埋まらない“傷”のお薬

時雨悟はち

前話 2年前の事件

ぼやっとした気持ちで、テレビを見ていた。

見ていた番組で特集されていたのは、2年前に起きた殺人未遂事件。きれいにまとめられているのに加え、ドラマ風の再現ビデオがさらにわかりやすさを引き立てていた。

ただし、それはすべて公に出た情報のみだった。


「…つら、いな…」


見るに絶えなくてテレビを消した。

寝ているとき、あの日の夢を見たような気がした。



その日は、僕がちょうど反抗期真っ只中でなければいけない時期だった。

ただ、その時の僕は反抗は全くしなかった。

それは単純に反抗期が来なかったわけじゃない。

簡潔に言うと、両親は毒親だった。

幼いころから、僕はかなり周りから褒められるタイプだった。ただ、それを悪く捉えた親は、幼いころから勉強勉強と。強要をし、従わなかった場合、暴力や罵倒に頼る教育をしてきた。

成績は劇的に伸びた…ということはなく、どれだけ強要されても成績は伸び悩んだ。

そして、テストを見せるたびに「どうしてこんな点数なんだ」と罵倒と暴力を浴びせてきた。

そんな生活に、だんだんと精神が擦り切れていった。



ある日、とうとう限界が来た。それが、今の生活になる前の最後の週になった。

その週。僕は綿密に計画を立てた。ただただ僕が彼らを殺すだけわけじゃない。それじゃ僕は気が晴れないと思ったからだ。

計画は、彼らを極力社会的に殺す計画だった。


その夜。僕はリビングでスマホをいじっていた。

そうしているといやでも両親は帰ってくるわけで。


「…お前、何してるんだ」

「ゲーム」


僕はその問いになるべくそっけなく返した。


「そういうことじゃないんだよ!勉強は!?ちゃんと…」

「うるっさいな~やるって」


それは、僕のささやかで、大きな反抗だった。

案の定。親は目をひん剥き、耳が痛くなるほどの大声で


「うるさい!!?お前誰に向かって口きいてるんだ!!?」


と怒鳴ってきた。


「わからんの?あんたやあんた!あんたに言ってんの!」

「な、んだと…お前…誰に口きいてんだ!!!」


そう言って、頭に血が上ったといわんばかりに怒り狂った目でこぶしを振り上げた。

想定内。ここまで想定内ならば、このままのプランで行けるだろう。

胸元に入れておいたカッターナイフを取り出した。


「!?!おま…」

「もうこりごりだ!あんたを殺してやるよ!」


だが、力で適うはずもなく。あっさりとカッターナイフを取り上げられてしまった。

彼は、自分があわよくば殺される、という恐怖を植え付けられ、正常な判断ができる精神的な余裕はなかった。


「お、お前…う、うわあああああああああ!!!!」


振りかぶったその腕は、右の脳天に刺さった。


「あ、ああ…」


彼は血がべっとりとついた手を震わせながら腰を抜かしていた。

俺は、最期の力を振り絞り立ちあがった。

彼を見下ろし、頭から流れてくる血が垂れるのを構わず、見下し、高圧的に初めて反抗した。


「…これ、で…殺人、だな…」


その後、意識は吹っ飛び、気づいたら見慣れた病院のベットで横になっていた。

朝日をとらえ、僕は右腕を一生懸命に伸ばし、ナースコールを押した。

まもなくして、看護婦さんがやってきて


「どうしましたか?」


と聞いてきた。

僕は、1秒ほど言葉に詰まらし、やっと言葉にした。


「…車、椅子。の、せてく、ださい」


終始ボーっとしながら車いすに乗り、ハンドル代わりのレバーを操り、屋上へと向かった。

フェンス越しに空をボーっと眺めていたら、後ろから足音が聞こえてきた。

それでも反応には秒がかかった。だから、振り向くことよりも先に、足音の主からの声が聞こえてきた。



「…ボーっと空を眺めてどうしたの?」


これは、過去の代償を埋めてくれる“薬”とのお話。

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