『罪なき魔力の増幅者(マナバッファー)』 ~勇者パーティから覚えのない罪を着せられ追放された俺、味方を強化してたスキルの真価に目覚め最強となる。「ところで勇者よ、あなたの悪事が暴露されてますが」~
メソポ・たみあ
第1話 追放、からの処刑
「エルト、貴様を我が勇者パーティから追放する」
俺に対してそう言い放ったのは、〔勇者〕カインだった。
本名カイン・グリード。
『ルーシティ王国』を代表する冒険者であり、国に大きく貢献した者だけがその称号を預けられる正真正銘の〔勇者〕である。
スマートで爽やかな印象の男だが、実のところ相当にプライドが高く、常に自分が一番でないと許せないという難ありな性格でもある。
端的に言って、自分の思い通りならないとすぐ不機嫌になるタイプの人間だ。
一方その実力は確かなもので、彼の人となりを知らない民衆からはそれなりの支持を得ているのも事実。
そして俺ことエルト・ヘヴンバーンは、そんなカイン率いる勇者パーティの〔魔術師〕なのだが――
「は……? お、俺が追放ってどういうことだよ!?」
「理由は二つ。……まず一つ目の理由、それは貴様が役立たずだからだ」
「俺が……役立たずだって?」
「そうだ。貴様の攻撃魔術は弱すぎる。先日の
……確かに、俺は〔魔術師〕でありながら魔術の攻撃力が低いのは事実だ。
俺単騎では
というよりも、俺はそもそも魔力の量が低いのだ。
強力な魔術なんてまともに使えないし、使えたとしてもすぐに魔力切れを起こしてしまう。
勇者パーティは強敵と戦うのが前提、そういう意味では俺は確かに弱すぎるのかもしれないが――
「で、でも待ってくれよ! 確かに俺の魔術は弱いかもしれないけど、これまで【
――俺には、【
15歳になると行われる成人の儀、そこで天から俺に授けられたのがこれだ。
その効果は〝味方の魔力を増幅する〟というシンプルだが強力な物で、最大対象数は五名。
右手に着けた五つの指輪に名前を彫ってコントロールし、俺の魔力回路と繋げることで魔力を増幅する。
魔力とは生命の源の一つであり、それをデメリットなしに引き上げるという恩恵は相当な物のはず。
これがあるからこそ、俺は魔術が貧弱でも皆の役に立てていると思っていたが――
「ああ、最初はそう思った。だがパーティの戦績が上がったことに貴様のスキルが関係していると、何故断言できる? メンバー全員の実力が上がっただけではないのか?」
「それ、は……!」
俺が答えられないでいると、同じテーブルに座ったパーティメンバーがうんうんと頷き始める。
「オレも同感だ。エルトなんぞいなくても、オレたちは十分強い」
「魔術師なのに、やっぱり魔術が弱くちゃ雑魚よねぇ」
「右に同じ。エルト、いらない」
「……」
俺と同じ勇者パーティメンバーである〔大剣士〕グンツ、〔斥候〕パウラ、〔弓手〕ロンベルト、〔回復師〕ニーナ。
彼らも口を揃えて批難するが――俺と旧知の仲であり、幼馴染でもあるニーナだけは俯いたままなにも言わない。
「おいニーナ、なんとか言ってやってくれ! 俺だってまだ役に立てるって――!」
「……フッ、やはり彼女に擦り寄ったか」
「なに……?」
「貴様がニーナを利用しようとすることは予想していたからな、僕が予め忠告しておいた。残念だが、彼女が貴様を擁護することはない。貴様のような|悪党(・・)など、な」
「俺が……悪党……?」
「正直に言えば、貴様が役立たずなだけならまだ温情もあっただろう。だが――エルト、貴様〝罪〟を犯したな?」
カインの口から出た単語に、俺は思考が止まる。
それは全く身に覚えがなかったからだ。
「つ……罪、だって……?」
「ああそうだ、これが二つ目の理由。以前から怪しい奴だとは思っていたが、王都における殺人、窃盗、婦女暴行、汚職、賄賂……他にも貴様が行った犯罪の数々が立証された。この僕が直々に証拠を掴んでやったよ」
「なっ……なんだよ、それ……!? 俺は知らないぞ!」
「惚けても無駄だ。既に証拠は揃ってるんだからな。すぐに国から処分が下されるだろうが――間違いなく
口元に笑みを浮かべて、カインはそう言い捨てる。
直後にグンツとロンベルトが椅子から立ち上がり、俺の両腕を掴む。
そして俺を部屋の外へと連行していこうとする。
「オラ! とっとと歩きやがれ、この極悪人が!」
「独房は、既に用意した。抵抗は無意味」
「ま、待て! 俺はそんなことやってない! 俺は無罪だ! ニーナ、なんとか言ってくれ! ニーナァッ!」
「……っ」
俺が最後に見たのは、必死に言葉を押し留めようとするニーナの顔だった。
◈ ◈ ◈
――エルトが連行された後、カインはそっとニーナの肩に手を添える。
「怖かったね、ニーナ。あの凶悪犯罪者は、最後までキミを利用しようとしてたよ」
「いえ…………でもやっぱり、どうしても信じられないんです……。エルトは絶対、絶対そんなことをする人じゃない……っ」
ニーナは声を震わせる。
彼女は美しい銀色の髪と蒼い瞳、そしてなにより絶世といって差し障りない女神のような顔立ちをしており、彼女を見た者はほとんどが一瞬で虜にされる。
さらにスタイルも抜群で、〔回復師〕の冒険者服では豊満な胸が収まり切らず、常に胸の谷間が露出しているほど。
そんな神に愛されたと言っても過言ではないニーナに言い寄ってくる男はこれまで無数にいたが、彼女自身は自分の外観がコンプレックスであり、がっついてくる男たちも苦手だった。
けれどエルトだけは――ニーナの見た目ではなく大人しい性格を好み、一人の幼馴染としてこれまで接してくれたのだ。
そんなエルトに、ニーナは心惹かれていた。
ニーナはエルトの人柄を誰よりもよく知っている。
だからこそ、彼がそんな罪を犯すなんて到底信じられなかったのだが――
「悪いことをする奴に限って、そういう善人面をするものさ。大丈夫、アイツがどんな暴挙に出たとしても、必ず僕がキミを守るから……さ」
「っ……」
カインのニーナに触れる手は徐々に肩から腕、そして手の平へと移っていく。
その動きはどこか湿り気を帯びており、ニーナはとてつもない不快感を覚える。
もはや誰も邪魔者はいない――
エルトが
これで――これでニーナは、僕のものだ――
カインは一人、ほくそ笑むのだった。
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