そうだ、留学しよう

 もうひとりの幼馴染みがアケロニア王国にいることを知って、マーゴットはグレイシア王女の国への留学を決めた。


 バルカス王子との関係はなかなか改善できていないし、顔を合わせても嫌がられるだけなので、マーゴットにも気持ちと頭を整理する時間が必要だった。


「せっかく、カーナの祝福のお陰でループから抜け出せそうなんだもの。守護者の恩恵を無駄にしてはならないわ」


 留学は一ヶ月程度の短期留学だ。

 行き先は円環大陸の北西部にあるアケロニア王国。

 そこのグレイシア王女は将来女王になる立場が同じことから、子供の頃から仲が良かった。


「アケロニアへ? ……ならオレも行こうかな。何だか今のカレイド王国は居心地がよくないから」


 神殿のカーナに報告したところ、カーナも現在のカレイド王国は雰囲気が悪くて居心地がいまいちだそうで、マーゴットに同伴するという。




 それから、グレイシア王女と手紙のやりとりをして、時期などの擦り合わせをしていった。


 執事長と侍女長も伴うつもりだったが、彼らは国に残って、労働者ギルド経由で生活費を稼ぐという。

 落ちぶれているとはいえ公爵家の執事と侍女なので、若い世代の教育係としての仕事は引く手数多らしい。

 それに、これまでの困窮で解雇してしまった使用人たちを、可能な限り再雇用できないかマーゴットが不在の間に手配しておきたいそうだ。

 本当に苦労をかけさせて申し訳ない限りだった。


「お嬢様、馬車の手配はどうなさいますか」

「守護者のカーナ様が連れて行ってくれるそうなの。荷物だけまとめてくれる? お土産も含めてできるだけコンパクトにね」


 それで荷物は衣服をスーツケースに二つ。

 一ヶ月の滞在用には足りなかったが、向こうに着いてから揃えてもいいし、留学なので昼間は向こうの学園の制服を着ていればいい。

 王家からの支援金を取り戻して、手元に資金の余裕ができて本当に良かった。


 パーティーに必要なドレス類は、マーゴットの苦境を知っているグレイシア王女が貸してくれると申し出てくれていた。

 まったく、持つべきは素敵な親友様である。


 あとは木箱に三箱分、カレイド王国の特産品の発泡白ぶどう酒や医薬品、菓子類などを詰めた。

 魔石や魔導具、ポーション類も主要名産品なのだが、魔力関連の品はアケロニア王国のほうが技術が進んでいるので今回は持参しない。


『あれっ、荷物それだけなのかい? 女の子の旅行だから、もっと馬車何台分にもなると思ってたのに』


 出発日、オズ公爵家をふつうに訪れたカーナは、屋敷の屋上に上がると巨大な蛇体の黄金龍に変じて、マーゴットの旅行用荷物を前脚二本で鷲掴みにした。

 このまま持っていくつもりらしい。


「マーゴット様、やはり鞍を用意したほうが良かったのでは?」

「あら、心配ご無用よ。カーナの頭の後ろ、たてがみがふさふさだもの。角に捕まってそこに座るの」


 カーナが頭を下げてくれたので、長いヒゲを手すり代わりにして、ひょいっと龍の角のすぐ後ろに飛び乗った。


「では、行ってきます。後は頼むわね、二人とも」


 あとは黄金の鱗の龍に変じたカーナに乗って、大空をひとっ飛びだ。




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