ロジウラの英雄
火猫
王女は食べ盛り
「おまえさぁ、帰れよ」
「やだぁ」
今は昼である…朝からの押し問答は昼飯時間にまで延長していた。
リングランド王国…の貧民街、の路地裏。
俺、ことリョータは手製の簡易コンロに火を入れる…と言っても加熱するだけのIH方式。
この簡易コンロは魔石を使って調理出来る逸品である…俺の手製のオリジナル商品なのだ。
「………(@ ̄ρ ̄@)」
ジーッと簡易コンロに鎮座する鍋を見つめる少女が涎を垂らしながら黙ってしまう。
「今日の鍋はツノイノシシの肉と魔草の肉鍋なんだけどなー。言う事聞かない子には上げられないなー」
俺は棒読みでその少女に聞こえるように声を上げた。
「食べたら帰る」
「はい、言質とった。ほれ、よそってやるから器を出せ」
「…はい」
少女はしぶしぶ腰に下げた器、ククサを差し出す。
北欧の木工品でよく見るアレである。
キャンプ用品店で見たことのある木の器に汁をよそう。
「あっ、肉は多めで」
「はいはい」
贅沢にも肉を多めに所望されたが文句は言わない…食ったら早く帰れ。
え?おかわり…だと?
早食い過ぎるし食い過ぎだわ。
「むぅ、その言い方は帰りたく無くなる」
およ?声が出ていたようだ。
「トロトロのスジ肉はっけーん、美味いぞー」
棒読みの言葉で誤魔化す。
よそった器を手にした少女はまた黙々と食べ始める。
それを眺めながら俺は周囲を見渡す。
「今日も狩り日和だな」
今日も外壁の向こうから魔獣の声が聞こえてきた。
この世界の魔獣は性的行為はまったく無くて食欲が全面に出ちゃってる。
群れを作る前に駆逐するか。
「もぐもぐ、狩すぎると他の人の仕事が減る。ほどほどに、もぐもぐ」
食うか喋るかどっちかにしろ…お前は。
まあ、正論ではあるな。
「王女のくせに貧民街に来んなよな」
俺も正論で返す。
「食べたら帰る……じゃあね、また来る」
あっという間に食べ終えていた。
いや、だから来んなよ。
最近になって飢えたり争って死んだり人身売買や強盗事件が無くなった路地裏。
皆んなは俺が来たからだ、とは言うけども実感はない。
だって大したことはして無い。
「さて、生活向上計画をさらに進めますか」
次は衛生面にもチカラを入れると決めた。
そんなことを考える俺は、ロジウラの英雄といつしか恥ずかしい二つ名で呼ばれるようになっていた…マジでなんなの。
「リョータ、次はすき焼きが食べたい」
いや、王女よ。
まだ居たのかよ…はよ帰れや。
王女が食べに来るロジウラは、世界中でもたぶんここだけだろう。
どーん!
落雷が外壁の木を燃やす。
途端に外気温が下がり雨雲が発生した。
『シールド』
突然降り出した雨に咄嗟にスキルを発動。
俺の能力の一端である…降り出した雨に気づく事無く、王女は帰った。
代わりに俺はびしょ濡れである。
「はぁー、魔法使えたらなー」
魔法が使えない英雄と呼ばれた異世界人の話。
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