短編集

伊上申

第1話

『月下の。』




今日は、満月なんだ。


床につく時に窓から差し込む月明かりでそれに気づいた。


隣で横たわる愛しい人を無理やり起こしてみると――



「もう。なあに?」

少し不機嫌そうに上半身を起こしてこちらを睨んでくる。


「ごめん。」

ちょっと可哀想になって素直に謝る。

「でも見て? 今日満月なんだよ。」

細い肩に腕を回し自分の方に引き寄せて窓の外で映える月を見せてやる。


「あら? ホントね。全然気がつかなかった」


「…月が、綺麗だね。」


月を見る、貴女の横顔のほうがすごく綺麗で。

でも照れ臭くて言えなくて。月が綺麗だって言ってみた。

すると君は僕の方を向いて――



「…死んでも、いいわ。」

「……え?」

君が何を言ったのか一瞬分からなかった僕は、思わずビックリしてしまった。


彼女からの言葉の意味をそのまま受けてしまい、

「…ど、うして……?」

掠れた声で呟いてしまった。


「ふふ。あなた、意味知らないで、『月が綺麗』って言ったの?」

彼女は、笑いを堪えつつ僕に聞いてくる。

「え、意味って?」

僕は訳が分からなくなって目を瞬かせた。


「―…意味はね。」


そう言った君は、僕の唇にそっと自身の唇を重ねてきた。



僕はそれを素直に受け入れたが、頭の片隅では――


『月が綺麗だ』の意味が知りたかったが、ああでも。



もうどうでもいいかな、そんなこと。



互いが啄むような口付けに酔いしれて――



今夜僕は



腕の中の君を



存分に愛し倒すのだろう――

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