第4話 黄昏の魔法世界

 レベッカが光の魔法を披露したあと、二人は家の中に戻る。

「でもさ、最近は車とかあるし、魔法使わないって人増えてるって聞いたけど」

 ふと、カスパールが気になったことを口に出す。

 カスパールが言う通り、魔法を使う者は少しづつ減っている。

 魔力使用による体力の減少など、魔法には問題が多い。それに対し自動車などの機械はそういった代償が極めて少ないため、魔法の衰退の後押しとなっている。


「あ、それパパも言ってた。パパが作る魔道具も、最近あんまり売れないんだって」

 ブラウアー家も科学発展のあおりを受け、魔道具の売れ行きにかげりが生じているようだ。

「でも、あたしはすごい魔法使いになりたいの。世界中の科学者をぎゃふんといわせる魔法使いになって、またパパとママの魔道具が売れるようにするのよ!」

 夢を語るレベッカの目は輝いていた。

 「レベッカにならできるよ」

 にこりと微笑みながら言うカスパールの言葉に、レベッカは思わず「ほんと?」と口に出る。

「うん、できる。だってあんなにすごい魔法、ぼく見たことないよ……。大人よりすごい魔法をもう使えるんだし、レベッカが大人になったらもっとすごい魔法使いにきっとなってるはずだよ」

 レベッカの表情が、たちまち眩しい笑顔へと変わる。カスパールの言葉によって自身の夢に対する希望が湧き、自信がついたのだろう。


「ねえ!」レベッカはそのままの笑顔でカスパールの肩を指でつんつんとつつく。「カスパールにはさ、何か夢ってあるの?」

 問われたカスパールはうーんと腕を組み考える。数秒経って答えが出たときの彼は、希望に満ちた表情でにっと微笑ほほえんだ。

「ぼくはね……。有名な人になりたい! この村だけじゃなくて、もっとたくさんの人がぼくのことを知ってもらいたいんだ! 国中くにじゅう……いや、世界中で有名になりたい!」

 右腕と人差し指を思い切り上に突き上げ、カスパールは自身の(思い付きの)夢を口に出す。それを聞いたレベッカは、ふふふと声を出して笑った。


「せ、世界って......。あんた、世界がどれだけ広いと思ってるのよ! 誰もまだどれくらい広いか測れないくらい、世界って広いのよ!」

「もう……笑うのはやめてよ」

 レベッカはそう言われると、ごめんごめんと言って少しづつ笑いを止める。完全に笑いが止まった時、彼女ははあはあと息を切らしていた。

「でも、世界ってどれくらい広いんだろうね」

 カスパールがふと呟く。

「……さあね。だけど、いつか世界がどれくらい広いのか、わかるのかな」

「もしかしたら、ぼくたちが大きくなった時にはわかってるかも」

 世界に一人たりとも存在しない、世界の広さを知る者。おおよその大きさまでは分かっても、その正確な広さまでを知る者はおそらく誰もいない。

 ましてや、陸と海それぞれの面積など、知る者があらわれるにはまだまだ時を待たなけばならないだろう。

「……あ、ぼくもう一個夢ができちゃった」

 レベッカは興味を持ち、「なになに」と言ってカスパールのほうを見る。


「世界中、いろんなところに行ってみたい、とか」

 先ほどと同じく抽象的で、非現実的な夢。しかし、レベッカはアハハともフフフとも笑っていなかった。

 それもそのはずだ。この時のカスパールの表情は、どこか真剣だったのだ。

「いいじゃん、それ!……最近、お父さんが飛行船だけじゃなくて機械でも空を飛べるようになったって言ってたから、そういうの使えばそのうちおっきい大陸をひとっ飛び……みたいなこともできるかもね」

 飛行船や飛行機について口に出すレベッカの表情は、少しづつ暗くなっていった。だが、そんな彼女の肩をカスパールはポンと叩く。

「そんなの、使わないよ。……ぼくたちが大きくなったら、すごい魔法使いになったレベッカの箒の後ろに乗って、それで世界中のいろんな場所に行く」

 沈みかけていたレベッカの感情が、再び明るくなった。


「多分、すごく広い世界だって、あっという間に飛んで行けちゃうよ! 二人でいろんな国とか町に行って、いろんな美味しいもの食べて、いろんな人と話したりして……」

 楽しそうに世界旅行のことを語るカスパールを見て、レベッカは思わずふふふと笑う。

「ねえレベッカ、笑うのはやめてって……」

「約束」レベッカがカスパールの口に人差し指を当てる。「大人になったら、二人で一緒に箒に乗って世界一周すること! あたしもそのために、頑張ってすごい魔法使いになるから、ね?」

 カスパールの唇から、レベッカの指が離れる。もちろん、と、その口から答えが返ってきた。

 広い世界を旅する。未来に向けての二人の目標が、実現する日は来るのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る