第13話 呼び出し

「お館様からのお呼びとあり、参上いたしました」


「アハハ、そう固くならなくてもよいぞ」



 俺はお館様の部屋に入り、緊張しまくった声で挨拶をした。俺の変な挨拶に、お館様は緊張するなと、和らげてくれる。


 お館様は執務デスクに座り、その斜め前にあるソファーセットに、アリシア様、その隣にレイナ、アリシア様の正面に白髪のおじさんが座っている。



「呼んだのはレイナの事だ」



 心臓がバクバクしている。何を聞かれるんだ。



「レ、レイナが何かしてしまいましたか……」



 何か粗相をしてしまったか!?



「レイナと……」



 ……と?



「レイナとハルトの学力を知りたい。先生、あれを」



 学力? お館様がそう言うと、白髪混じりのおじさんが、ソファーテーブルの上に2枚の紙を置いた。



「こちらに来て座りなさい、ハルト君」



 俺は「はい」と答えて、先生と呼ばれる白髪のおじさんの隣に座った。



「この問題を二人に解いて貰いたい」



 テーブルの上に置かれた紙はテスト用紙だった。レイナは既にペンを持ち、やる気満々だ。俺もテーブルの上にあるペンを手に取った。お館様の指示であれば否やはない。



「それでは始めてください」



 俺はテスト用紙に目を通すと、小学生低学年ぐらいの算数の問題が出されていた。楽勝だな。


 見ればレイナも答えを書き始めている。兄としてはレイナより先に終わらせたいが、レイナの暗算力は俺を遥かに越えている。俺が勝っているのは書く速さだけとは情けない。



「終わったぁ」

「おわったぁ」



 回答を書き始めて約5分。俺とレイナはほぼ同時に終わらせた。危ない、危ない、四歳の義妹いもうとに危うく負ける所だった。



「「「えっ!?」」」



 お館様達は驚いた顔をしているが、簡単な初等算術が二十問。俺もレイナも暗算で解ける問題ばかりだ。



「せ、先生」



 アリシア様の声に、先生が俺とレイナの回答を手にした。



「ぜ、全問正解だ」


「やったぁぁぁぁ」



 喜ぶレイナ。しかし、お館様とアリシア様は喜んではいなかった。



「問題が簡単すぎたのではないか?」



 お館様は先生に問いかける。確かに問題は簡単すぎた。



「レイクランド侯爵、四歳と七歳の教育を受けた事がない子供です。初等算術が解ける方がおかしいのです」


「ハルトも、レイナもなんで解けるのですか?」



 アリシア様は俺とレイナをいまだ驚きの顔で見ている。



「暇だったからです」


「はい? 暇……だったから? それはおかしいわ。時間があればお遊びができるわ」



 アリシア様もまだ九歳、遊びたい盛りだ。でも、俺達は……。



「遊んだらお腹が空きます。動かなければ腹持ちがいいんです。だから俺とレイナは、河原の土に算術を書いて時間を潰していました」


「……それ、面白いのですか?」



 なぜか嫌そうな顔をするアリシア様。どうやらアリシア様は勉強があまり好きではないようだ。



「おもしろいですぅ~」



 勉強好きのレイナが答えた。レイナは飲み込みが早いから、俺が出す問題をどんどん解いていたっけ。



「ハハ、勉強が面白いとは、大した子だ。先生、あれもやってみてくれ」



 お館様が先生に何かを促すと、先生はソファーから立ち上がった。



「では、二人には別室でテストの続きをしましょう」



 先生にそう言われ、俺とレイナは先生と一緒に、お館様の部屋を退室した。


 テストの続きっていったい……? 


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