《夢見の女王》婚約破棄の無限ループはもう終わり! ~腐れ縁の王太子は平民女に下げ渡してあげます
真義あさひ
第一章 初回ループ~卒業式の婚約破棄
ループの始まりは王太子の婚約破棄から
「オズ公爵令嬢マーゴット! 貴様との婚約は今日を限りに破棄させてもらう!」
壇上から、華奢な少女の肩を抱いた男に指先を突きつけられて、マーゴットは首を傾げた。
男の名前はバルカス。このカレイド王国の王太子と呼ばれている。
その隣にいる少女はポルテ。マーゴットやバルカスの同級生の平民の女子生徒だ。
「貴様はこのポルテを平民だからという理由で虐げ、身の危険に晒したそうだな!? そのような悍ましい行為に手を染める女を、未来の国母に据えることはできない! 婚約は破棄する!」
今日は学園の卒業式で、今は卒業パーティーの真っ最中だった。
皆、ドレスアップして広間で仲の良かった友人や、恋人、婚約者たちとダンスを楽しんだり、立食形式の食事や飲み物片手に談笑したりしている。
だがバルカス王太子の怒声に、会場は静まり返る。
マーゴットは深呼吸をして息を整えてから、壇上のバルカスを見た。
「バルカス。私とあなたの婚約は王命によるもの。破棄も解消もできないのよ」
「笑わせるな、マーゴット! 次期国王の俺が破棄と言ったのだ、通らぬわけがない! しかも貴様、ポルテへの謝罪もせずに言い訳とは何と心の汚れた女なのだ!」
「………………」
この罵倒に、しばしマーゴットは考え込んだ。
もちろん、マーゴットにはポルテなる女生徒を虐げた覚えなどない。
これはバルカス王太子がマーゴットを貶めるための冤罪なのだ。
(仕方ない。公の場では言いたくなかったけれど)
「……あなたがこの学園を卒業し成人した後も王族でいるためには、私との結婚が不可欠なのよ?」
「何を馬鹿なことを!」
「……まさか、知らないと言うの? 王族に必要な始祖の光る緑の瞳も、中興の祖の勇者の赤い髪も持たぬあなたが、なぜ国王になれるなどと馬鹿げた思い込みを?」
バルカスは金髪青目の美男子だが、マーゴットのようなネオングリーンの瞳も赤い髪も持っていなかった。
対するマーゴットはエメラルドよりも輝くネオングリーンの瞳と、燃える炎の色そのままの赤毛の持ち主だ。
その指摘に痛いところを突かれたバルカスは落ち着くどころか激昂した。
「どいつもこいつも、何が始祖だ、何か中興の祖だ! 俺は国王の父と王妃の母の唯一の息子ぞ、これほど確かな生まれが他にあってたまるか!」
「ならばなぜ、あなたは始祖の瞳も、勇者の赤毛も持たぬのです?」
「うるさい! うるさいうるさい! ……ああ、そうだ。どうせ貴様は俺に捨てられるのだ。次期国王となる俺と結婚しないなら、お前にその始祖の瞳は必要ないな?」
「バルカス、何を!?」
赤い燃えるような髪を鷲掴みにされる。
マーゴットの美しく編まれていた巻き毛が崩れ、髪飾りが床に落ちて硬質な音を立てた。
会場からは悲鳴が上がる。
「ならばお前の目を寄越せ! 医療魔法でなら眼球の移植ができたはずだ。ははは、そうだ、最初からこうしていれば話は簡単だったのだ!」
「!???」
ぐじゅり、と。
バルカスの無骨な指が顔に近づいてきたと思ったら、あっという間に両眼とも抉られてしまった。
暗闇になったマーゴットの耳に、会場の阿鼻叫喚が突き刺さる。
「マーゴット。貴様なんか必要ない。元から俺には必要なかったのだ」
なぜか、殊更に優しい声で囁かれたと思った次の瞬間、髪を掴まれたまま投げ出され、床に叩きつけられた。
ゴツ、と。
頭蓋が割れる音がした。
そして鼻から錆臭い生暖かいものが流れていく感触。
(バルカス。あなた、私の目が欲しかったの。ならもっと早く言って欲しかったわ)
そうしたら、もっと安全で衛生的な場所で眼球を移植できたし、不要になったバルカスの眼球はそのままマーゴットが譲り受けることができたのに。
周囲の喧騒が遠くなっていく。
これではもうマーゴットの命は長くない。
(もう誤解を解く時間もないわね……)
「マーゴット! マーゴット、ばか、お前何をやっているのだ!」
遠くから、親友だった同盟国の王女の泣き声混じりの罵声が聞こえてくる。
学園を卒業後、この数日後にはマーゴットとバルカスは婚姻を結ぶはずだった。
親友の彼女はそのために早めにカレイド王国入りしてくれていて、卒業式でもゲストの一人だった。
(ああ、友よ。どうか貴女がこの後の混乱を収めてくれることを願うわ)
婚約者のマーゴットに婚約破棄を突きつけたばかりか、目を抉り暴力を振るって死なせるバルカスは、もう終わりだ。
もちろん、国王になどなれるわけがない。
そうしてマーゴットは一回目の人生を惨めに終えた。
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