四季廻々
花楠彾生
序幕
その山の中腹には、小さな古い神社が一件。鳥居は崩れ、草は伸び放題。大きく切り出された石畳すらも分からない。周りは木々に覆われ陽の光りさえ届かない様な、古びた神社だ。今現在、麓の村に住む者も存在すら知らない。誰が建てたのか、いつ建てられたのか、それすらも分からないその神社の名は、
麓の村は
一家の上の子供がある日、深山へ入った。入ってはいけない山に足を踏み入れた。虫を取りに来たのだった。幾分か歩いた時、彼は神社を見つけた。
(かなり奥まで来てしまった。帰らなければ多分ヤバい……)
本能でそう思わせる程神社は荒れ果て、不気味な雰囲気を辺りに漂わせていた。
帰ろうとして気付いた。誰か居る。見えないけれど感じる。彼は近くの木の影に隠れ鳥居を凝視する。
「嘘だろ……」
見えた。見えてしまった。崩れた鳥居の前で、静かに佇む一つの影を。それは純白の着物に朱の羽織を纏った、髪の長い者だった。
彼は目を離せずに居た。不気味なはずのその影が何処か魅力的だったから。
何故此処に居るのか、何を想っているのかも分からない不気味なその影は、風が吹くと同時に消え去った。
彼は走って山を下りた。何度も転んだが、痛みなど感じなかった。それ程に少年の体は恐怖で支配されていた。
村に足を踏み入れた時、彼は忘れた。山で見た物は疎か、山へ入った事も、傷も全て無くなっていた。
少年が持っていた新品の虫取り網は、水鉄砲に変わっていた。
「川、行こう」
少年は全速力で走り出す。それを見た神は呟いた。
「可愛い少年じゃないか」
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