第7話 妖精の国のお姫様
「おばちゃんのお料理は美味しいね、お兄ちゃん」
おばさんの料理店に初めてお客として入った。お昼には少し早いため、お客は今はいない。
「はいよ、あんたも食べな」
レイナが食べているトリ肉と根野菜のスープが俺の前にも出された。
「駄目だよ、おばさん。お姉さんから貰ったお金はレイナの為に使うって決めてあるんだ」
「あんたもまだ小さいんだから、しっかりと食べないと、働くにしてもすぐに倒れちまうよ」
温かいスープからは食欲を促す、美味そうな香りが漂ってくる。ゴクリと生唾を飲んだら、ぐぅ~とお腹が鳴った。
「ほら、遠慮しないで食べな」
「う、うん」
「あたしはホッとしているんだよ。毒味役の仕事は、貴族様からしたら必要かもしれないけど、子供がやる仕事じゃないよ」
おばさんの言う事はもっともだけど、俺には毒絶対耐性ってスキルがあるんだ。
この異世界は全ての人がスキルを持っている訳ではないし、魔法も才能を持つ者しか使えない世界だ。
そんな一部の者しか持っていないスキルを俺は持っているんだ。使わない手はない。
「大丈夫だよ、おばさん。午後からまた仕事、探ししてみるから」
「危ない仕事にはつくんじゃないよ」
今日、募集が終わった毒見役の仕事は、暫くは募集がない。七歳の子供が付ける仕事なんかそうそうない。それでも、レイナを幸せにするにはお金が必要なんだ。
◆
人通りの多い昼時を避けて、俺とレイナはその日の午後に、求人情報を貼ってある街中の壁にやってきた。この時間はたいしたチラシも貼っていないせいで、その場所には誰もいなかった。
「ちぇっ、どいつもこいつも要経験かよ」
ほとんどの求人情報が経験者募集だった。これでは面接も受けられない。
「お兄ちゃん、これは? 草むしりだって」
文字が読めるようになったレイナが、簡単な仕事を探してくれた。
「それかぁ。レイナ、ここには何て書いてある?」
「ん〜と、十歳……以上。お兄ちゃんは七歳だから無理なんだね」
「正解。草むしりぐらい、七歳だって出来るのにな」
はぁ、と二人でため息をついた。
「レイナ、今日は諦めて、また明日来よう」
「うん」
俺とレイナが壁から離れる時だった。
「お兄ちゃん、凄く綺麗な馬車が止まったよ」
レイナが豪華な馬車を指指した。
「レイナ、無闇に指を指したら駄目だよ。貴族やお金持ちの人は怖い人が多いんだ。俺たちみたいな子供でも鞭打ちとかされちゃうんだよ」
「こ、怖いよ、お兄ちゃん」
レイナが怖がって俺にしがみつく。
「帰ろ」
「うん」
帰ると言っても、人通りが無い暗い路地裏だ。俺とレイナが歩き出すと、豪華な馬車の扉が開き、執事服を着たおじさんが出てきた。
俺は目を合わせないようにしたのだが、レイナが足を止めてしまった。
「綺麗……」
レイナの呟きにつられて豪華な馬車を見てみれば、薄いピンクのドレスを着た女の子が出てきた。
金色の長い髪が光に当たりキラキラと散りばめた宝石のように輝いている。
「妖精の国のお姫様だぁ」
レイナが言うとおり、馬車から降りてきた女の子は、妖精のような女の子だった。
身丈は俺より少し高いぐらいで、歳はそんなに変わらないぐらい。薄いピンクの袖から見える腕や、お人形のような小さな顔は、白く透き通る白磁の肌をしている。
しかしだ!
「敢えて言おう、レイナの方が可愛いと!」
馬車から降りてきたのは貴族のお嬢様で間違いない。レイナの言う通りお姫様だ。
「そこのあなた」
えっ、俺!? ヤバい、聞かれた!?
誰もいない求人情報が貼られた壁の前。あなた、と言われたら俺とレイナしかいない。
「な、な、何でしょうか」
不敬罪か、不敬罪なのか!?
「あなた、本日、子爵邸に行かれましたか?」
「え、あ、はい」
俺がそう答えるとお姫様は満足した顔でこう言った。
「私はアリシア・レイクランド、あなたを雇います」
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