【第1回 エイル&クロノヒョウコラボ企画】忘れられた城の幻獣

 目の前に並ぶ五人が僕を見てる。

 中央に位置する彼が大きな体に腕を組み僕を睨みつけ、僕を責めるように言った。


「今度はお前の責任だからな。すっぽかしたら承知しないぞ」

「いや、ごめん、僕はその……」


 しどろもどろになりながらも、必死で言い訳を探す。


「うるせえ! いいな、忘れるなよ。

 あの忘れられた城の庭に隠した幻獣ニャゴンの世話、お前の責任だからな!」


 反論できなかった。

 僕の逃げ道はなくなった。


***


「どうした、純? テストが終わったから一緒にゲームやるんだろ?」


 コントローラを持ち、ばっちり準備を整えている父さんが、不思議そうに問いかける。

 一緒に進めて来た超人気ゲーム『忘れられし城塞都市の使徒』。むしろ父さんの方がやりたいのを僕は知っている。


「一人で先に進めたら許さないんだからね!」


 テストが終わるまで父さんにゲーム禁止を出した反動。

 父さんがすごい期待した目で僕を見る。


「なに牛乳もってぼうっとしているんだよ。続きをやろうぜ」


 むむむ。

 なんとか父さんの気を逸らさねば。


「僕もテストの結果を少し見直したいんだ。先に進めてくれないかな?」

「小学生の癖に、なに頑張ってるんだよ。

 後で父さんが一緒に見てやるから、ゲームやろうぜ!」

「まだ忘れないうちにさ。

 次のクエストを進めてくれていいから」

「何、寂しいことを言っているんだよ。

 クエストは父さんと一緒にクリアさせるんだろ。そう言ってたじゃあないか。

 十二使徒の聖典が揃えられたし、父さんも続きが気になってるんだぜ?」


 駄目だ。

 やっぱりゲームしたくて仕方がないらしい。それも僕と一緒に。

 何か気を逸らさなくては……


「あのさ、お願いがあるんだけど」

「お願い? なんだ?」

「友達から聞いたけど十二の聖典を集めて最後の審判のクエストに入る前に、反逆の第十三使徒ルシファーの第十三番聖典を探すって裏クエストがあるらしいんだ」

「ほほう?」

「第十二番聖典のあった階層に第十三使徒に繋がるポイントがあるらしいから、探してくれない?」

「合点だ! 父さんに任せておけ!」


 言うが早いか、既にゲームを始めている。

 どれだけ飢えていたと言うのか。


 ごめんね、父さん。

 僕には秘密の使命があるんだ。


 心の中で謝り、そっと家を抜け出した。


***


「お~い、純! 見つからないぞ!」


 息子に言われて裏ルートを探し始めたが、既に探索し尽くしたエリア、すぐに飽きた。

 時計を見ると一時間近くが経過。一人でゲームをしても寂しいではないか。


 ちょっと様子を見に息子の部屋を叩くが応えはない。

 そもそも家の中に息子の気配がない。

 父親を放って、出かけてしまったのだろうか。


「何だよ、寂しいじゃないか」


 仕方がない、コンビニでも行くか。


 歩きながら思い出す。

 何か父親に隠れてこそこそしていたような。


「こんにちわ」


 考え事をしながら歩いていると、よく家に遊びにくる朋哉君が挨拶してきた。

 挨拶を返しがてら純のことを聞いてみる。


「知っているよ。

 今日は忘れられた城で幻獣の世話をする番なんだ」


 忘れられた城……て、今やっているゲームの舞台じゃん。

 勇者アステルが単身乗り込み、古の使徒と戦う場所。


「そうそう。ボク達の間で、あの公園をそう呼んでいるんだ」


 そう言って指差した先にあるのは近所の城址公園。

 確かに城があったことなんてみな忘れているけど、なんか格好良いな。


 朋哉君に純の場所を聞きお礼を述べ、その場所へ向かう。


「いたいた、純! 何もこそこそしなくていいだろ?」

「父さん! 何でここに!?」

「そこで朋哉君に聞いたんだ。何やっているんだ?」


 近づこうとすると、必死で止めようとする純。


「駄目だって! こっち来ちゃ! 幻獣がいるんだ、お父さん死んじゃう!」

「いやいや、お前何言ってるんだー。

 リアルとゲームを一緒にするなー」


 気にせず歩み寄ると、純の焦りは歩を進める毎に度を強め。

 ついには。


「駄目だって言ってるのに! 死んじゃやだー!」


 わーん、と泣き出してしまう始末。


 なにごと!? と驚く父親が見たものは、繁みに隠された数匹の子猫とミルクだった。


***


「ゴメンな、純。父さんが悪かった。

 父さん、猫アレルギーだけど、触っただけじゃ死なないから」


 ふざけて猫アレルギー体質を大袈裟に純に吹き込んだ過去の自分を大いに反省。

 空想の中で過去の自分を殴りつけ、純が落ち着くまで宥めた。


「でもな、純。

 この猫達、このままだと怖い人達に連れ去れてしまうぜ?」

「うん、みんなそう言ってる。でも、誰も貰ってくれないんだって」


 しょげる純。

 そんな息子の頭に手をぽんと置く。


「そんな顔するな。父さん、これでも友達多いからな。

 興味がありそうな奴ら、二、三なら心当たりがある。

 一緒に行って、引き取れないか聞いてみようぜ」

「ホント? この子達、助かるの?」

「まだ分からないけど、なんとかしようぜ。

 クエスト貰い手探しはお前と俺でクリアする。そうだろう?」


 そう言ってニカと笑う父親は、純には勇者アステルのように輝いて見えた。

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