Ep.11 謎の値札
ゲームで言えば、混乱状態と言えばいいか。誤って、頭突きで後ろの窓ガラスすら割ってしまいそうな不思議な気分だ。
値札?
そのことで怒っているのか?
ポニーテールとなると、ナノカがやったと思われているのだろうか?
まず、することは一つだと判断した。何かを知る前に、言っておくべきことがある。
「ナノカは……そんなこと、しない!」
「ナノカだと……?」
ふと彼女に名前を復唱されて「しまった」と思った。ナノカだったら「どうして、堂々名前を教えちゃうのよ?」と責めてくるだろうか。
しかし、後悔している暇などない。
まずは彼女が絶対やらないと言う考えを三葉さんに伝えていく。
「彼女は値札なんて作らないし、そんなくだらないことをやらないって、てか、値札って……」
こちらが主張している間に彼女は僕から手を離し、制服の前ポケットから例のぶつを取り出した。白い紙で作られ、その中に鉛筆で数字が書かれている。最後の場所に円と表示されているからには値札で間違いがない。
「これだよ。じゃあ、お前がやったのか? 部屋の中に値札を……」
今度は僕が疑われる始末。しかし、おかしい。彼女は今日、パソコン室の中に入って値札を拾うような素振りは取っていない。つまり、先程より前に彼女が入った時、値札を見つけたとのこと。
初めて来た僕達にはそもそも置くことすらできないではないか。きっと彼女はその趣旨を知らないのだ。
彼女が焦っているからか対照的に僕は落ち着いて考えることができた。
「いや、初めて来たってのは、アヤコさんや古戸くんに聞いてもらえば……」
ただ不安な点は一つ。信用されているか、だ。彼女は少し「うん」と声を出した後、僕の心臓すらも唸らせてから、返事をした。
「ああ、アヤコや誠が言うなら、本当か……まぁ、嘘だったらただじゃおかねえけど」
どうやら同じサークルメンバーのことは信用している様子。彼女達が僕の無実を証明してくれることだろう。
ただ気掛かりなこともできた。彼女が提示した謎が僕の頭の中で形を成していく。それを口にした。
「でも……何で、その値札が気になるんだ? 悪戯って言っても、別に誰かの命が何とか円とは書いてないし」
「ちゃんと読めよ」
ドキッとする一言。
彼女の言う通り、丁寧に読ませてもらうことにした。
ええと、値段は「13710円」。やはり、高額だ。貼ってあった分については意味不明であるが、別に重要なことでもない気がする。悪質なものとも思えない。
「ううむ? これが?」
そう言うと、彼女はいらっと来たのか、僕に強めの口調で意味を伝えてきた。
「語呂合わせで分かるだろ? 1は、い。3は、み。7は、な。1は、い。これで分かるだろ?」
「いみない……意味ないって何が……」
「そりゃあ、パソコン室を夢を追う会の活動場所と分かってる奴がやってるんだろうから、意味ないってことだろ!」
ううむ、確かに言われてみれば。だけれど、また一つ疑問が生じた。何故、わざわざ0を追加する必要があるのだろうか。語呂合わせで伝えたいのなら、1371だけで通じるはずだ。値札にして、0を付け足して高級感を付け足す理由も分からない。
ただ解釈として、値札みたいにしたかったと言えるかも、だ。そう言われるのも予測できていたから、敢えては口にはしない。
それよりももっと疑問に感じる点があったはずだ。
「って、そのサークルメンバーの活動場所でやったと言っても、犯人は絞れないだろ? そもそもパソコン室でやってるサークルに向けて用意したものかも分からないし」
「いや、大丈夫だ。その点は分かってる。間違いなく、あの中にいる入れる人間のものだ」
「何で……」
「何日か前の話だが、自分が最初にパソコン室に入った時は値札は落ちてなかったんだ。うちのクラスの担当場所がそこで、掃除があったからな。掃除の時には値札はなかったし。問題は掃除が終わった後に活動メンバーが入った後で、だ。落ちたのは毎度の四人で活動を始めた後だった。ちょっとトイレに長居して、戻ってきたら落ちてるのを見つけたんだよ」
「それじゃ……その三人の中に」
声に出してからまた迂闊だったと自分を責めた。彼女のキッと睨む様子が恐ろしくて、硬直する。
「あいつらの中に夢を侮辱する奴がいるとでも……?」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいや、そうは言ってはおりませぬ。落ち着いて。落ち着いて」
こんなところでボコボコされても嫌だ。必死で彼女の怒りを抑えるために、四人を庇っておく。
「いや、もしかしたら、何か別の理由で」
「別の理由って何だよ!? あの値札を置く理由? 意味分かんねえよ!?」
「だ、だよねぇ……」
「その中にいたアヤコに聞いてみたが、サークルに関係する人しか来てないそうだ」
つまるところ、やはり三人の中にいるのではないか。また怒鳴られるのも面倒だから口は閉じておいた。
もどかしさを感じさせられる彼女の言葉は続いていく。
「だから、お前達がその時にいて、貼っていったと思ったが、違うんだな。他に思い当たる奴は……いねぇなぁ。顧問か……他に誰か入ったのか?」
三人に聞いてみれば、謎は解けるかもしれないのに。いや、彼女は言っていないだろう。夢を追っている人に不快な思いをさせる訳にはいかないと思ったのか。
だから人気のない廊下で僕を呼んでいた、と。
あれ……この人。
僕が新たな発見をしている間に彼女はこちらに背中を見せて歩いていく。その際に飛んできた言葉がこうだ。
「突然、悪かったな。疑って悪かった。後、勝手に騙されてるなんて誤解して、悪かった……後であっちのポニーテールにも謝っといてくれ」
やはり、この人、伝え方が不器用なだけで、本当は……。
またまた思考を回転させている合間にナノカが声を掛けた。
「情真くん、玄関に靴だけほっぽっといてあったけど。やっぱ、まだ帰ってないのね。何やってんのよ……」
後ろにはナノカの動向が気になっているのか、古戸くんやアヤコさんがいる。この場で今のことをナノカに相談しても、他の二人を無駄に困惑させるだけだ。だから、帰っている途中で。と言っても、帰る途中まではきっと古戸くんと一緒かもしれないと言うことにも気付いた。
だったら、もっと別の場所で、だ。
「ナノカ……明日でいいから、放課後、放送部に来てくれよ。ちょっと教えてもらいたいことがあるんだ」
「うん……まぁ、部活ないからいいけど、何か手伝えるのかしら?」
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