第6話
藤堂先輩に会った後、俺は家に帰ってご飯と風呂、歯磨きを済ませ、自分の部屋で勉強を始めたのだが…。
「なん…だと…」
気付くと、俺はベットの上で横になりで、窓から見える外には暗闇が無くなっていた。ムクっとベットから起きると窓からの外はやはり明るかった。
「と…言う事は…」
勉強をどこまでしたかの記憶が無くなっていた。
いつからか疲れてベットで眠ってしまったのだろう。
そんな事を考えていると、ふと思い立ち、ばっと布団を跳ね除けると時計を見た。遅刻という可能性が頭をよぎる。
だが、その心配は無用だったようだ。
いつもより起きている時間より30分ほど早いかった。
全然余裕だ。
疲れて遅く寝ると、かえって長く眠れない現象が起きたのだろう。
「素晴らしい朝だな」
その一言は誰に向けたものだっただろうか。
最低でも自分自身には向いていただろう。
だが、自分でも可笑しく思うほどの棒読みだ。
二度寝も考えたが、二度寝すると本当に遅刻しそうで怖かったのでやめた。
机を見ると記憶に無い昨日の自分がやっていたであろう数学の問題集とノートと鉛筆そして消しゴム、赤ペンが置いてあった。
左に問題集、右にノート、ノートの右上に鉛筆と消しゴム、赤ペンがくっている置いてあるレイアウトだ。
ページ数を見るになんだかんだ進めていたようだ。
「…根性で丸つけしたんだろうな」
見ると御丁寧に丸付けがされており、最後にはまるで被害者のダイニングメッセージのように赤ペンで"TODO 見直し"と書かれていた。
一番最後の問題の丸なんて寝ぼけて描いたせいか、半円になってる。
そんな状態でも丸付けをする不器用さは夜彩凛だなと感じ自嘲気味な笑いが溢れる。
頑張ったんだな昨日の俺…。
君の死は無駄にはしないぞ。
結構量あるし、帰ったら見直ししよう。
俺は朝ご飯を食べ終え支度を終えると、外へ出た。
30分程早く起きたおかげでいつもより早く家を出ることが出来た。
玄関の戸を開けると、そこには春の暖かさと青空が広がっていた。
とその時だった。俺は不意に立ち止った。
別に今日を始めたくなくなったから、止まったわけじゃない。
俺の自宅の前にある家を出ようとしていた雪憐と出会した。
いつもの高校の制服に身を包み、いつものショートヘアをした雪憐だ。
昨日と何も変わっていないのに、会う場所と時間を変えるだけでまるで"電車で最初に再会したあの時"をもう一度体験したような気分になった。
雪憐は一瞬驚いた顔をしたが、またいつもの顔に戻る。
2度も会ったのだし雪憐の中では割り切ったのかもしれない。
俺を4年前の凛としてではなく夜彩先輩として接する事に関してだ。
歳月は人を成長させ、変える。
油分が適度に乗った色っぽく艶のある髪、美しい曲線を描く身体の輪郭、そして服越しで分かるその柔らかそうな張りのある膨らみは女性としての証であり、
4年前雪憐に抱いた感情がより大きくなって蘇り、深く俺の心に焼き付かれた。
時間は待たない。常に人は変化する。
だから、変わった雪憐を俺は受け入れないといけない。
だが、理解はしていても、受け入れる事がまだできていない。
優しげな風が俺たちの撫でるかのように横を通り過ぎた。
雪憐の髪は風を受けさらさらと靡く。
まるで海の宝石のような砂が風に待ったような美しさだと感じた。
布でできた雪憐のスカートはパタパタと下の部分が揺れ、それは何かを誘っているかのようだった。
その誘いを、俺は理性で欲望を抑えて、正しい選択をしようと努力する。
無難な問いかけが最善の選択だと思った。
「おはよう。雪憐」
だから、俺は後輩に挨拶をした。4年前の解決すべき事があって、それらは解決しなければならないが、それは4年前であって今起きた事じゃない。今は"夜彩先輩"として接するべきだ。
俺が挨拶すると、雪憐は安心したように微笑んだ。
「おはようございます。夜彩先輩」
雪憐の微笑んだ顔は辛そうな顔や凛とした顔より似合っていて、雪憐にふさわしい表情だと俺は思った。しかし、いつもの雪憐の表情よりも4年前のあどけなさを感じられた微笑んだ顔の方が良いと思うあたりに、自分がどれだけ後悔しているか理解もできる。
「雪憐も最寄り駅は俺と同じなのか?」
俺が聞くと雪憐は答えた。
「先輩と同じです」
「雪憐はこのくらいに家出てたんだな」
雪憐は俺を見ながら聞くと、雪憐は道路に視線を向ける。
何かと思い、道路の方を見たが別にエイリアンがいた訳でもなく、出勤途中の近所のサラリーマンや学生が歩いているだけだった。
雪憐は言った。
「歩きながらでもいいですか?」
「え?あ、ああ。悪かった」
そういうと、雪憐は駅の方へ歩き出した。
そうだ。学校に行かないとな。
歩きながらでも問題の無い話だし、それに立ち止まって喋った俺の方が明らかに不自然だろう。
こういう思考が回っていないところにもう少し気付けるように、大局的に物事を考えるべきだと感じた。
これじゃあ、どっちが先輩なのか分からない。
少し、歩くと雪憐は振り返って、俺の方を見て、すぐにまた視線を前を向いた。
多分、ちゃんとついて来てるか不安だったから、見たのだろう。
もう、高校生なのだから付いていくなんて事お互い分かっているだけれど、きっとあの頃の名残りがそうさせたのだ。
俺は懐かしさに背中を押され、歩く速度を早めて雪憐と横に並んだ。
雪憐と並ぶと、身長は俺の方が高くなり、当たり前なのだが女子の制服を着ている。
身長も出会った時とは同じくらいだったし、服も違いなんて気にした事もなかった。
どちらがどちらの服を着ても問題無いように思っていたんだ。
「どうしたんですか?先輩?」
考え込んでいた俺を雪憐は心配して覗き込んできた。
覗き込むときにほどけ揺れる色っぽい髪。
雪憐は素朴な善意から心配してくれているのに、俺は邪推な事を考えていた事に罪悪感を感じ、目を逸らす。
純白の物を絵具で汚したような気分になった。
「いや、何でもない」
俺は自分に言い聞かせるように答えた。
「そうですか」
心配そうに言うと、雪憐は距離を取る。
雪憐は心配そうに遠くを見ると、と雪憐は何かを思いついたように「あっ」と言った。
「先輩。ちゃんと朝ご飯食べてます?」
雪憐も4年前の事は分かっているが、触れず、あくまで夜彩先輩として接しようとしている。
それは俺を傷付けまいとする優しさだと思う反面、紗恵の近い空気を読むと言う事にも近い。
それは、言葉通りの意味では無く、4年前から関心を逸らす事が目的で、考える事の放棄だ。
話すら切り出せていないような状態で、客観的には"4年前から逃げている"と思われても仕方が無い。
でも、ちゃんといつか4年前と向き合って話す。
だから、考える事を放棄してはいけない。
「関心が無いなら聞かなくて良いだろ。雪憐の時間が勿体無い」
諭すような声で、俺は前を向きながら言った。
これは言葉通りだ、4年前の事は俺に責任がある。
それなのに雪憐が俺に気を使うのは違う。
雪憐の時間なのだから雪憐のしたい話をすれば良い。
「私は今の先輩を知りたいから聞いているんです」
雪憐のその真っ直ぐとした声色で言われ、俺は驚いた。
罪悪感や恥ずかしさが俺を襲い心の中で後悔という形に変化する。
自分の中の雪憐というものが自分自身によって歪まされ、それに基づいた身勝手な推測で行動していたと痛感する。
実際は俺が考えた事とは違う純粋でシンプルな考えだった。
「…ちゃんと食べてる」
俺は少し間をおくと、小さめの声で答えた。
そう答えると、雪憐は柔らかな表情で微笑んだ。
「本当ですか?先輩、ご飯ばかり食べたりして偏ったりしてないですか?」
雪憐の声は暖かくからかうようであった。
「大丈夫だ。最近ちゃんと、パンも食べるようになった」
と俺が言うと雪憐は少し驚いた声をして
「パンも炭水化物です、先輩。バランス良く食べた方がいいですよ」
そう言われ俺は、
「俺は炭水化物から3大栄養素を作り出せるんだ…」
とふざけ半分で厳かに言うと、雪憐は少しあきれたような顔をした。
「そうでも、ミネラルとビタミンもいりますし、ちゃんとバランス良く食べましょう」
優しい声で諭された。
なんか、標語みたいな事言われたし。
高校生になると不摂生なバランスになりやすい。
…いや、炭水化物ばかりは食べないな、普通の高校生。
小学生の高学年頃、よく料理が得意な雪憐はうちにご飯を作ってきてくれた。
家族との交流もあり、母親も喜んでいたし、俺もあいつの作った料理は好きだった。
小学生だったしそんなに、すごい料理では無かったが、頑張って料理を作った事は伝わった。
それだけで俺は嬉しかった。
昔の感傷に浸かっていると、駅に着いた。
「もし良かったらお弁当、私が作りましょうか」
改札を通った後のあたりで雪憐が言った。
ちょうど、俺の考えていた事だったが、雪憐が知る由もない。
だが、自分の大切な思い出が相手にとっても大切な思い出である事は不思議では無いし、今この話をして雪憐が俺と同じ事を考えていた可能性もある。
「いや、大丈夫だ。手間かかるだろうし」
昨日の母親がくれた弁当を思い出しそうになるがやめる。
あれは中身が余りに栄養バランスが悪く、味が壊滅的な上に、残りものという事で臨時に支給された弁当なので、普段は食堂で食べていた。
やはり外のものは味付けが濃かったし、成長した雪憐の料理スキルも興味があり俺から見ると魅力的な提案であったのも事実だ。
しかし、お弁当をもう一つ作るとなると大変だろうし、なんの対価も無く働かせるのは申し訳ない。
「そうですか。…その…余計な事言ってごめんなさい」
雪憐は申し訳なさそうに言う。顔を俯き気味で少し恥ずかしそうにも見えた。
それを見て少し申し訳ない気分になる。
そして、誤解されないように説明するべきだ、そう思った。
「いや、雪憐がお弁当を作ってくれたらは嬉しいしありがたいが、頼むのもな…」
そうふざけた口調で先輩としての謎のプライドを見せると、雪憐は少しだけ笑って顔を上げた。
「大丈夫です。やりますよ、先輩」
雪憐も優しさからか断言をしてくれた。
「ええ…」
俺は困ったような声で言うと雪憐は答えた。
「報酬は先輩が笑ってくれればいいです」
都市化の代償に人類が支払った物は大きかった。
満員電車に揺られ、大量の人々の海に飲み込まれた俺はそう感じた。
いつもと違うのが隣にいるのが他人では無く雪憐である事だ。
雪憐はスマホを見る訳では無くぼーっとしていた。
いや、口があんぐりと開いている訳ではないし、瞼が閉じそうになっている訳でも無く、
落ち着いた顔をしているから、世間一般的なイメージのぼーっとしているとは違う。
どちらかと言えば、考え事をしていると言った感じか…。
乗り始めて最初の方はそれはもう、雪山に遭難した時のような極限状態であった。
満員電車の中で雪憐と近くにいるのはある意味荒治療だ。
4年前よりも大人びたその少女は先程よりずっと近い距離にいるし、少し揺れれば普通に接触をする。
だが、人間というのは適応する生き物、この荒治療はなんとか、正常な思考ができるまでの成果をだした。
荒治療の成果で、雪憐を見ると、何故スマホをやらないのかと疑問が湧いた。
しかし、良く考えれば知り合いがいるのにスマホをやるのは失礼だ。
俺は人がスマホをやってても、そもそも俺はそいつを知り合いと認めないからセーフだが、
真面目な雪憐はそんな事をしないのだろう。
「混んでるな」
俺は雪憐に言った。
別に答えを求めた訳では無いし、独り言にも聞こえたのかもしれない。
だが、雪憐もこうしてスマホをやらないでいてくれている事もあり、このまま黙って過ごすのも良いことでは無いと考えたからだ。
「ですね。朝ですし」
雪憐は答えた。
「…」
雪憐が答えたはいいものの沈黙が続く。
話を広げる良い話題も思い付かず、ただ時間ばかり過ぎていく。
最初に出会った時もそうだったが、最初の時よりは居心地が良かった。
雪憐は「今の先輩の事が知りたいです」と言ってくれた。
果たして俺はどうだろうか。
4年前の雪憐の事は良く分かってるつもりだ。
では、今の雪憐の事は?
雪憐の本質的な価値観が変わっていなくても、4年という歳月は人の多くの部分を変える。
きっと、俺の知らないところは沢山あるし、4年前とは変わった所も同様だ。
じゃあ、知るべきか。
俺は今の雪憐を知りたいか?
知ったところで、何になる。
4年の歳月を感じるだけだ。むしろ、知る事は苦痛を増やす。
でも、頭の中からこの考えがこびりついて離れなかった。
否定しようとしてもできなかった。
きっと、紗恵ならこうは思わなかった。
きっと、藤堂先輩ならこうは思わなかった。
雪憐が大切だから、選ぶんだ。
かつての花ちゃんではなく、今の雪憐の話をしよう。
「雪憐、『エンドロールと恋の果て』見たか?」
俺はふと、前に見ていた映画の名を言う。
『エンドロールと恋の果て』
くたびれた独身の中年エリート銀行員にある日一通の手紙が届く。
それは彼の初恋の人と同姓同名からで、そこから奇妙な文通が始まる。
と言ったどこかで聞いたような、よくあるあらすじだが、
主人公の一途な想いと、夫と子供がいながらどこか自分に疑問を感じ主人公との間で揺れるヒロインの苦悩と後悔が描かれており、
色々な層から幅広い評価を受けた作品だ。
この手の作品が若者層からも受けたのだから、クオリティの高さは折り紙付きだと言える。
…先ほど、あれだけ、今の雪憐を知るかどうかに悩んだのに、
聞いた内容が「最近やった映画を見たか」なのだから少し複雑な思いだ。
だが、今の雪憐の事を聞いたのには変わりは無い。
雪憐も俺から雪憐のことを聞いたのが意外だったのか驚いた顔をした。
だが、すぐに雪憐は嬉しそうに微笑んで言った。
「見ましたよ。おもしろかったです」
雪憐の率直で非常にシンプルな感想。
だが、適当に答えていない事は顔と声色で分かる。不器用でも一生懸命答えようするその姿は実に雪憐らしかった。
「ああ。そうか」
若者も沢山見ているし、特段不思議ではないが、中3か高1の女子があれを見るのもな。雪憐の事だし流行りと関係無く純粋に見たかったのかもしれない。となると、雪憐は結末を知っているのか。
「結末どう思った?」
『エンドロールと恋の果て』の最後は、
主人公に惹かれながらも、夫と子供へを捨てきれないヒロインを見た主人公は、ヒロインのために関係の解消を提案する。
2人は相手を幼い頃の姿と重ねた後、別れをつげるのだ。特に主人公は美しい初恋を思い出してしまったことで激しく後悔した。
バットエンドかどうかは論争だが、年齢が上がるほどハッピーエンド扱いだ。
「モヤモヤする終わり方でしたね」
モヤモヤする終わり方か…。
一体どういう事だろう。
確かに一般的にモヤモヤはするかもしれないが。
「モヤモヤする終わり方?」
俺は疑問をぶつける。雪憐は考え込むようにして。
「ええ、あれだけ想いがあったなら初恋を叶えるべきかなあって」
少し遠慮しがちな声で答えた。
「でも、失う物が大きすぎたから選べなかったんじゃないか。家族がいたわけだし」
問いがあればに正面から考える。雪憐の良いところだと思う。
「自分にあそこまで嘘を続けても誰も幸せになれないと思います」
雪憐の回答は言い訳が無くシンプルなものだった。
「そうか、じゃあ、バッドエンドか?」
俺は急かすような質問をしてしまい少し後悔した。
「そうですね」
雪憐はそう答えた。
その後、少し俯き気味に間を置いて聞き辛そうに聞いてきた。
「…初恋を選んでも、誰も傷つかなければ良かったと思いませんか?」
その声色は後悔があり、どこか拗ねているようでもあった。
そんな選択があれば素晴らしいことだ。
誰も傷付かず自分の望む選択ができる。
だが、それが無いから人は考えて選択肢を選んで、時に後悔するんだ。
「人は複雑に利害が絡み合ってる、全員が幸せになる方法なんてないだろ。取捨選択するしかない」
「…理想論ですか…?」
雪憐が寂しげに微笑んだ。電車の中では距離が近く、雪憐の顔がよく見えた。その儚げな表情はどきっとしてしまう。
「そう…だな」
俺も少し不器用に笑って答えた。
この会話が続けば良いと思った。
今なら、少しずつ、4年前の事も向き合っていける。
だからこれで良いんだ。
4年前に戻る事はできないけど、ちゃんと"夜彩先輩"と"雪憐"として接する事ができてる。
後は4年前と向き合う事ができれば、先輩後輩としても幼馴染としても両方の関係が大丈夫になるはずだ。
だから、これで大丈夫。
学校の最寄り駅に着いた電車の中でそう思った。
電車から降りるとそこはいつものホームだった。
俺はすでに1年間通った、この場所。
高校1年間で慣れた光景に幼馴染の雪憐がいるというのは、まるで4年前を境に断絶していた、"俺の人生の前半"と"俺の人生の後半"を繋ぎ合わせてくれたような気分になった。
そんな事を考えていると、ふと見慣れない金髪の少女を見つけた。
うちの制服を着ていて、日本の駅にいると相当浮世離れしているなと感じた。
…クリスタさんか。
うちの高校の金髪の少女なんて1人しかいないだろう。
「先輩…」
が隣に居た雪憐がクリスタさんを見つけると酷く驚いたように言ってきた。
戸惑っているのも伝わってきた。
何か自分の犯した罪を見るような表情で、事の異常性を表した。
「クリスちゃん…ですよね…」
雪憐の絞り出すような声で言う。
「あ、ああ……」
どうしてそんな声を出すんだ…。俺は戸惑いの声を上げた。
クリスちゃん。
雪憐が言ったその響きで4年前の記憶が浮かび上がる。
俺はあいつの事を知っているのか。
記憶を辿ろうとすると「やめろやめろ」と頭の中で自分が騒ぎ立て、
周りに人が沢山いるのに時が止まり、俺と雪憐とクリスタしか居ないような錯覚に襲われる。
クリスタがふとこちらに気づきこちらに向いた。
それが引き金となり、記憶の固い何かが外れて、記憶が頭の中を行き渡る。
なぜこんな重要なことを忘れていたのか。
意図的に鍵をかけて封印されていたと言われても驚かない。
俺はクリスタが笑っているような幻覚に襲われて、くらっとよろけた。
「先輩!!」
雪憐が心配そうに呼びかける。
声が遠い。
俺は思い出そうとする。
「大丈夫ですか?!しっかり!!」
俺は"記憶をちゃんと思い出すべきか"か、それとも"雪憐の呼びかけに応じるべきか"。
いや、思い出す必要はない。
何よりも花ちゃんが大事だ。
俺は断片的な記憶をそのままにすることを選んだ。
「あ、ああ…。大丈夫だ。心配かけてすまない」
俺が言うと、雪憐は安心して笑う。
「心配しましたよ…」
俺は苦笑いをした。
「考えるべきことじゃない。それよりも学校へ行こう」
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