第9話 屋根付きの部屋
「あのぉ、本当にこの部屋を使わせて貰えるんですか?」
俺とレイナは、レイクランド侯爵領の領都に来ていた。しかも侯爵邸の母屋だ。
「食事担当はあまり外には出ないからね。別舎よりも母屋の方が炊事場や食堂に近いから」
メイドのお姉さんが案内してくれたのは、大きい館の二階にある綺麗な部屋だった。
お姉さんの名前はエルニスさん。この部屋につくまで、お互いに簡単な自己紹介をした。エルニスさんは、侯爵家に勤めて二年になるメイドさんで十八歳との事だ。
「お兄ちゃん、綺麗なベッドがあるぅ!」
そう言ってレイナは部屋に一つ置かれたベッドの上にダイブした。
「こら、レイナ。頼むからいい子にしてくれよ」
レイナがはしゃぐのも無理はないか。夢にまで見た屋根付きの部屋。俺もヒャッホーとダイブしたいぐらいだからな。
「私はエルニス。隣の部屋だから、困った事があったら何でも言ってね。うふ」
うふってなんですか?
◆
「ダールさん、この子がハルト君です」
部屋に荷物を置いたあとに、俺はエルニスさんに連れられて、厨房へと来ていた。レイナは部屋でお留守番だ。
「アリシア様から話は聞いている。ダールだ。毒見役の責任者をしている」
「ハルトです。毒見役見習いとして、今日からお世話になります。宜しくお願いします」
ダールさんは年の頃は三十歳ぐらいのおじさんだ。
「毒耐性があるとは聞いてはいるが、あまり過信するなよ」
その言葉にエルニスさんが「アハハ」と笑っている。
「ダールさんも毒耐性を持っているのに、ワインを飲みすぎて倒れちゃったのよね」
「だ、だから過信するなよ」
ダールさんは恥ずかしそうに頭をかいている。
アリシア様は俺の事を毒耐性持ちとだけ、皆さんに紹介してくれている。絶対毒耐性は毒見役には適していないとの事だ。死なない毒見役は、毒見役じゃないとか。酷い話だ。
◆
「これがカヤク草、こっちがロークの実、それがバトバトの粉」
ダールさんが、厨房にあるスパイスを色々と味見させてくれる。名前は知らなかったけど、どれも食べた事のある味だな。
「毒見役は料理に違和感を感じる味覚の感受性が重要だ。特に仕入れ食材に毒が仕込まれているケースが最近は多いな」
侯爵家に来る道中にアリシア様から、寄子の男爵様が毒によって死にそうになった事件を皮切りに、最近の侯爵領において毒見役が多く死亡する案件が続いているとの事だった。
この侯爵領に謎の暗殺組織が横行している可能性があり、当然その
「ハルトには朝と昼、夕方の仕込み前の確認をやって貰う。とりあえず今日はゆっくり休め。明日から仕事だ」
◆
部屋に戻るとレイナがベッドの上で本を読んでいた。
「お兄ちゃん、お帰り〜」
「ただいま。仕事は明日からだってさ」
夕食迄にはまだ時間がある。夕食は使用人用の食堂で、ただで食べられる。部屋付き、飯付きなんて最高の職場だ。
「レイナは何を読んでいるんだ?」
レイナがベッドで読んでいる本は、全体的にくたびれた古そうな本だ。
「わかんなぁい。机の中に入っていたのぉ」
どれどれと覗いていると、知らない文字が書かれている。外国の本かな?
「レイナには難しいだろ?」
「うん! お水の竜と、雷の竜のお話だけどぉ、よくわかんなぁい」
「えっ!? 読めてるのか?」
レイナの分からないは、読めているけど、意味が分からない、という事らしい。
「んとねぇ、これがお水でぇ、これがお手でぇ、これがぁ――――」
レイナが俺に見知らぬ文字を説明してくれる。なぜレイナは読めているんだ?
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