クローゼットの闇 微糖

@Talkstand_bungeibu

第1話 カオルの目

私たちを乗せたバスは、細かく揺れながら白海郷まで送っている。

後部座席の真ん中で、ノブヒトが相変わらずノンストップで喋り続けるから落ち着く暇もない。ところどころで相槌を返すくらいにとどめ、私は少し空いた窓から入る風を感じていた。

清々しいほどになにもない。街灯もないので夜になれば暗いだろう。山を何回越えたかわからないが、いけどもいけども鬱蒼とした森が続くばかりだ。

少し早いじゃないかとフミアキが提案したスーパーでの買い出しは行っておいて正解だった。

まるでライフラインがこの辺りではないのだ。

さらにいえば二泊三日の間、バスも別荘の近くまで来るのは2本のみ。おかげで食材を積んだビニール袋で体の上がいっぱいだ。

「ねぇ、カオルはどう思う?」隣の席のフミアキが話しかける。

「・・・ごめん、何の話だっけ」

「もう、ちゃんと聞いといてよ。別荘についてからなにするか。花火もいいし、海が近くにあるから男子は釣りする気で満々だよ」

「・・・あぁ、そうね」

「ったくー。全然上の空じゃんか」

「疲れてんだよ、女はほっといて俺たちで楽しもうぜ」ノブヒトがそう言ったお陰で私は解放された。

フミアキの横の顔を眺める。会うのはもう7年ぶりになるだろうか。高校入学を機にみんなバラバラになってしまったが、その数年の変化はやはり目を見張るものがあった。

中学生の時はフミアキは一番背が小さく、歩くのが遅いのでいつも遅れてきていた。それが高校から陸上部に入った影響で痩せ気味だった体にも肉がついてきているようだった。少し甘えた口調は変わらなかったが。

「いやーでも、ほんと久々だよな。この5人で遊びに行くのも」

「小学校の時は毎日夜までずっと遊んでたのにな」後ろの座席のコウイチが言う。彼もアパレル系の仕事についているらしく、垢抜けて明るめの髪色にしている。子供の時は一番のいたずらっ子で泥だらけになっても気にしなかったのに。

「…ずいぶん前ね」これまで黙っていたミユが話しかける。ミユはこれまでとも変わらなかった。あいかわらず暗い女だ。正直くるかどうかも分からなかった。同性ではあるが、ノブヒトやフミアキと話す方が正直好きだ。

「でも本当ありがとな。お礼いうよ、ありがとうノブヒト」コウイチが話しかける。

「あぁ?何がだよ」ノブヒトが低い声で返す。

「いや、なかなか言い出さないからさ。俺たちって」

「だから何がだって言ってんだよ」

「だから、みんなで久々に集めてくれてって事だよ」

え?

「何言ってんだよ、俺が集めたって言ってんのか?」

「ノブヒトが別荘行こうって言い出したの?」

私も思わず口を挟む。

「ちげーよ、第一コウイチの家の別荘なんだから急に俺が言い出さないだろ」

「えぇ?じゃあ誰がこの手紙書いたの?」

フミアキが話す。たしかに私の元に届いた手紙にも宛名が無かった。

「コウイチはノブヒトが手紙を出したと思ってたんだよね。ノブヒトは?」

「いや、俺はコウイチが招待してくれたんだと思ってたよ。カオルはどうなんだよ?」

「いや、私はフミアキが書いたと思ってた」

「えーなんで僕?」

「こういうの言い出しそうじゃん」

「適当かよー」

車内が少し笑いに包まれる。

「フミアキは?」

「僕はミユちゃんかな。生真面目そうだし。ミユちゃんはどう思うの?」

「別に誰とも」

「なんだよそれ」ノブヒトが言う。

「海」

ミユが言う。

ずっと向こうに群青色をした海が見えて来た。

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