(四)

 下新倉しもにいくら土建の楡原にれはらとの電話を切った松ヶ浦は、車をさいたま新都心の本社ビルに急がせた。

 松ヶ浦が松ヶ浦ホールディングス本社ビルの最上階である四〇階の会長室に入り、自らのデスクにある総革の椅子に体を預けたところで、ドアをノックする音が聞こえた。

 松ヶ浦が返事をする間もなくドアが開き、もうすぐアラフォーになろうかとする未婚のベテラン女性秘書の速星はやほし千里が現れた。

 速星は、普段からきまじめにポーカーフェイスを崩さない女性であったが、このときは不安そうだった。

 それを見て松ヶ浦は「何かあったのか?」と聞いてみた。

 すると、速星は「会長……」と言いかけたところで、彼女の後ろの方から背広姿の男たちが革靴の音を響かせてやってきた。そして一人の中年男性が速星を押しのけて前に出た。


(続く)

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