アケロニア王族の人物鑑定スキル

「そうか、アケロニア王族の特有スキルは人物鑑定スキルだったか!」

「その通り。政治の絡む政略結婚ならともかく、自分が好きで選んだ相手を間違うことはそうない」


 グレイシア王女のアケロニア王族は、堕落した前王家を現王家の始祖が打ち倒してから800年ほどの歴史の、円環大陸の中では比較的若い王朝になる。

 マーゴットのカレイド王国で3千年の歴史があることを考えると、国の格は落ちる。


 ただ、アケロニア王族は人柄が良く、代々賢王が立つことで知られていた。


 その根拠として、王族が特有スキルとして代々血筋に受け継いでいる『人物鑑定スキル』がある。

 人の性格や気質を見るスキルを持っているから、結果として善政を敷いていると思われる。


「ランクは?」

「中級プラスだ。生きているうちに上級まで上げたいものだが」


 言って、グレイシア王女は黒い瞳でじーっと、マーゴットの鮮やかなネオングリーンの瞳を見つめてきた。

 圧が強い。


「な、なあに?」

「ここまで聞いた話だと、すべてのループでわたくしはお前に会ってカレイド王国に留学しているな? バルカス王子が親友のお前を蔑ろにしているところを見て、わたくしが手出し口出しをしないわけがない」

「………………」

「ループの記憶がありながら、懲りずに同じことを繰り返したお前に、わたくしは何か言わなかったか?」

「………………」


 マーゴットはティーカップに視線を落とした。


「この馬鹿女、って怒られたわ」

「だと思った! こんな話聞かされて、現場を見たわたくしが言わぬわけがない……」


 カップをソーサーに置いて項垂れてしまったマーゴットに、グレイシア王女は笑って、スイーツスタンドのショコラを積み上げてやった。


「何度となく殺されて、まだ相手が好きという感覚はわたくしにはわからん。次期女王として、バルカス王子が王配では駄目だともわかっているのだろう?」

「………………ええ」


 マーゴットは肯定したが、口にするのがとても辛い。


「ならば、わたくしがダメ押しをしてやろう。マーゴット、お前は留学期間を半分で切り上げるんだ。残りの期間はわたくしがカレイド王国へ行く」

「えっ!?」


 何やら意外な展開になってきた。

 マーゴットのアケロニア王国での留学は短期の一ヶ月。主にグレイシア王女と同じ学園に通い、休日は行ける範囲で国内視察をさせてもらう予定だった。


「それは良いかもしれない。オレに乗れば隣町に行くのと変わらない時間で着くしね」

「よし、決まりだ!」

「ち、ちょっと待って! どういうこと? なぜ、グレイシアがカレイド王国に来ると? ダメ押しってなに!?」


 慌てるマーゴットに、グレイシア王女とカーナは示し合わせたように顔を見合わせた。

 そしてマーゴットを残念なものを見るような目で見てきた。


「わからないの? マーゴット。グレイシア王女は、君とバルカスの相性を人物鑑定で見に行ってやるって言ってくれてるんだ」

「あ!」


 そういうこと!? とやっとマーゴットも理解した。


「女王と王配としてやっていける相性なのか見てやろう。可能性のある数値なら良し。だが、反目する数値ならば、お前は次期女王として己の情を切り捨てねばならない」

「………………」

「ちなみに、わたくしはやると言ったらやるぞ。お前が拒否してもカレイド王国に行く」


 だからわかったな? と黒い瞳で念押しされた。


 マーゴットは皿の小さなショコラを口に運んだ。

 甘酸っぱいラズベリーのソース入りだ。鮮やかな赤い色と、華麗な風味は何だか目の前の剛毅な王女を彷彿とさせる。


 結局、マーゴットはこれまで何十回と繰り返したループ人生の中で、一度もまともに女王として国を統治していない。


 女王に即位する前にバルカスに学園の卒業式で殺されるか、結婚後の初夜やその後の僅かな期間のうちに別の形で殺されるかの違いがあるだけだった。




 グレイシア王女の問いかけにマーゴットは返事をしなかった。できなかったのだ。


「ま、まあ、その辺はおいおい相談していこう。そろそろ帰ろう! 晩餐はローストドラゴンなんだろう? これ以上ショコラを食べたら入らなくなってしまう!」


 何とかカーナが場を保たせてくれたが、マーゴットとグレイシア王女の間の雰囲気はちょっと悪くなった。




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