒメノは言われるがまま険しい山道をキジノハと共に進んでいく。
一方でアルスたちは別の穏やかな道で先回りをしていた。
徒歩で三日を想定しているこの山道には王都に向かう人間を宿泊させるための宿場が点在している。
雨風を防いで寝泊まりが出来るだけの簡易的なものだが、ヒメノらのルートは他人が通らないので貸し切りになるだろう。
昼過ぎから出発した二人と一匹は順調に険しい山道を登り、日が落ちる前に宿場に到着した。
「よし。今日はここまでにしようか」
「まだ日が落ちるまで1時間くらいあるし、気が早くないですか?」
「次の宿場までは2時間くらいかかるし、なにより暗くなってからヘトヘトのまま宿場についてもろくに休めないって。お姉さんのアドバイスには従ったほうが良いぞ」
「なるほど」
ミオの助言に納得したヒメノも宿場に寝泊まりをする準備を開始して、薪拾いや水くみ、食材の調達をしていると小一時間などすぐ。
夕飯の仕度を始める頃にはすっかり日が落ちていた。
調達した食材はキジノハが鼻で見つけたきのこ類。
それに手持ちの猪肉の燻製と浄化した川の水を合わせれば猪鍋が作れる。
道案内のお礼にと手料理を作るヒメノをミオは余裕の態度で眺めるわけだがミオは料理が苦手。
もしミオが作っていたらそれでサンスティグマを奪うことすらできたのだが、その選択をしないだけミオにも自分の料理の腕前を恥じる女心があり申した。
「そろそろ食べごろですよ。もう日付が変わっているし、ミオさんの言った通り早めに準備をして良かったよ」
「言った通りでしょう。寝床だけ確保したらそのまま焚き火しながら保存食を齧ればいい野営より、こういう素泊まりの宿場のほうが手間がかかるんだから」
「旅慣れているんですね」
「これでもあちこち行来しているからね。ストーンヒルだけじゃなくてウラアースやミノリにだって行ったことがあるよ」
「ボクと同じくらいなのに……すごいですねミオさんは。ボクは一週間前までオバタから離れたことがなかったのに」
「逆に根無し草ってのも虚しいものだよ。わたしの産まれはデジマのガウラってところだけど、ガウラが故郷と言われても実感がわかないし。わたしとしてはオバタに愛着のあるヒメノちゃんが羨ましいよ」
「つまりお互い無い物ねだりだね」
「そういうもんよ」
「でもそれだけあちこちに行っていたら他所でも聞いていそうですね。ミオさんはボクを探していた男がどんな連中か知っていますか?」
「まあね。ヒメノちゃんが言うとおり、あちこちで彼らの話は聞いているよ」
聞いているどころかその連中を統率する幹部の一人であることをミオははぐらかしている。
その態度はどこかいたずらで、それゆえにヒメノやキジノハには正体が測れない。
「いわゆる殺し屋だよね。ヒメノちゃんみたいなかわいい子が狙われる理由は……死んだっていうお父さんが残した『遺産』狙いってところかな」
「そんなところです」
全てお見通しかとヒメノは袖をめくろうと手を伸ばすが──
「それ以上は見せなくてもいいよ。見たらわたしも襲いたくなっちゃうから」
「え?」
ミオの言葉に困惑したヒメノに彼女は抱きついた。
大きくて柔らかくハリのある胸は自分と同じ女性なのかとヒメノには感じるほど。
それどころか女性同士で抱き合うとは何頃かと頭がこんがらがっており、仮に今ミオがその気ならヒメノは犯されてサンスティグマを奪われていたであろう。
「冗談。でもこのままわたしの話を聞いてくれないかな」
「な、なんですか」
「もしわたしがサンスティグマーダーと喧嘩すると言ったら、ヒメノちゃんは手伝ってくれる?」
「は……」
白鞘の刀に目線を向けながら投げられたミオの問いかけにヒメノも応じかけて、口が開いてしまうのも無理もない。
ただでさえ王都に向かっている理由が「元近衛騎士隊長コサクのコネで、近衛騎士団にサンスティグマーダーとの戦いに協力してもらいたい」からなヒメノにとって、仲間が増えるのは一人でも多いほうがいい。
だが「はい」と答えかけたヒメノは手前で足踏みをする。
暗殺集団を王国も危険視していて、既に何らかの対抗手段を準備しているであろうというダイサクの予測に乗って交渉する予定の近衛騎士団とは異なり、会ったばかりのミオを軽はずみに誘って良いものかと。
少なくともヒメノの認識としてはミオの発言は例え話でしかない。
ここで軽はずみに応じた場合、逆に彼女を自分の復讐に縛り付けてしまうのではないか。
彼女なりの優しさがミオの思惑をそらす結果となった。
「あ……いいえ。ミオさんが連中に襲われたりしたらもちろん助けに行きますが、ミオさんから喧嘩を吹っ掛けるつもりなら逆にボクがミオさんを止めますよ」
「どうしてさ。ヒメノちゃんだって仲間が多いほうが嬉しいだろうに」
「だってミオさんが危ないじゃないですか。ボクのように狙われる理由もないミオさんが、殺されかねない相手と喧嘩をする必要はありませんし」
「そっか。優しいんだね」
「優しくなんてないですよ。自分のことで手一杯なだけですって」
「そう謙遜するところもまた優しいんだから」
口ではヒメノを優しいと褒め殺すミオなのだが──
(わたしのことを気遣ってくれるのは演技が上手く行っている証拠だから良いとして、本気でサンスティグマーダー潰したいのなら甘いよヒメノちゃん。役に立たない弱い他人だからこそ、有効活用するくらいじゃないと)
心の中ではヒメノの甘さを笑っていた。
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