守護者カーナ
カレイド王国の守護者カーナは、この国の始祖と同じハイヒューマンだ。
比較的、現代人と似た感性を持っていて、始祖と中興の祖の女勇者の末裔としてマーゴットは親しい友人のように付き合ってもらっている。
ハイヒューマンは今の人類の祖先たちで、人間の上位種と言われている。
マーゴットがなかなかループから抜け出せない現状を憂いて、もはや静観はできないからと、今回慌てて文字通り飛んできてくれたらしい。
「龍の姿でね。久し振りに空を飛んだよ」
「あの黄金の鱗の龍? 見たかったなあ!」
カーナは竜人族と一角獣人族のハーフで、今は滅んでしまった竜人族の元王子だ。
最も古いハイヒューマンの一人で、既に数万年とも数十万年ともいえる長い年月を生きている。
本来なら円環大陸の西部にある、自分の名前を冠した小国、カーナ王国の守護者だ。
元は
残念ながら、現在のカーナ王国は王家が守護者カーナとの縁を失ってしまって、カーナを召喚できる神殿もなく神官もいない。
代わりに、建国を助けて守護者となっていたこのカレイド王国との縁を深めてくれているというわけだ。
カーナは、マーゴットたちが子供の頃までは、こうしてよくカレイド王国を訪れて遊んでくれていた。
竜人族と一角獣人族のハーフのカーナは、竜人族としては落ちこぼれで竜の姿になれなかった。
その代わり、先祖にいたという蛇体の巨大な雄の黄金龍に変身することができて、天空を泳ぐ。
一角獣へ変身するときは、仔馬サイズの雌の白いユニコーンになる。
マーゴットとバルカスは、龍や一角獣の背に乗せてもらって、円環大陸を高い空から見下ろしたことがある。
『わあ。世界は本当に
大雑把にドーナツのような形をした円環大陸は、とてもとても大きかった。
昔はカーナのような、上位種と呼ばれるハイヒューマンはたくさんいたそうだ。
ハイエルフやハイドワーフ、ハイデーモン、魔族や魔人族、羽を持って空を飛べる天使族など多彩な種族が存在していた。
そのうち、人間との混血が進むに連れて数を減らしていき、今では大陸の中央部に『永遠の国』と呼ばれる安全で小さな国を作り、そこで生き残りたちが身を寄せ合っている。
各国に対して特に強権を行使することはないが、たまに偉大な人物を見出しては名誉称号を授与したり、あるいは人々の生活に必要な各種ギルドや機関の本部はすべてこの国の中にあったりする。
商業ギルド、労働者ギルド、魔導具師ギルド、医療ギルド、冒険者ギルド、あるいは神殿や教会などといった具合だ。
人類の上位種と呼ばれるだけあって知性の高い者が多いので、世界にとって必要な機能を整えてくれている。
カーナは古い時代のハイヒューマンが男女に分かれる前の、過渡期の存在だ。
父方の血を利用して龍に変じた後に人の形に戻ると男性形になる。
母方の血を利用して一角獣に変じた後、戻ると女性形になる。
そしてしばらく経つとまた基本の男性に戻るわけだ。
もっと古い時代には、男女に分かれることのない完璧な存在もいたそうだが、マーゴットはまだ会ったことがなかった。
バルカスは女性形の嫋やかな美少女カーナに一目惚れ。
マーゴットは男性形の優美な美青年カーナに憧れた。
二人揃って告白した幼い頃、カーナは困ったように笑って「伴侶と子供を裏切れない。ごめんね」と謝ってきたものだった。
その伴侶も子供ももういないのだが、何度二人が告白しても返事は変わらなかった。
子供の頃にマーゴットとバルカスが仲良しだったのは、同じカーナを大好き同士だったのが大きい。
そして今回、久し振りに女性形のカーナに会って、マーゴットには気づいたことがある。
(バルカスが寵愛したポルテという子、女の子のカーナに似てるわ)
容貌はカーナのほうが美しかったが、華奢で大人しそうな印象がそっくりだった。
(バルカスはポルテのことを“真実の愛”とか言ってたそうだけれど。何のことはない、カーナに似た子を選んだだけじゃない)
結局、バルカスは幼い頃の淡い恋の続きを、ポルテという平民の少女に投影して楽しんだたけではなかったのか。
そのカーナは、マーゴットがループする人生の中で最初に神殿を通じて相談して以降はずっと、マーゴット以外でループの記憶を保持している唯一の存在だった。
さすがは
「カーナから両目に祝福を貰ったら、次のループからは展開が大きく変わったの。でも結局、バルカスに殺されてしまったわ」
最初に繰り返していたループでは、マーゴットは学園の卒業式でバルカスに婚約破棄され、両目を抉られて殺される。
カーナに祝福を賜った後の人生では、女王に即位してバルカスと結婚するところまで漕ぎ着けた。
だが、マーゴット自身の不用意な発言のせいで、首を絞められて殺されてしまった。
「必ず最後にバルカスが君を殺すのか。そんな考えなしの行動を起こす子じゃなかったはずだけど、何があの子を変えたんだろう?」
カーナが首を傾げている。それはマーゴットにも不思議なことだった。
「君たちに最後に会ったのは、10歳頃までだったね。その後、バルカスに異変があったんだろう」
と言われても、マーゴットもループを繰り返した人生の中でバルカスの異変の原因を探り続けてきたけれど、結局よくわからないままだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます