第20話 三人の少年少女
それから昼休みになり、三人は校庭の芝生にある小さな日陰に集まっていた。カスパールが助けたことをきっかけに、ルドルフが一緒に話そうと誘ってきたのだ。
男子二人はその場で座っていたが、レベッカは服が汚れないよう立ったままであった。
「ねえ、ルドルフくんってどこに住んでるの?」
レベッカが最初に質問し、話題を作る。
「ここと同じで、レーメンの四区だよ。うちはオーツムっていう村の近くにあるんだ」
オーツムというのは、もちろんカスパールやレベッカが暮らす村だ。二人がやろうと思えば歩いてでもルドルフの家に行けるほどの距離にあるため、近いとも遠いとも言えないだろう。
グリム帝国内でもレーメンは大きい都市だが、
「あ、僕とレベッカはそのオーツムに住んでるよ。二人で時々、近所の森とか湖まで遊びに行ったりするんだ」
カスパールの話を聞くと、ルドルフは関心を示し話し手の方を向く。
「へえ……。学校遠いけど、大丈夫なの?」
「うん。うちのおじさんが仕事に行くついでに送っていってくれるんだ」
ルドルフの心配からくる質問に、カスパールは平気そうな顔で答える。カスパールの答えを聞いたルドルフは、今度はレベッカの方に首を向けた。
「え、あたし? ……あたしも、おじさんが畑仕事の合間に学校まで送っていってくれるのよ」
レベッカが質問に答えると、ルドルフはどこか不思議そうな顔をしながら少し上の方を向いていた。
彼は違和感を感じていた。そして、その疑問はすぐに口に出される。
「ねえ、二人ともおじさんが送っていってるみたいだけど……。パパとママはどうしたの?」
二人は突然の質問に、少しビクッと身体が動いてしまう。
父親や母親ではなく、『おじさん』によって送迎されている二人。ルドルフが疑問を感じるには十分であった。
「いや、実はさ……。僕とレベッカには、お父さんとお母さんがいないんだ」
カスパールが、神妙な面持ちでルドルフに真実を暴露する。両親がいないことは教師以外は知らず、同じ生徒にこのことを話すのは初めてのことであった。
ルドルフには意味がなんとなくわかったようで、ふうんと相槌を打つ。
「二人ともパパもママもいないんだ……。何かあったの?」
ルドルフの質問に、二人は一瞬固まってしまう。
グランドオークを始めとしたモンスター達によって故郷の村が襲撃され、親が食われたり殺されたりした光景。それを想起した二人の表情は、まるで当時のトラウマをそのまま映し出しているかのようであった。
「どうしたの? すごく
「……あたしたちのお父さんとお母さんは、モンスターにやられちゃったんだ。それで、ここに来たの」
レベッカは身体を校庭の方へと向け、どこか遠い目をしていた。
「そっか、大変だったんだね……。うちもボクが四歳の時にパパがモンスターにやられて、死んじゃったんだって。ママから聞いた」
ルドルフは体育座りのまま、顔を下に向ける。ルドルフが親を
そして、そのまま彼は立ち上がった。
「僕は、討伐隊に入ってお父さんとお母さんの
ディートリヒに教えられた、討伐隊に入るための手順。カスパールはそれを記憶の中にしっかりと刻んでいた。
ルドルフは彼に対して、顔を上げて小さく口を開く。
「カスパールくんって、すごいね。ボクなんか臆病で弱虫だから、そんなこと考えることすらできなかったよ」
そう口に出すルドルフの声は、誰が聞いてもわかるほどに弱々しかった。
「いや、僕もそれは同じだよ。でもお父さんとお母さんが天国から見てくれてるってことを考えたら、なんだか勇気が湧いてくるんだ」
拳を握ったまま、カスパールは言う。
「あたしも、カスパールと一緒に討伐隊に入るつもりなの。だから、ときどき一緒に魔法の練習をするのよ」
レベッカは中腰になって、ルドルフを見る。彼女の目に映るルドルフの表情は、少し明るくなっていた。
「ねえ、その練習さ、ボクも行っていい?」
ルドルフは立ち上がり、二人に対し自分の意思を伝える。
この時のルドルフの声は、それまでの弱々しい声とは違ってはっきりと力の入った声であった。
「え、いいの? 魔法を教えてくれる人が増えると、僕もいろんなこと覚えれると思うし……。来るって言ってくれたの、すごく嬉しい」
カスパールは感謝を伝えながらルドルフの両手を握り、思い切り上下に振る。
「なんなら、ボク魔法の練習によさそうな場所知ってるよ? オーツムの村まで行く一本道の途中で森の中に入っていくとおっきな湖があるから、そこがいいかなって思うんだけど」
二人の魔法の練習に付き合うだけでなく、それに適した場所まで教えるルドルフ。二人の意欲は、彼のおかげで大きく盛り上がっていた。
「じゃあさ、ルドルフ。よかったら、次の土曜日にさっそく練習に来てくれない?」
カスパールはにっこりとした表情で手を握ったまま、ルドルフに提案する。ルドルフはそのままうんと頷き、手を離した
「うん、いいよ」
ルドルフの答えに、カスパールはよしとガッツポーズをした。
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