Ep.21 犯人は貴方です

 まず、最初に提出しないといけないのが値段の意味を教えてくれる証拠だ。ナノカと一緒に見つけたもの。

 これこそが犯人が何をしようとしていたのかも証明する。


「これ、のことだよね? 値札……740円って書いてあるんだよね」


 三葉さんがカッと目を見開いて、こちらが出したものを指差した。


「そ、それが!? また値札があったのか!? こ、今度の意味は何だ!? なよなよするなとでもことなのかよ!?」


 古戸くんが「それだったらなよなよで7474円になるんじゃないかな」と言葉を発し、興奮する彼女をなだめようとしていた。しかし、それでは安心できないらしい。「じゃあ、この意味が分かるのかよ!?」と怒鳴っている。

 僕がもう一つ大切なことを告げておいた。これが何処にあったのか、だ。


「本の中にあったんだよ。それも740円ってちゃんと裏に定価が書かれていた本に、ね」

「じゃあ、それは本当に値札だったのかよ……いや、単にカモフラージュかもしんねぇ! この値札が他の人に見つかった時にどうするべきかの……!」

「僕達が通う学校の本棚の本に、ね……」

「はっ!?」


 どうやら、本が近くにあるものだと勘違いしていたらしい。古戸くん達が本を開かなければ、この値札をそもそも見つけられない。犯人として「こんなとこにこんな値札が!」とやったら、「何で知ってるんだ」と間違いなく怪しまれる。カモフラージュにすらならない。

 まだ三葉さんが混乱しているらしいから、続けて他の値札の意味についても語っていく。


「結局、僕がこれを見つけられた理由って、他の二つの値札にある可能性が浮上したからなんだ」


 古戸くんがすぐに言葉を返してくれた。


「ええと、その13710の奴と611の奴か?」


 三葉さんは「611円って他のもあったのか!?」と大変な様子。一応、そこに関しては桃助くんに説明してもらった。解説が終わったところで、僕の口から推理を流していく。


「うん。その意味を考えてみてさ。やっぱり、数字の語呂合わせじゃ変かなって思って……。ちょっと値段を本当の意味で考えたからなんだ」

「ほ、本当の意味って。値段通りのものってことか?」

「三葉さんの言う通り。学校の中で何かあるかって調べたら……出てきたよ。ロッカーと箒が、ね。同じ値段のものを発見した。どうやら、この学校にはそのロッカーがないから、三葉さんが13710円の意味を、どう一人で悩んでも答えが出ないはずだよ」


 次の説明をしようとした瞬間、隣から何かの熱意が飛んできた。どうやらナノカはこの推理には納得がいっていなかったらしい。


「ちょっと待ちなさい!」

「どうしたの……?」


 つい、あわあわしてしまいそうになるも今は真剣にと心を落ち着かせた。ここまでの推理は間違っていないはず。


「動機のことしか情真くんメモで書いてなかったから、分かんないけど……そう言えば、何で箒の値段になるのよ。あの値札は古戸くんの上靴に付いていたはずでしょ? 箒は廊下の外にあったけど……何で箒に?」


 彼女は適当な事件解明を許さない。その意思がハッキリと伝わってくる。だから、こちらも本気で言い返さねば。

 今、持ち出すのは12HRの状況についての話題だ。


「ナノカ、昨日のことは覚えてる? 窓ガラスが割れてたの」

「ええ。朝も見たでしょ。それが何?」

「窓ガラスが割れるってことは雑巾じゃないでしょ?」

「当たり前でしょ。そりゃあ、きっと箒振り回して野球ごっこで……あっ」

「分かった? たぶん、ナノカの思ってる通り、そこで振り回して箒から値札が落ちたんだよ。で、たまたまそれを古戸くんが付けてった、って感じだね」


 ナノカは「なるほど」と言うも、引き下がる気配はない。だって、まだロッカーのことが残っている。何故ロッカーの値札がこの場で見つかったのか。全く説明できていないから当然なのだが。


「じゃあ、ロッカーの方は? 何でロッカーのものが落ちてるのよ?」


 三葉さんもこちらの言い合いを静観している。僕とナノカ以外何の物音もしない部屋で話は進んでいく。


「簡単だよ。たまにあるじゃない? 小さなものが動いた拍子に鞄の中から飛び出して落ちること。この中の誰かが落としたから、だよ。本当はロッカーに付けたかったものを、ね」

「それは……」


 ナノカは三人を見回した。三葉さんも怒りたいようだが、何とか僕の話を聞いてくれている。早く、その正体も披露してしまおう。


「まず、12HRの本に置くことはできないから三葉さんが自作自演で騒いでいるってことはないで間違いないと思う。まぁ、共犯がいるって話ならあれだけど……今は共犯がいないってことで話を進めさせてもらうよ。動機からしても、あんま犯人と三葉さんが協力するメリットは少ないと思うし」


 残るは古戸くんと桃助くん。

 この値札事件の真犯人は、どちらか。

 もう、僕は知っている。ナノカも口の端を上げて、「しっかりやりなさいよ」とでも言うかのように応援してくれている。

 さぁ、今犯人に真実を叩き付けよう。


「だから二人に絞られる訳だけど……もう、分かってるよ」


 二人が汗を出して、こちらの解答を待っている。もう隠し事はやめよう。楽にしてあげなくては。

 彼を救ってあげないと。


「桃助くん、犯人は君だね……?」


 彼が大きく震えた。古戸くんも荒い呼吸となり、三葉さんがこちらに向かって「てめ……」と動こうとした。ただナノカがその間に入って一言。


「まだ話を聞いてないでしょ。情真くんを責めるのはその後でもいいんじゃないかしら」

「くっ……」


 桃助くんは下を向くだけ。内心ヒヤヒヤしていたため、ナノカに感謝させてもらう。申し訳ない。本当なら僕が守る側としていたかったのだが。

 また惚れてしまうと推理に関係ないことを考えるもすぐに忘れておいた。

 今は彼が何故犯人なのかを解説しよう。きっと古戸くんが言ってくる。予想した数秒後には彼の口が動いていた。


「な、何でそんなことが」

「簡単だったよ。桃助くんが自白してたからね」


 すると少し彼が反応した。「ぼ、ボクが……そんなこと言った覚えは……!」と。覚えがないのも仕方はない。この事件の仕組みを考えると彼自身は失言したことには気が付いていないだろう。

 続けて、僕が彼等に真相を叩き付ける。


「最初に保健室で桃助くんと会話した時にしてたんだよ。僕に重大な手掛かりを渡しているとは知らずにね!」 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る