第12話 魔術書

「おはようございます! マリアさん、エルニスさん」


「ハルト、今日も元気だね」


「ハルト君、ごめんね。私とマリアさんだけじゃ、午前中に書庫の整理が終わりそうになくて」



 侯爵家で働き始めて一週間が経つ。朝食をレイナと食べ終わった時に、エルニスさんから声を掛けられ、書庫の整理を手伝う事になった。



「俺なんかで手伝える事があるんですか?」



 レイナを部屋に戻し、俺はお屋敷の書庫へとやってきた。初めて入る書庫。本棚には沢山の本があり、床にも沢山の本が積まれていた。



「ハルト君は、積まれている本の埃を払ってちょうだい」



 乾いた布を渡され、積まれた本を一冊づつ埃を拭い、新たな本の山を作っていく。


 その山から、マリアさんとエルニスさんが取っていき、本棚へと片付けていく。



「マリアさん」



 俺はここ一週間で気になっていた事をマリアさんに訪ねた。



「どうかした?」


「マリアさんっていつも手袋をしていますね」



 マリアさんのお仕事は掃除が多いから、手袋をしていてもおかしくはないのだけど、食事の時もしていたので、少し気になっていた。



「ああ、これ? 昔に両手を大火傷しちゃって、恥ずかしいから手袋で隠してるんだよ」


「す、すみません。変な事を聞いてしまって」


「アハハ、みんな知っている事だから気にしなくていいよ」



 失礼な事を聞いてしまったな。子供の好奇心って事で許してほしい。


 あれ?


「ねえ、マリアさん」


「フフ、今度は何? 私の下着の色とか気になる年頃かな?」


 

 えっ!? 聞いたら教えてくれるの?



「ハ、ハルト君、そ、そういう事は私に聞きなさい」



 エルニスさんや? あなたは何を言っているのかな?



「ち、違いますよ!」


「アハハ、赤くなって可愛いな」


「み、見たくなったらいつでも言ってね」



 だからエルニスさんや、あなたは何を言っているんですか?



「こ、この本です。この本はなんですか?」



 俺が手にしている本は、レイナが眺めている本と同じ文字が書かれていた。レイナと一緒に眺めているから、大体の察しはつく。ただ疑問なのは何故レイナが読めて、俺がレイナに教わりながらじゃないと読めないかだ。



「魔術書だね。魔術師が読む本で、私らには何が書いてあるかちんぷんかんぷんの本だね」


「魔術書?」



 だよな。部屋にある本は水竜神様とか

竜神様の本で、初級の水魔法と雷魔法について書かれていた。



「魔術書が読めるのは、お館様、奥方様、あと少しは姫様も読めるかなぁ」



 マリアさんがそう説明してくれた。



「では、お館様達は魔法が使えるんですか?」



 俺の問に答えてくれたのはエルニスさんだった。

 


「ううん、お館様と奥方様は、魔術書は読めても魔法は使えないはね。アリシア様は風魔法の才能が有ると、家庭教師の先生から言われたみたいだけど」


「じゃあ、俺にも魔法の才能はあるのかな」



 この世界は魔法の才能がある者しか、魔法は使えないという話は聞いた事がある。



「アハハ、才能があっても学院には入れないよ。学費が高いからね」


「でも、自分で勉強すれば」


「先生に教わらないと魔術書が読めないでしょ。だから平民には魔術師はいないのよ」


「平民で魔法が使えるのは魔法使いぐらいだよ」


「魔法使い? 魔術師とは違うの?」


「魔法使いはね、生まれながらにして魔術書が読めるらしいよ。ただ一万人に一人もいない。この国でも宮廷魔術師団に数人いるぐらいって話さ」



 魔法使い? まさかレイナは魔法使いなのか?


 なんだろう、この嬉しい気持ちと不安な気持ちは……。


 午前中の片付けは一段落して後に、俺は厨房に行って、仕込み前の毒見をダールさんと一緒にやった。


 レイナの事はまだ誰にも言っていない。そんな不安な気持ちを抱えていた午後に、俺はお館様に呼び出されお館様の部屋へと向かった。




「失礼します」



 お館様の部屋には、お館様以外にアリシア様と、白髪混じりのおじさん、そして……レイナがいた。


 俺の不安は爆発しそうだった。



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