第39話 マキドは(こっそりと)見ていた

 旧部室棟の教室。

 亜土は、椅子に座らされていた。


「みもり! リリカナ! や、やめるんだ!」


 身体はピクリとも動かない。リリカナの魅了術で拘束されているからだ。


 数分前のことだ。


『せんせー、あのねー。リリカナちゃん、教えて欲しいことがあるんだけどー❤』


 と上目遣いで聞いてきたリリカナに、亜土は自分も先生らしくなってきたかなと喜んでいたのだが。少女の瞳を見ているうちに頭がぐわんぐわんして、気づけば椅子に座らされていた。


 正面にはみもり、背後にはリリカナが立って、二人がゆっくりと迫ってくる。


「みもり! なんだって、こんな真似を⁉」

「そ、そのう……。リリカナちゃんがせんせーとすっごいキスをしたって聞いて……」


 みもりは頬を染めながら、チラチラと亜土の唇を見つめてきた。

 亜土は顔面蒼白になり、口内が一瞬でカラカラになる。


「そ、それには理由があって……」

「も、もちろん、緊急時だってわかっています! 必要なことだったって!」


 小学生女子とディープキスをした変態講師を責める場ではないのかと、亜土はすこし安心した。

 ホッとしていた亜土の耳に、リリカナが息を吹きかける。


「ひゃ⁉」

「あはーっ、せんせー。可愛い反応~」

「リリカナ! オ、オレをどうする気なんだ⁉ 説明してくれよ⁉」

「えーっとね、今後もユニークスキルは使う機会がありそうだし? やっぱりー、色々と試したほうがいいんじゃないかなーって。ねっ、みもりちゃんっ」


 リリカナが悪戯めいた微笑みを、みもりに向けた。


「みもり……?」


 みもりは恥ずかしそうにコクンとうなずくと、亜土に迫る。


 そして亜土の太ももに股がり、お尻をぽてんと乗せて、向きあいながら身体を寄せてきた。


「あ、亜土先生! ど、どうぞ!」


 みもりは制服の襟もとをひっぱって、首筋をよく見せてきた。


 綺麗な肌からは、甘い香りがする。太もももからはみもりの熱が伝わってきて、亜土は妙な気分になってしまう。


「どうぞ……って?」

「さっき、た、た、体育の授業があったので汗をかきました! 汗も体液です! 亜土先生が舐めれば、ユニークスキルが発動するかもです‼‼‼」

「みもり⁉⁉⁉ みもり⁉⁉⁉」


 耳を疑いたくなる発言に、亜土は二回言った。


「に、匂いはきちんとケ、ケアしていますので! 大丈夫かと⁉」


 みもりもいっぱいいっぱいなのか目ん玉がぐるぐるだ。


「待って⁉ 待とう‼ リリカナ⁉ リリカナの案だな⁉⁉⁉⁉」

「そっだよー❤」


 リリカナは、亜土の後頭部に柔らかい胸を押しつけてきた。

 ふにょんふにょんと少女の胸がふるえる。身動きできない亜土は、リリカナの柔らかーい胸の感触を堪能してしまう。


「うっ……」

「えへー、いっぱいリリカナちゃんを感じてねー? そーやってー、ユニークスキルの実験と一緒に、みんなで愛を育んじゃおうー❤」


 魔族のおおらかな貞操観念を前に、亜土はリリカナの説得が無理と悟った。

 ので、みもりに訴えかける。


「な、なあ……みもり。やっぱりこういうのはよくないよ……」

「そ、そうですよね……。わたしなんか魅力がないですよね……」


 みもりがしゅーんと意気消沈する。


「そんなことない! みもりは魅力的な子だ! それはオレがよく知っている!」

「先生……」

「だけど、こ、こういった男と女の関係でするよーなことは……。みもりはまだ小学生なわけだしさ――」


 リリカナが桃色の吐息を亜土の耳に吹きかける。魅了術だ。


「「「「幻双世界げんそうせかいでは些細なことだよー❤」」」」


 だよーだよーだよーと、リリカナの声が何重にも聞こえた。


「うあ……」


 魔力がない今、魅了術だとわかっていても、アイテムがなければろくに抵抗ができないわけで。

 亜土は熱にうなされたように、みもりの首にそっと口づけする。


「んっ……せんせー……」


 みもりはわずかに身体を跳ねさせた。

 少女が嫌がることなく身体の力を抜いたので、亜土はちゅぱちゅぱと静かに舌で舐めていく。


「あはーっ❤ せんせー、赤ちゃんみたいー❤」

「せ、せんせー、どうですか……? わたしでなにか、感じていますか……?」


 甘ったるい匂いが、亜土の鼻腔いっぱいに広がっていく。舌で感じるみもりは、たしかにちょっと塩辛くて、なのに、これは甘い味だと倒錯してしまう。


 亜土がペロペロと舐めるたび、みもりの身体が揺れる。


「せんせー……せんせー……せんせー……」


 みもりの表情はとろけきっている。

 亜土の全身が馬鹿みたいに火照った。


 建前だったはずなのに、ガチでユニークスキルが発動したのだ。


 興奮状態になった二人はムンムンとした熱気を全身から発した。

 リリカナは淫魔のように舌なめずりし、亜土の頭にさらに胸を押しつける。


「みもりちゃん、みもりちゃん。グラインド❤」

「う、うん……」


 グラインドとはなんぞやとなんとか理性を保っていた亜土だが、さすがにソレには耐えられなかった。


 亜土の太ももに乗っていたみもりが、腰を回してお尻を動かしてきたのだ。


「っ⁉⁉⁉」

「やっ……せんせー⁉」


 みもりのお尻から伝わってきた心地よすぎる振動に、亜土は少女の首を思わず吸ったあと、慌てて顔を離した。


 それで効果ありと悟ったのか、みもりがグラインドを強めてくる。


「ま、まって……みもり、それは、ほんとまって……」

「ユ、ユニークスキルは興奮状態だと効果があるようですから……じ、実験です」

「じ、実験……実験なのか……?」


 魅了術にかかり、ユニークスキルが発動した今、亜土の思考はもうボヤけきっていた。


 と、みもりの腰の動きが止まる。

 お尻に当たる、に引っかかってしまい、動きを止めたのだ。


「え……? 亜土先生、コレって……?」

「………………ごめん」


 亜土は顔を真っ赤にしながら、教え子にもう謝罪するしかなかった。

 罪悪感に支配されている亜土に、みもりが嬉しそうに微笑む。


「大丈夫です。大丈夫ですから、わたし、全然気にしてないですから」


 みもりは酩酊めいた表情で、息が荒い。

 はぁはぁと艶めかしい息を吐きながら、腰の運動を再開してきた。


 柔らかいお尻から、振動と、少女の熱が、亜土の固くなったモノに伝わってくる。


「せんせーっ……せんせーっ……」

「み、みもり……ま、まって……」

「あはーっ❤ せんせーとっても辛そうな顔ー❤ ここはみもりちゃんのお尻で、一度気持ちよーくハてちゃおっか❤」


「―――そこまでです!」


 入るタイミングを逃していたマキドが、さすがに教室の扉を開けて叫んだ。


 えっちなシーンに顔を赤らめながら、厳しい視線をリリカナに送る。


「なにやっているんですか! リリカナ!」

「えっちなことー」

「せめてユニークスキルのためと言いなさい!」


 マキドの剣幕に、亜土もみもりも正気に戻る。

 みもりはモジモジしながら、亜土から離れた。


「マ、マキドちゃん。あ、あのね、これはね、色々理由があってね」

「はあ……大蛇の件で、色々試したくなったのはわかりますが、やりすぎです」

「マキドちゃんも聞いていたの? リリカナちゃんの、す、すっごいキスのこと」

「そんな話、聞きたくありませんよ……。ただ、リリカナの身体能力が桁違いに跳ねあがっていましたからね。大量に体液接触したのだろうなと」


 みもりは大人しそうで肉食系なのはわかっていたが、さすがのマキドもここまで攻めに出るとは思わなかった。


「まったく、高坂さんもしっかりしてください」


 というかやっぱり小学生と懇意になるため代理講師になったのではと、マキドは疑惑の眼差しを送る。

 亜土はしゅーんとうなだれていた。


「…………高坂さん。次からは解呪アイテムを懐に忍ばせていること。いいですね?」

「そーします……」

「えー、リリカナちゃん寂しくなるー。ポケットに忍ばせるならゴム製品が――」

「リリカナは黙っていてください! まったく、今解呪しますからね」


 マキドがそう歩み寄ろうとして、足元がふらついた。

 小学生女子にはまだちょっぴり早い、エッチな光景にドキドキしすぎて、足に力が入らなくなっていたのだ。


「きゃっ⁉」


 マキドはトットットッとつまずいていき、亜土の前で両手をつく。

 ズボン越しではあるが、亜土の張りつめたモノを間近で見てしまい、ボッと顔を赤くさせた。


「~~~~~~~~~~~~っ」


 やはり男は獣だと、パニくったマキドが魔法を乱射した。

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