俺にとってダンジョンとは

 俺にとってダンジョンとは気軽に遊びに行ける宝探しの場所だった。琥珀やアメジストのかけら、様々な石。それが俺が知る、俺にとってのダンジョンだった。そこは人間の村に囲まれてて魔物が住み着くこともなく、安全な場所として認識されていたからだろう。

 だから旅に出て勇者パーティに入れて貰えた時も怖いとは思っていなかった。賢者さんと剣士さんがいて、比較的パーティは順調に洞窟を進んでいたと思う。


 巨大なドラゴンを俺が見付けてしまうまで。


「ぎゃー!」


 俺が叫ぶと同時、目を覚ましたドラゴンは容赦なく火炎放射をしてきた。


「危ない!」


 俺を庇ったのはパーティの全員だった。

 賢者さん、剣士さん、勇者さん。人の焦げる匂いを嗅いだのは、思えば初めてだった。

 気が済むまで火を噴き散らしたおそらくダンジョンの主は、また眠りの体制に入る。俺は慌てて薬草を持って勇者さん達の方に駆け寄った。

 皆目が死んでいて、あーうー言うだけになっていた。

 まずい、と思う。ゾンビ化だ。


 俺は取り落していた杖を持って、慌ててダンジョンの入り口まで駆け出した。


 ゾンビを元に戻す魔法はないでもないが、レベルとセンスの問題で俺はまだ身につけてはいない。何とか入り口に帰りつくと、殆ど冒険者はいなかった。それもそうだろう、茜空。魔物の時間帯が近づいている。確か走った場所に教会があったはずだ。そこまで逃げ込めば勇者さん達のゾンビ化も浄化されるに違いない。俺は慌ててコンパスの向きに従い走り出した。が。


「びゃあああウーシーの大群!」


 ミルクを出したり肉になったりする動物のウーシーが大群で道を遮っていった。その間に勇者さん達が追い付いて来る。ゾンビは動くのは鈍いけれど目標は確実なのだ。迷惑なことに。

 やっと大群が通り過ぎて、俺はまた走り出す。夜空が近づいていく。早く教会に行かなきゃ。


 何匹も何匹も邪魔な位置にいるモンスターを倒していくと、自分の中にマナが蓄積していくのが分かる。マナは魔法の元のようなものだ。レベルが上がっているのだろう、最初は詠唱の長い代わりに必殺魔法しか使えなかったが、だんだん早口も出来るようになったし足も軽くなっていくから逃げるのも早くなっていく。あ、と白い明りを見付けて、俺はホッとする。

 教会だ。あそこにさえ辿り着けば――


「ぎゃあっ!」


 夜の力で走るのが早くなっていた勇者さんに、俺はとうとう追い付かれブーツを掴まれる。転ぶと賢者さんや剣士さんが俺を取り囲んでいた。まずい死ぬ。

 せめて試してみたかった光魔法を、俺は杖を翳して唱えてみた。


 きらきらと雪のようなものが降り、脚を掴んでいた勇者さんの手も力が緩む。死んでいた目に光が灯り、あれ? あれ? と三人は自分達の身体を確認していた。


「確かドラゴンの火でやられた――よな」

「服装もぼろぼろだし、それは合ってるはず」

「そんで手近な肉を追い掛けて――」

「そう、逃げて行く肉を追い掛けて――」

「お前が俺達を助けてくれたのか!? 浄化魔法なんて高等レベルだぞ!?」

「本当は教会まで逃げるはずだったんですけど、なんとかなって良かったです……」


 さて今日は教会に泊めてもらおう。それから道すがら集めた小銭で勇者さん達の装備をランクアップして、またダンジョンに行こう。今度はうっかり悲鳴なんて上げないように。もしゾンビ化しても、今度は解除魔法が使える。どうにもならなかったらやっぱり教会を目指すしかないだろう。

 ラン・アンド・ラン。出来れば次は龍の尾ぐらい持ち帰りたい。龍の攻撃を無効にできる装備が作れるから。


 とりあえず今日は疲れた。よろよろ教会に入ると、浄化された空気を胸いっぱいに吸い込めて、それは気持ち良かった。

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ゾンビ化した仲間から逃げろ! ぜろ @illness24

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