第23話 異世界の転生者は考える

「お久しぶりです、ヴァンド子爵。お元気そうで何よりです。少し顔色が悪い様に窺えますが?」


「ヘンリー・バルーク様、お久しぶりで御座います。少しだけ…ですが、問題ありません。」


「無理をなさらぬように。私を頼って頂ければ幸いです。本日はエスコートを拝命出来てとても嬉しいです。これを機に、仲を深めることをしていきたいものです。」


「あら、お上手。ですがお忘れなく。そして、本日はお願い申し上げます。」


「心得ております。お手をどうぞ。」


来ちゃった。

王城での懇親パーティー。

ヴェル姉さんはバルーク公の御子息、ヘンリー様にエスコートしてもらってる。

綺麗なヴェル姉さんと格好良いヘンリーさん。

お似合いのカップルと思われます。

でも、婚約はしていません。


何回かヴェル姉さんと一緒にヘンリーさんは社交に顔を出している。

因みにヘンリーさんはヴェル姉さんに婚約を申し込んでいる。

一目惚れらしい。

「好きなの?」ってヴェル姉さんに聞いたら「全く?」と言っていた。

脈無し…。


そして、私はバルーク公に、メアリーはバルーク伯に。

婚約者のいない子供は親族と出席するものなのです。

私たちにはもういないけど…。

じゃあ、マリアンヌ様はというと。


「お兄様、今日はお願いします。」


「ああ。マリアンヌは少し、いや。見違えたよ。何かあったのかい?」


「ふふ、とっても良い事よ。ねぇ、リズ。」


「はぃ?」


何故私に振るのでしょうか?

バルーク公の次男さんのロッテンさん。

バルーク家の方々はイケメンしかいないのかな?

いや、貴族全般って訳でも無いかな…。

基本どこの人も顔立ちが整っている人ばかりだし…。


「君がリズベルタ嬢かい?マリアンヌと仲良くしてくれてありがとう。」


「い、いえ。私が良くしてもらってるだけなんです、はい。」


「そんなこと無いわ。リズと私は親友なの。ほら、このリボンもリズが選んでくれたの。どうかしら?」


「ああ、やっと違和感の正体が分かった。マリアンヌはリボンをあまりしなかったからな。でも、とても似合っている。リズベルタ嬢の審美眼は、目を見張るね。」


「そうでしょうそうでしょう。私の宝物なの。リズにはほら、サファイアのペンダントよ。ピアスと指輪と、一式揃えたかったのだけど…。」


「はは。それは世の紳士に譲って欲しいな。リズベルタ嬢の可憐さであるなら、婚約者を見つけるのは容易いだろう。」


「リズには素敵な殿方を射止めてもらうんだから。私が、私が監修してあげるわ。」


マリアンヌ様ってこんなキャラだっけ?

何度でも思っちゃう。


「リズちゃん、どうだい?ロッテンと婚約するのも有りだと思うよ?」


「バルーク公…。簡単に決めてよいものではありませんよ?」


「簡単に決めて何ていないさ。僕は僕の目を信じるからね。ヴェルちゃんも、リズちゃんもメアリーちゃんも。ヴァンド子爵家とは今後も良い付き合いをしたいんだよ。」


「バルーク公はご存じでしょうが…バルーク伯は公正です。交易品に融通はつけれませんよ?」


「そっちに取られたか…。まぁ、そう見てしまうのも無理は無いかな?」


「?」


良く分からない。

ロッテン様の様な人なら既に婚約者はいそうなんだけど…。


「お兄様は婚約者を決めていないの。もう18にもなるのに。」


「私はしばらく自由にさせてもらうよ。跡取りの事は兄がいるからね。」


「こう言っては逃げていますの。リズ、どう思います?」


「え、えっと。私には答えられないとしか…。」


何を言えば良いの?

人に助言とか意見とか言えないんですけど…。

というか…さっきから視線が気になって気になって…。


「いや、いっぱい見られているね。リズちゃんの美貌に惚れちゃってるんだよ。」


「車椅子を見てるんだと、思いますよ?」


「…リズちゃん。もう少しさ、自信持とうよ。すっごい綺麗だよ?」


「む、無理です。」


ヴェル姉さんとヘンリーさんは色んな人と交流している。

メアリーはバルーク伯に連れられて挨拶回り。

バルーク伯との約束通り、騎士の人たちと挨拶している。

ドレス切るのにごねちゃったから…。


マリアンヌ様とロッテン様は私の傍に良く居てくる。

バルーク伯が心配してくれてお願いしてくれた。

マリアンヌ様は快く引き受けてくれた。


「そういえば、どれか良さそうな人見つけたかい?」


「み、見れませんよ。」


「そんな事言っちゃって~。リズちゃんも女の子なんだからさ。」


「無理です。私は無理です。」


「残念。でも、良さそうな人を見つけたら声を掛けなよ。一発だから。」


「失礼します。お嬢様、軽食をお持ちしました。」


「あ、ありがとう。ウィンディ。」


実は、料理の方には目移りしていた。

美味しそうな料理が多いから…。

王都に来てよかったことは料理が豊富な事。

ヴァンド領も砂糖の交易を増やそうとは画策している。

思うようにはいかないけど…。


「美味しそうに食べるね。僕も貰って良いかな?」


「お取りいたしましょうか?」


「お願いできるかい?肉多めで。」


「畏まりました。少々離れますので、お嬢様をお願いします。」


「任せて、ウィンディくん。」


小っちゃいケーキが美味しい。

私でも一口で食べられるサイズなのに、かなりこだわりを感じるデコレーション。

職人さんってすごいなぁ。


「麗しの君、どうかお名前をお教えいただけませんか?」


これ、なに?

甘いんだけど…砂糖って感じがしない…。

はちみつ?

さっぱりしとた甘さでムラが無い。

美味しい。


「あの、お嬢さん?」


肩を叩かれて気付く。


「美味しいものを食べてる時にごめんね。リズちゃんにお客さんだよ。」


「はい、どちら様でしょうか?」


「んんっ。申し訳ありません。私、ロータス・マクガネルと申します。宜しければ、麗しの君のお名前をお教え下さればと、挨拶をしに参りました。」


「麗しの君が誰かは存じませんが、丁寧な挨拶を有難う御座います。このような姿で申し訳ありません。私はリズベルタ・ヴァンドと申します。お見知りおきを。」


「…リズベルタ嬢と、お呼びすることをお許しください。」


「はい、構いませんよ。マクガネル様。」


「私の事はロータスとお呼びください。リズベルタ嬢、不躾な質問宜しいでしょうか?」


「この姿の事でしたら、私は生来足が動かないのです。ですので、ダンスにお誘いいただくのはどうかお許しを。」


「答えにくい事を、申し訳ありません。宜しければ、傍にいる事を願いたいのですが?」


「えぇと、此処には特に何もありませんよ?」


「いえ。ただ、私は貴女傍にいたいだけなのです。」


「えぇと、ロータス・マクガネル様。見ての通りなのですが、私の傍にはバルーク公がおらます。バルーク公とお話なさるのであしたら、仰っていただければ私は何も耳にしませんよ。」


「いえ、そうでは無いのです。あれ?俺が可笑しいの?」


「はは、見物だったよロータス。残念だったな。第一印象すら微妙だぞ?」


「うるせぇ、ロッテン。なんでお前が傍にいるんだ。喋り辛いだろ。あっち行けあっち。」


「私は麗しの君の男避けも任されているんだ。本で聞きかじったかは知らんが笑えるな。」


「黙れ!俺には死活問題なんだよ!」


「リズベルタ嬢、婚約者を探す男はこんなもんだ。気を付けなさい。」


「変な事を吹き込むな!あ、いや。リズベルタ嬢、誤解だ。聞いて欲しい。」


「麗しの君。」


「黙れロッテン!向こうにいけ!」


「お兄様、私にご紹介くださいな。」


「そうだな、紹介しよう。婚約者を探して数年。学園でも汗臭いとして有名な男でな。」


「止めろよその紹介!」


「このように、粗野な口ぶりに態度でな。学園に通う淑女からの評判はあまり良くない男、マクガネル子爵が次男ロータスだ。剣の腕は良い方だぞ。私よりは下だがな。」


「ホンっとに止めろよ。お前のその腐った性格嫌いなんだよ!」


「マリアンヌ。お前には近寄って欲しくない男の筆頭でもある。だが、悲しいか。挨拶はしなさい。」


「ムカつく!てめぇの性根は何なんだ!」


「お兄様…。」


「ああ。挨拶させなさい、ロータス。モテないぞ?」


「…。」


なんだか寸劇を見ている感じが…。

終始圧倒されていた気がする。


「初めまして。私はマリアンヌ・バルークと申します。以後よしなに。」


「…ロータス・マクガネルで御座います。ロータスとお呼び下されば。以後、お見知りおきを。」


ロータス様、マリアンヌ様に圧倒されている。

公爵家だし、美少女だもんね。


「ロータス様はお兄様の御学友であらせられますの?」


「…はい。剣部課にてともに修練する仲です。」


「そうなんだよ。剣に一辺倒でね。将来は騎士を志しているんだ。だが、如何せん頭が…少し、な。」


「一言二言…お前は余計な事しか言えんのか。」


「本当の事しか話していない。なんだい、ロータス。私は嘘を言っているのかい?」


「もう少しくらい包み隠せと言っているんだ。」


「必死さが見て取れる。リズベルタ嬢、君から見てこの男はどうだい?」


こっちに振らないで!?

ロータス様からの視線が痛い。

分かってますよね?みたいな目は違うと思うんですが…。


「わ、わからない…です。」


ちょっとした波乱の…幕開けである。

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