やっと親友にループを話すことができた

 ショコラのセットが来て、店員がティーポットの用意も済ませて退室すると、個室には三人だけ。

 ここは高級店だが、個室は密談したい貴族や商会員などがよく使うので、魔導具ポットで紅茶類飲み放題のアフタヌーンティーセットはなかなか便利だった。


 とりあえず、美味しいショコラと紅茶を一通り堪能したところで、マーゴットは友人のグレイシア王女にこれまでの事情をざっと話しておくことにした。

 今回のアケロニア王国への短期留学では、これが目的のひとつだ。


「人生をループしてるだって!? 不思議なこともあるものだなあ」

「あら、信じてくれるの?」


 彼女はハイヒューマンのカーナと違って、時を遡る知覚など持っていないはずだったが。


「カレイド王家はハイヒューマンの子孫だろう? 我が国にもハイヒューマンがいるが、ぶっちゃけ何でも有りな子供なんだ。時を遡るぐらいやるかなあって」


 その子供が、昼食で食べたスモークサーモンの産地の領主の義理の息子になっているとのこと。


「父親に連れられて、よく騎士団に遊びに来るんだ。次に来たとき紹介しよう」

「ハイヒューマンって、種族わかるかい? グレイシア王女」

「確か魔王の一族だったかと」

「あれ、じゃあ魔人族か。もうほとんど人間と混ざっちゃってるって聞いてたけど」

「純正ハイヒューマンですよ。ずっと封印されて眠っていたのが7、8年前に解けたとかで」


 カーナとグレイシア王女が盛り上がっている。

 マーゴットにとってハイヒューマンといえば、カレイド王国の始祖のハイエルフと守護者カーナぐらいだ。

 あとは恐らく、中興の祖の女勇者がハイヒューマンの末裔の先祖返り。

 マーゴットの鮮やかな燃える炎の赤毛や、ネオングリーンの瞳は何十代も経ているのにまったく余計な色が混ざらず現代まで繋がっている。




「それで、じゃあマーゴットはバルカス王子に殺されないことが目的になるってことか」

「……殺される以外でループしたことがないから、そうなるわね」


 ループの中で自国の王子に殺害され続けたことを伝えると、グレイシア王女は痛ましげな顔になった。


「お前な、マーゴット。何十回も殺されてループしてるというのに、よくそんなに平然としてられるな? わたくしが同じ目に遭ったなら、相手を次のループでは必ず血祭りにあげているぞ?」

「……次のループになるとね、前のループのときの出来事を記憶として覚えていても、感覚がどこか曖昧になってしまっていて……。バルカスの浮気を知って悲しかったことなんかも、どこか他人事みたいで」


 こういう心情までは、まだ誰にも話したことがなかった。

 カーナも少しびっくりした顔になって、ショコラを食べる手が止まっている。


「浮気なんて軽そうな言葉を使うんじゃない。まだ候補だったかどうだか知らんが、バルカス王子のそれは“不貞”というんだ」

「……そうね。ねえグレイシア。もしも、もしもよ? 同じ次期女王の立場のあなたが、婚約者に不貞を犯されたらどうする?」

「ん? わたくしの場合か……」


 グレイシア王女はショコラを摘まむ手を留めて、思案げな顔になった。


「制裁……家族ごと……いや一族郎党……」


 何やら怖いことを呟いていたが、すぐに表情を明るく輝かせて両手を打った。


「大丈夫だ! わたくしは不貞を犯すような男を選んでないからな!」


 それはもう、自信満々に。


「グレイシア王女、それどこに根拠が?」


 紅茶を啜ってからカーナが呆れたように訊いた。


「根拠? あるに決まってる。わたくしは人物鑑定スキルを持っているのだ。相手の人間性の数値を見ることができるし、それなりに相性もわかる」


「「!??」」


 マーゴットもカーナも、うっかりショコラやティーカップをテーブルに落としそうになった。


 この世界では鑑定スキルはレアスキルの一種だ。

 鑑定スキルには物品鑑定、人物鑑定、魔力鑑定があって、それぞれランクは初級から上級、特級まである。


 大抵は持っていても一つだが、稀に二つや三つ全部を持つ『総合鑑定スキル』の持ち主もいるが、滅多にいない。


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