【完結】家無し子の少年、毒見役になる。毒絶対耐性で幼い妹と絶対に幸せを掴み取る! 〜侯爵様を毒殺しようとしたヤツがいる!?侯爵家の美少女アリシア様と一緒に、毒殺犯から侯爵様を守り抜け
花咲一樹
第1話 家無し子の兄妹
「おっ! 今日も大量だな、このお店は!」
昼間でも薄暗い路地裏には、四歳の幼い
家無し子の俺たち兄妹は、ここ最近はトリ肉料理が評判のこのお店の生ゴミを漁る生活を続けていた。
「モグモグ。チッ、毒レベル3か。これはレイナが食ったら腹を壊すな。どれ、こっちはと――、これは食える残飯だ。ほら、食え、意外と美味いぞ」
七歳と四歳の子供が毎日こんな生活とは、異世界は世知辛い。
ボロボロの服に、穴のあいた左右不揃いの靴。そんな身なりで表通りを歩ける筈がなく、俺と義妹のレイナは路地裏を歩き周る生活をしている。
最近になって残飯が増えたこのお店の、裏の裏にある細い路地が今の俺たちの寝ぐらだ。
「ありがとう、お兄ちゃん」
骨付き肉の食べ残しが今日は捨てられていた。まだ新しく毒レベルは0.2。これなら幼いレイナが腹を壊すことはない。
家無し子の俺たち兄妹は日々の食べる物もなく、雨風をしのぐ家もなく、ただ死なないためだけに毎日を生きている。
「あ〜あ、どっか働き口とかないかなぁ」
毎日そうつぶやくのが癖になっているが、まだ
◆
異世界転生。本当にそんな事が起きるのかと最初はめちゃめちゃ疑った。
現代では高校生だったらしい俺は、なぜ現代で死んだのか、転生した時には忘れていた。いや、めちゃめちゃ嫌な事があった筈なのだが、まったく思い出せない。
そして不思議な事に、俺は異世界の三歳の子供、ハルトに転生していた。
転生した時のハルトは雨の中の裏路地で倒れ、事切れる寸前だった。弱りかけた体、弱りかけた魂に俺が入った感じだ。
ハルトは親もなく、家もなく、この街の裏路地で一人寂しく生きていた。
いや、コイツはマジで凄いヤツだ!
三歳だぞ!
コイツの薄れた記憶を辿ればニ歳の頃から一人で裏路地生活が始まっている。
クソッ!
コイツを捨てた親、出て来いや!
そんな事をボヤいてもハルトの生活は変わらない。
なぜ俺だったのか? 理由は分からないが、一つだけ分かったのは、前世では何を食べても腹を壊さない体質で、ハルトになった今、その体質がスキルとなって覚醒した。
毒絶対耐性と毒解析。
食べる物に困っていたハルトにとって、毒絶対耐性は残飯あさりにはもってこいのスキルだった。このスキルが無かったら絶対に餓死していた筈だ。
◆
あれから四年が経ち、俺はハルトとして生き残っている。そしてニ年前に橋の下で親に捨てられたレイナと出会った。
こんな小さな子を橋の下に置き去りにするとか、本当にこの世界は腐っている。
「お兄ちゃん、お肉美味しいね。でも、ちょっとお口の中がチクチクするよ」
レイナが骨付きの肉を小さな口でパクパクと食べている。
「塩っけが多いんだよ。ちょっと前までは、この店の残飯はもっと美味かったんだがな。今は味がだいぶ落ちた。そのうち、この店は潰れる――――冷てッ!」
バシャンと俺の頭に水を浴びせかけたのはお店のおばさんだ。裏口の前で怒りの形相で、水滴がしたたる空の桶を持って立っていた。
「誰の店が潰れるってぇッ!」
どうやら俺たちの話を聞いてしまったらしい。
「お、お兄ちゃん」
「だ、大丈夫だ、レイナ」
とは言ったものの、おばさんはマジ怒りだ。レイナが少し涙目で怯えている。ここはなだめつつ逃げ出そう。
「おばさん、このお店はだいぶ味が落ちたな。残飯の量も多いって事は、お客の食い残しが多いって事で、つまりは不味くなったと……」
あ、ヤバい、本当の事を言ってしまった。
「わ、分かってんだよ! あたしの作る料理じゃお客が満足しないって事は! あたしが、あたしが一番……ぐええええええええええええええん」
おばさんが泣き出してしまった。
「おじさんはどうしたんだい?」
ここで残飯を漁ると、このお店の雷オヤジに怒られるのはよくある事だった。
「旦那は今、遠方に法事で出掛けまってるのさ。お店はあたしが守るなんて言ったのに、日に日に客足は減る一方。常連のお客も苦笑いで食い残していく始末さ。あたしの料理が不味いのがいけないんだよぉぉぉぉぉぉぉん」
ぉぉんと、おばさんはまた泣き出してしまった。ヤレヤレだな。
「おばさん、塩を変えたろ」
俺のスキル、毒解析のせいか、味覚が敏感になっている。流石に食材を言い当てるとかの、食材鑑定は出来ないが、グルメレポーター並みの感覚はある気がしている。
更に残飯を食いまくってきた俺は、お店ごとの味を覚えていた。
そしてこのお店の味だが、以前に食べた残飯と、いま食べた残飯では塩の成分が明らかに違う。
「塩が何だってのよ、塩は塩だろ!」
「違うよおばさん。塩はただのナトリウムじゃないんだよ」
「ナトリウム?」
おっと、これは前世の知識だ。
「おばさんが使っているのは岩塩だ。しかも取り扱っているトリ肉は淡白だから辛い岩塩だと相性が悪い。おじさんが使っていた塩を使えば少しはまともになるよ」
「塩が……」
「何でおじさんが使っていた塩を使わないのさ」
「あの塩は海の塩で高いんだよ。塩なんてみんな同じだと思うじゃないか」
「塩には岩塩と海塩があるんだよ。牛肉なら塩っ辛い岩塩でいいけど、トリや魚は海塩の方が美味しくなるんだよ」
「お兄ちゃん、すご〜い」
「こ、子供が何でそんな事を知っているんだい?」
しまった! 見ためは七歳、頭脳は大人。進◯兄ちゃんが言ってたとは流石に言えない。塩の中のミネラルが化学反応をおこして、旨味や苦味になる何て事はもっと言えない。化学反応なんて言葉はこの異世界にはないのだから。
「ほ、他のお店の主人が話していたんだよ」
な、何とか誤魔化せたか?
「そうかい、塩かい……」
おばさんがフムフムと頷いている間に、俺とレイナはそそくさとその場を立ち去った。
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