第5話 フミアキの目



あー、なんかまだ変な感じ続いてるなー。

せっかくみんな仕事で忙しい中をきてくれたのに。


バスに乗った時からずっと感じていたけど、

この旅は奇妙なことが多すぎるよ。

幹事役がいないと言うことがまず一点。

正確にはいない、のではなく隠れているんだ。

この中の誰かが。

続いて浮かぶ疑問は、何故なのか。

理由もなくこれだけの人間を集める、それには計画的に何かをする予定があるという事だ。

そしてこのスマホの紛失、いや盗難。

これで連絡先を断つ事には成功した訳だ。

だがここはミステリー小説にあるような嵐の孤島でもなければ橋が燃え尽きた山小屋ではない。いざとなれば抜け出せる距離だ。

だから、その人物が勝負をかけるとすればそれはきっと…。


「帰ってこないね。ノブヒト」

カオルが言う。

そう、そしてこれだ。

バーベキューの火も、だんだんと弱まっている。

焦げすぎた玉ねぎとキャベツが鉄板の上に散らばっている。

夕食を食べ終え、機嫌を取ろうとして始めたトランプ大会が過ぎても、ノブヒトはまだ帰ってこなかった。

くそっ。あの段階で引き留めておけばよかった。

「どこ行ったんだろうねー。もう帰っちゃったのかなぁ」

僕の声を聞き、他の3人も心配そうに顔を見合わす。

「まぁ、もしそうだとしてもどうすることもできないな。今から警察へ行くにも距離が離れてるし」コウイチが言う。

「警察?」ミユもその単語に鋭敏に反応する。

「仕方ないだろ」

「あー警察なんてこわいよー」僕もかわいげに言ってみせる。

「でも昔のことがバレたりしたら…」

「ばかだな、どうやってそこまで突き止めるんだよ」

いや、可能性はある。毎年のように会っていた訳じゃない。何も理由がなく集まり、関係性を聞いた時、うっかり誰かがボロを出す危険はある。

なるほど。秘密を共有した人物を集める事で心理的なクローズドサークルを作り出すことができるというわけか。

携帯もなし、警察に行くこともできない。

懐かしいな。

あの頃と同じじゃないか。

でも、ただ一つ言えるのは、僕は成長したと言うことだ。

あの頃は、ただ無邪気なままで、パニックになるだけだった。

今は違う。表面的には変わらない見た目に見えるかもしれない。だがそれは油断させる為だ。

その雰囲気を出し、緻密に狙いをつける事で心理的なアドバンテージを得ることができる。

その距離が空いていれば、伏兵がいる事にも気づかない。

自分が変わった理由、それはただ一つ。

二度とあんな事件を巻き起こさないようにする為だ。

あの事件はなんとか運良く救われた。だが。

もう犠牲になることも、誰かを傷つけることもないように。変わった理由は、その為にある。


「まぁ、最悪そういうことも考えられるって話だよ。疲れたし、もう今日はさっさと寝ちゃおうぜ」コウイチが立ち上がる。

まずい。今バラバラになるのは避けた方がいい。

「えー!まだホラー映画も見てないし卓球もしてないじゃん!」

「こんな中やれる気になれないだろ。まだ明日もあるし戻ってきたノブヒトもいれてやろうぜ」

「じゃあ私たちも行こっか」

カオルに続き、ミユも黙って立ち上がる。皿洗いは明日に回す事にして、全員が二階へ上がる。


ノブヒトがいないと言う事で、コウイチも二階で寝る事になった。

「リュックも置いたままだしな。やっぱり事故か何かに巻き込まれたんじゃないか?」

いや、これは事故じゃない。奇妙な出来事が多すぎる。

何者かによって攫われた、その可能性が高い。

もしくは。

もう一つ可能性がある。

ノブヒト自身がその何者かという恐れはあるのだ。

自らが行方不明になったと偽り、陰から犠牲者を増やしていくという事は考えられる。

考えようと思えばどれだけでも持てる。

まぁいい、ここは一旦「見」に入るとしよう。

ベッドの上に転がり込んだ。


おかしい。

奇妙な感覚がある。

いつかずっと前に感じた、というより嗅いだことのある…。

そして、気配。

部屋の中にもう一人、誰かがいるという感じがするのだ。

部屋の中を見渡す。

ベッド、間接照明、洋書の入った本棚、造花、ちょっとしたオブジェ。

そして。

クローゼット。


あまり使わないからか、部屋の中は整理されている。むしろ無機質なほどに。

だがそんな中、ひとつだけクローゼットが3cmほど開いている。

人が関わったかのように。

むしろ、そこを覗き込んで欲しいような。

子供がしかけた悪戯のように開いたままだった。

「コウイチ、そこ…」

「ん?」

コウイチが手をかけ、すっとスライドさせる。

「ーーーー!!」


陰惨さといったらなかった。

周りにかけられたコートに血はべっとりとついている。

夏場ということもあり腐りかけた肉からは腐臭がすでに漂いつつある。

そして、顔はもはやノブヒトかどうかわからないほどに、変形していた。

それは一撃で仕留めればいいというものではない。

まるで子供が大人の姿になったかのように。むごたらしい遊びを繰り広げたようだった。


「うあぁ…誰がこんなことを…」

コウイチが譫言のようにそう言っていた。が、自分には一人しか浮かばなかった。


ユースケだ。

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