歪みのない奥山さん
惟風
第1話
同棲して二年目になる恋人の
風呂上がりの弛緩した空気の中、やけに背筋を伸ばして私の隣にかしこまって座ってきた。
「……俺に、兄貴が一人いるって話は前にしたよね」
元運動部の彼と並んで座ると、二人がけのソファが狭くなり、買い替える時にはもう少し大きめのサイズにしたいなと思う。いつも。今も。
「うん。こないだも旅行のお土産を貰ってたの覚えてる」
いつもののんびりした口調とは違う話し方に、私も姿勢を正した。
先日、優司の実家に伺って御両親に挨拶したが、お兄さんには会うことはできなかった。遠方に住んでいて多忙との理由で。
「今度さ、その……兄貴がウチに来たいって言ってて」
床に視線を落としながら、彼はモゴモゴと言った。ピンと伸びていた背中が、みるみるうちに丸くなっていく。
「あ、なら片付けとか掃除とかしなきゃだね。ちゃんとした服着た方が良い? キレイ目のワンピースとか」
「ちょっ、ちょっと待ってほしいんだ、顔合わせする準備をする前に、聞いてほしいことがあって……」
大きな身体をしぼませて、恋人はますます目を伏せてしまった。
一瞬、厳つい眉をキュッと寄せて、大きくため息をつくと
「ねえ美奈子さん。」
少しエラの張った角ばった顔を私に近づけて、か細い声で聞く。
「俺のこと、好き?」
「へっ? あ、え、うん」
全く脈絡を掴めない言葉だったけれど、即答しなければいけない質問な気がして、声の大きさ以上に激しく頷いて見せた。
私達の交際は、私が優司に半ば一目惚れしたような形で始まっている。
ドラマのような情熱的な付き合い方はしていないけれど、概ね良好な雰囲気を保ったまま、結婚の話まで出ているのだ。
今さら好意を疑われるのは心外だったし、小さな芽も残さずに不安は潰しておきたい。
私の返答を聞いた優司は少しホッとした顔になると、静かに話し始めた。
「急に変なこと言ってゴメンね。実はさ……」
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