第7話
焼け落ちる火。叫ぶ人。
俺はふと地面を見ると、地面があまりに近くにあった。
その事実はあまりにも頼りない。そ
して、周りの騒音は私を不安にさせた。
私はふと右手に重みを感じる。
見ると、花ちゃんが俺にしがみついていた。
大人たちは屋敷を前にして、「消防を呼べ」と叫んでいたが、どこか他人事で無責任な行動に見えた。
「クリスちゃんは…?!ねえ…!!」
花ちゃんが私に叫んだ。俺は黙るしかなかった。
知らない。これは夢だから。でも、何か言わないといけないと感じた。
「クリスちゃんは?!」
ああ、そうだ。あの時も…
「どうすればいい?!」
俺は…
「どうしてこうなっちゃったの?!」
この時、何も答えられなかったじゃないか。パチパチと火がなり、俺をせかした。
「助けて!!凛!!どうにかしなくちゃ駄目だよ!!」
こうするしかなかったんだ。
思い出す必要なんてない。俺の選択によってこうなり過去は変えられない。
ところどころ断片的であり、なぜ家が燃えているか前後関係が思い出せない。
だが、俺に唯一わかるのは花ちゃんが苦しんでいて、花ちゃんに対して俺がひどいことをしてしまったという点だ。
俺は右を向いて、静かに言った。
「分かってくれ。俺達にはどうにもならなかった。仕方ない」
「わからない。分からないよ。私のためにクリスちゃんが犠牲になるなんて…」
少年の願いは少女には届かなかった。
いや、違う、少女は少年の願いを受け入れなかった。
「私のために私の友達が犠牲になるのは間違っていると」、そう言っている。
「私のせいだ…。私がちゃんとクリスちゃんと向き合わなかったから…。私が…私が凛に選択を押し付けたんだ…」
「そうじゃない。聞いてくれ。クリスタがこうなったのは───」
なんだ?なぜこうなった。クリスタはどんな罪を犯した?いいや違う。本当は俺達には関係ない。
別にクリスタがいようがいまいが、関係ない。
ひどく最低なことだ。でも知らなくていい。
別に俺にとって大事なのは花ちゃんで、クリスタのことなんて…。
だが、泣きじゃくる花ちゃんを見て、俺は何も言えなかった。言ってはいけない。
そんなことをすれば、罪悪感で誰かが壊れるか、あるいは関係性が無くなってしまう。
花ちゃんの嗚咽が自分を責めていると感じていた。
一層の事、責めて欲しかった。
「あなたのせいだ」と言って欲しかった。
そうじゃないと、自分の愚かさで自分が壊れてしまいそうだった。
俺にとってこの結末は受け入れがたく、心をえぐり呪いのように、刻み込まれる。
今も終わる事も続ける事もできず、初恋は4年前のかたちをとどめたまま、俺の心の奥深くへと沈んでいっている。
終わりの無い奥底へと…。
目が覚めると、そこは教室で、夕焼けのオレンジが空全体を覆っていた。
周りに誰もおらず、孤独な自分自身を表している気がした。
この夢を見るのは久しぶりだ。
一昔前は、疲れた時にほどこの夢を見た。
何度見ても、全く同じだった夢。
同じだった…?
俺の中に疑問が湧いた。クリスタの事を忘れていたのに。
今まではクリスタの部分はまるでノイズが入ったように自然に切り取られていて、忘れていた事自体を忘れていた。
たぶん、俺は名前自体に関心が無かったのだろう、俺の後悔は"クリスタを傷つけた事"では無く、"クリスタが傷ついた事で雪憐が傷ついた事"なのだから。
そう思うと、"初恋は4年前のかたちをとどめたまま"というのは間違っているのでは無いか。
俺は外見を見てかたちは変わっていないと思っても、実際は奥深くへと沈んでいくうちに、俺の手によって中身は無意識に歪まされグチャグチャになっているのかもしれない。
もはや、俺が呪い、初恋は"4年前の初恋"ではないのかもしれない。
4年前、雪憐に抱いた感情。
聞き覚えのある音がした。
ボーっと夕陽を見て、夢の事を考えていた俺はドキッとして、音の方を見る。
教室のドアから入ってきた雪憐がそこにはいた。
黒とオレンジと白に夕陽に照らされた少女は美しいの一言で、夕陽というものはこの少女のためにあるのか。
夕陽に照らされた少女の髪はもはや芸術。
さらに、夕陽は少女の制服の曲線をくっきりとして、綺麗な肌を化粧した。
神様はこの世にいいものを残してくれたと思う。
こんな美しい少女がいるのであれば、俺は初恋の呪いでもなんでも喜んで受け入れる。
しかし、突然、視界がぼやけ、ゆらりと頭がゆれる。
視界が戻ると、そこには美しい少女はおらず、変わりに、紗恵が雪憐がいた場所に立っていた。
ああ、そういうことか。
重症だなと俺は自分で思った。
初恋の呪いは幻覚まで見せる。
恋は痛みを伴うんだ。
どうして、俺はあいつにあそこまでの想いを抱いてしまったのだろう。
いつからだろう。
なんでだろう。
しかし、一度愛してしまえば、もうどうすることも出来ない。
考えても仕方がない。
そして、忘れたくても忘れられない。
紗恵は黙って、俺のほうに近づいてきた。
紗恵も美少女だ。
雪憐に比べて紗恵は決して劣っていない。
でも、紗恵には美しい以上の事は思えず、身体が燃えて染み渡るような特別な感情が湧かなかった。
いつも通りの感情。
雪憐のように痛みや整理しきれない感情はそこには無い。
「起きたんだ」
俺に近づくと、紗恵は俺の横の席に座り、心配そうに聞いた。
起きてから空を見て考え事をしていた時から急速に意識が戻りハッキリする。
ホームルームの時から記憶が無い。
という事は、その時から寝てしまったんだろう。
朝に駅で、クリスタの事を思い出したせいで、今日一日上の空だった。
「あ、ああ」
俺は返事をする。
少し気怠そうな声だったかもしれない。
と答えると、少し間が空いた。
居心地の悪い空気が流れる。
なんとか、思考を巡らせると、ふと一つのことに気が付いた。
「キモい人を待ってくれたのか?」
俺がジト目で、皮肉を込めて言うと、紗恵は「あーあ」と言わんばかりに頭を抱えた。
別に紗恵がキモいと言った事には俺はなんとも思っていない、だがキモいと言ったのにキモいやつを待つのは理に反している。
その事を皮肉ったのだ。
結局、1日上の空だったせいで紗恵に謝れていなかった。
「別にその事許した訳じゃないけど……。その話まだ続けるの?夜彩はドMなの?」
紗恵は相変わらずその事は許してくれてないようだった。
特に"夜彩はドMなの?"の部分では本当に悪そうな笑顔していた。
確かに、あれだけ怒っていたのだから、当たり前か。
そして、余計になぜ待ってくれたのか俺の疑問が膨らむ。
「Mじゃない。許してくれないなら、俺を待っていたのが不自然だっただけだ」
俺はMではない。
先に重要な事を申し上げてから、本題に入った。
紗恵が俺の価値観では不可解な行動を取る。
もしかしたら、雪憐も待ってくれるのかもしれないが、それでも雪憐の場合は"助けたい"という明確な意思があって助けるはずだ。
「そうなんだけど。その…そんな顔して寝られるとね」
紗恵は先ほどの「ドM?」とは打って変わって申し訳なさそうな自信が無い小さな声だ。
そんな顔をするほど俺に何かあるのか。
ゾンビか?
俺はゾンビになってしまったのか?
紗恵がそれほどの顔をするなんて、ゾンビくらいしか可能性が無い。
「え…?そんな顔?俺、ゾンビにでもなったのか?」
聞いてしまった。
もし、「そうだ」と言われたら俺はもうおしまいだ。
俺は初恋の終着点はゾンビ化によって辿り着けずに死んでしまう。
悲劇的なENDだ。
ついでにそのゾンビ映画の売り上げも悲劇的なENDだ。
いきなりゾンビ化なんて、展開が唐突すぎる。
「ある意味、ゾンビよりたちが悪いね。ほら、鏡」
紗恵だが、ゾンビになったとは言わずに哀れむような悲しい声を出した。
真剣な紗恵の声で少し俺も違和感を感じる。
ゾンビよりたちが悪い顔。
少し怖い反面興味もあった。
「どうも…」
俺は紗恵が貸してくれた、女子が化粧用で使いそうな鏡を受け取ると、いつものように顔を見た。
いつもと同じ顔見慣れた顔。何も違和感は無いと思っていた。
「え…」
見始めて少し時間が経つと、俺は違和感に気づいた。
一度気付くと、違和感はどんどん大きくなり、なぜ最初に気づかなかったかと、真逆の違和感が湧いてくる始末だ。
俺は泣いていた。
正確には子供が泣くような痛々しい悲しい顔をして泣いた後の顔をしていた。
泣くなんて何年ぶりだろう。
そう思うと、今まで何気なく話していた紗恵にこの顔を見せ続けていたのがひどく恥ずかしくなる。
こんな幼稚で辛そうな姿を紗恵に見せるのが嫌だった。
俺は、慌てて紗恵の反対の夕陽が沈み始めた窓の方を見る。
「夜彩、今頃顔を逸らされても…」
紗恵は横から呆れたような声で言った。
確かに正しい指摘だ。
「私だって友達にそんな顔されて寝てたら帰れないよ」
紗恵が同情するかのような悲壮感の漂う声で言う。
これは優しさなのか。
それとも同情のフリをした軽蔑なのか。
わからない。
でも、俺はこれが善意からのものであって欲しい。
仮にもこうしてだらだらと1年、人間関係を続けたのだから。
「夜彩何か、あったの?」
紗恵は絡めとるような声で言う。
俺は反射的に、紗恵の方を見る。
心配してくれているような声で、それは藤堂先輩とはまた違うものを感じる。
紗恵が善意で言っているか悪意で言っているか分からない。
でも、こうして対等な立場から気にかけ、心配してくれる紗恵の姿に俺は毎回甘えてしまうんだ。
本当は紗恵のこれを拒否するべきなんだ。
藤堂先輩と似ているがこれは違う。
藤堂先輩のはあくまで主体は俺で、くれるのは必要な知識だ。
だが、紗恵がくれるのは"何一つ解決していないのに安心感を感じる何か"。
それは普通の高校生なら誰もが持っていて、俺が持っていないもの。
俺にとってそれは"やめられない"だ。
「なんでもない。何も無い」
俺は必死で否定する。
嘘だ。
何にも無いわけでも、なんでもないわけでもない。
それに、慌てて否定する俺の姿は嘘だと言っているのと同じだった。
夜彩凛は本当に嘘がつける人間では無い。
「嘘だよ。人は何も無かったら泣いたりしないんだよ」
紗恵は反論する。
先ほどの俺の否定する姿に加え、証拠が揃いすぎていた。
俺も本当に何も無かったら認めない。
しかし、今回は嘘な訳で、これ以上嘘を吐くのは不誠実な気がして自分でも嫌悪感があった。
「仮にあったとしても、これは俺も問題だ。自分でちゃんと考える」
これが正解だ。
俺はそう思い、言った。
嘘はついていない、"ある"とも"ない"とも俺は一言も言っていない。
俺は仮定の話をしている。
「そっか…。夜彩だもんね」
紗恵は諦めたように、そう言った。
紗恵の拒否して話したがらない人には無理に聞かないところは紗恵らしいなと思った。
価値観が異なる人間と話しているとその人をキャラクター付けして、"〇〇らしい"と言うのは珍しい事ではないだろう。
紗恵が言うと、しばし沈黙が訪れる。
誰もいない教室も沈黙を外の部活動の音と都会の喧騒が補った。
外の部活動の音を聞くくらいしかする事が無く、お互い、何を切り出すべきか分からないでいた。
「…えっと」
紗恵が居心地の悪そうな声を出す。典型的な延命措置だ。
しかし、例え居心地が悪くても、沈黙は俺に考える時間をくれた。
4年前の俺の選択は雪憐の気持ちを考えずに自分の推測と価値観だけで行動した結果だ。
そして、今俺は4年前と対峙している。
もう、間違った選択は許されない。
ならば、目の前に紗恵という俺と価値観が全く異なる人がいるのに使わないのはもったいないのではないか。
仮に価値観が受け入れられなくても、だからと言って意見が無意味な訳ではない。
むしろ、異なる視点からの考えが貰えるのではないか。そう感じた。
「紗恵って、初恋はいつだった?」
だから、俺は聞いた。最初は躊躇したが、きっとここで立ち止まれば俺は二度と聞かないだろうと思い、勢いで言い切る。
「それ、さっきの話実質言ってるに等しいよね?自分で考えるんじゃないの?」
紗恵が先ほどとは打って変わって、物言いたげな目で俺を見つめてきた。
確かに間違っていない。
だから、嘘をつかないために別の角度から反論する。
「さっきの事も人の意見を聞かないとは言ってない。それに、これはあくまで一般論の質問だ」
俺は半ばドヤ顔で言うと、紗恵は「うわあ」と言わんばかりの顔をしてきた。
紗恵が少し考え込むと、少し恥ずかしそうに髪をいじり始めた。
確かに俺も初恋に地雷はあるし、紗恵も地雷があるのかもしれない。
だとしたら、申し訳無いし、謝罪して質問を撤回するべきだと思う。
紗恵の少し顔を赤くしては言おうとするのは、普段とのギャップを感じ、少しだけどきっとする。
まるで別人のようだ。
「私は…初恋まだでさ…」
そ、そうだったのか。
なるほど、初恋がまだのパターンも存在するのか。
正確な統計を見た事がないため、何とも言えないが俺の予想以上にいるのかもしれない。
しかし、先ほどのあの恥ずかしがるような感じだと、地雷なのかもしれない。
これは円滑にコミニケーションを進めるために、聞きそびれたフリをして、別の話題を切り出そう。
「え、なんだって?」
アニメでは定番のセリフを使った。まさかこの台詞を現実で使う日が来ようとは、夢にも思わなかった。
が、紗恵はほんのり赤かった顔を真っ赤に蒸発させて、興奮気味に言った。
「私、初恋まだなの!大体、夜彩今の聞こえてたでしょ!」
紗恵の子供じみた行動に少しだけ笑みが溢れる。
今日はいつもと違う紗恵が見れた気がする。
本当に全く違うな、思わずまじまじと見てしまった。
だが、俺にも反論すべき点があるのだ。
「なんて事するんだ…。ヒロイン、空気読めなさすぎだぞ。地雷感漂ってたから、空気を読んだのに…」
"俺の努力は無駄だったのか"という悲痛な訴えは届いたのだろうか。
紗恵は子供じみた行動をやめ、落ち着かせるように深呼吸をする。
シンデレラタイムが終わったようだ。
紗恵から見ると到底シンデレラタイムでは無いだろうが、俺は少し気にっていたのだ。
「別に地雷な訳じゃないけど」
声はいつもの紗恵だった。
あれ、地雷では無かったのか。
あれだけ言いづらそうに恥ずかしがっていたからてっきり俺は地雷だと思っていた。
それにもう一つ、地雷だと思った理由がある。
「どっかの怪しいネット記事に『女子におすすめ、ブランド彼氏 ~愛よりブランド!女子会でマウント取り放題!~』ってあったから、アクセサリーみたいな感覚で取っ替え引っ替えしてるのかと…」
紗恵のように友達も普通にいて、女子社会に馴染んでいる人となれば、やはり協調性は必要なのだろう。
しかも、それも結構な同調圧力があるはずだ。
だから、ひっきりなしに恋をする周りと違う事を紗恵が嫌ったのではないかと。
「ええ…。なにそれ…。夜彩、そんな記事ばっかり読んでると彼女できなくなるよ。偏りすぎだよその記事」
紗恵はさぞ困惑した様子で違うと訴えてきた。
ついでに俺の未来予知もしてくれていた。
反論の仕方も"偏りすぎ"と言う表現で適切だし、反論の反論が思いつかないほどの正論だ。
「そうだったのか…」
いや、流石に俺も偏りすぎだと思ったんだけど、周りの女子の会話を聞いてみたりすると、その記事の信憑性がどんどん上がってしまったのだ。
うちはそこそこのレベルの高校のはずなのだが、いくらレベルが上がっても所詮は高校生だ。
イケメンサッカー部員とクラスのアイドルの熱愛でみんな大盛り上がり。
破局すると、一見鎮火したように見えるが、実際はみんな裏で新元号発表並みの勢いで超大盛り上がりをしている。
世の中は残酷だ。
「私に初恋はくるのかな」
紗恵はふと不安そうな声で言った。
紗恵の周りみんな初恋を知っているとしたらきっと不安になるだろう。
自分は人を愛せないのではないかと不安になるのかもしれない。
でも、俺が経験則で言える事は一つだけだ。
「初恋は大変だから頑張れよ」
嘘はじゃない。
むしろこの4年間で確実に分かった事の一つだ。
自然と、昔を懐かしむような重い声になってしまった。
紗恵はそれを見て何かを察したような表情をすると、俺に微笑んだ。
「『経験者は語る?』」
紗恵のその微笑みは冗談めかしていて、そして冗談めかしている事自体が冗談くさかった。
まるで辛い中無理して作っているような印象だ。
「あながち間違ってないな」
聞かれたから、答える。
紗恵には関係の無い事だ。
下手にとやかく言う必要は無い。
「そっか」
紗恵寂しそうに呟いた。
先ほどの冗談めかした笑顔が簡単に崩れて、やはり嘘だったんだと感じた。
その表情は何を意味するのだろうか。
それは本人しか知り得ない事だ。
紗恵の選択だ。
紗恵は少し俯き気味に考えると、「あっ」と何か用事を思い出したかのような事をして自分のバックを取った。
「私、そろそろ行くね。この後クリスちゃんにも用があるし」
クリスちゃん。
突然言われたその言葉にどきっとする。
俺は出来る限り平穏を装い聞いた。
「え、ああ。紗恵、クリスタと仲良くなったのか」
紗恵はなんでそんな事を聞くんだという顔をした後答えた。
「うん。連絡先も交換したし」
紗恵は交友関係も広いし、誰とでも良好な人間関係を築ける。
クリスタも女子の輪から弾き出されているような事は無かった。
紗恵とクリスタが仲が良くても別に不自然な事は無い。
「そうか」
俺は素っ気なく、答える。
気持ちを込めるとクリスタの事を紗恵が察してしまいそうで怖かったためだ。
紗恵は机の間を通り抜けて、前のドアに向かっていった。
夕焼けが終わる。
俺はこれでいいのか。
このまま何も言わずに行っていいのか。
紗恵に言うべき事があるだろう。
俺が見ないようにして、藤堂先輩が気付かせてくれた事。
「紗恵」
俺は息を吸うと、覚悟を決めた。
こんな単純な事を俺は一体なんでこんな大掛かりな気持ちを背負って言わなければいけないのか。
でも、今はそんな事はどうでもいい。
ちゃんと、伝えるんだ。
「この前は、昨日の昼ご飯の言い方は悪かった。後、待っててくれてありがとう」
言った。
自分でもびっくりするくらい素直な言葉で、拙かった。
俺はこんな事を言えなかったのかと思うような内容だ。
紗恵は拍子抜けしたような顔をして俺を見た。
驚く気持ちも分からなくもない。
だが、紗恵は笑った。
大人びたその笑顔に今度は俺が驚かされる番だった。
「うん…。どういたしまして、こちらこそごめんね。言いすぎちゃった、私」
紗恵はそういうと嬉しそうにドアを開けて出て行く。
まるで自分の事のように喜んでいた紗恵を見て俺は苦笑してしまった。
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