義妹に仲良し証明書を提出しろと言われた

マノイ

義妹は思春期

「バカ!死ね!変態!近づかないで!」


 萌夏もかは顔を真っ赤にして僕を罵倒し、ツインテールを大きく揺らしながら怒って部屋に戻った。


 神に誓って言うが、萌夏に何かしたわけではないぞ。

 僕が風呂からあがって脱衣所で体を拭いていたら萌夏が入ってきたんだ。

 逆ラッキースケベって言うのかな。


 それなのに僕が怒られるなんて不条理極まりない。

 なんてことは思わない。




 だって怒っている萌夏も可愛いから。




 僕は萌夏の事が好きだ、大好きだ、超好きだ、愛してる、愛でている、いつくしんでいる、溺愛している。


 喜ぶ姿が可愛くて、怒った姿も可愛くて、哀しむ姿も可愛くて、楽しむ姿も可愛い。


 存在そのものが尊くて、同じ屋根の下で過ごしていることが極上の幸せで、笑顔を見たら昇天してしまいそうになる。


 僕は萌夏がいなければ、『妹』がいなければ生きていけない。


 萌夏を幸せにすることが僕の生きがいであり全てなのだ。


 でも萌夏は中学生になったころから僕から距離を取るようになった。

 小さい頃は『お兄ちゃん大好き』などと言って僕にべったりだったのでその変化に決して少なくはないショックを受けたけれど、春と思しき期間が来たのだろう気付き兄として見守ることにした。


 萌夏はきっと照れ臭くなったのだろう。

 そして素直になれずに思わずキツイ言葉を口にしてしまうツンデレさんに成長してしまったのだ。


 今だって部屋で『うう、またやっちゃったよぉ……』などとベッドの上で後悔して転げ回っているはずだ。


 可愛い、超可愛い、ご飯十杯は軽くいける。


 はぁはぁ。


「萌夏ったら、相変わらずね」

「母さん」


 今度は母さんが脱衣所に突入して来た。

 母さんの場合は僕がいることを分かっていて入って来たのだろうけれど、うちの家族って僕がマッパの時に脱衣所に入って来すぎじゃね?


「うむ、流石に問題だな」

「父さん」


 ほらぁ、父さんまで入って来た。


 何だよコレ。

 僕の裸とか何処に需要があるっていうんだよ。

 普通は萌夏の役だろう?


 尤も、萌夏のあられもない姿など決して誰にも見せないけれど。


 見たらコロス。


「何が問題なの? 思春期だから仕方ないって話になってるじゃないか」


 両親の奇行には慣れているので、僕は淡々と着替えながら話を続けた。


「ダメよ、冬慈とうじ。もう二人とも高校生なのよ」


 確かに僕達はこの春高校生になった。

 ピカピカの新一年生だ。

 だがそれと思春期妹の何が関係しているのか。


「そうだぞ。そろそろ昔みたいに仲良くならないと、学生結婚に間に合わなくなるだろう」

「おいコラ、クソ親父」

「早く孫が欲しいわ」

「おいコラ、クソバ…………ごめんなさい、何でも無いです」


 ヒュー、怖い怖い。

 母さんの眼力ヤバすぎてビビっちまったぜ。


 ハハッ、母親に逆らえる息子なんていないのさ。


 それにしてもこのクソ両親、小さい頃から言い聞かされていたけれど本気で僕と萌夏を高校生の間に結婚させるつもりだったのか。

 世迷い事も大概にしろよな。


「結婚は高校卒業してからだよ」


 そもそも高校生の間は結婚出来ないから、という話では無い。

 クソ両親的には法律なんぞクソ喰らえで勝手に式を挙げてしまい、婚姻届だけ後で出せば良いのだと本気で思っている。


 そこは僕的にも問題無い。

 例えどんな障害があろうとも萌夏と結婚すると決めているから。


 問題は高校で結婚したら萌夏に迷惑がかかることだ。 

 結婚するなら僕が働き始めて安定した収入を得られるようになってからだ。

 当然だよなぁ。


「冬慈も頭が固いわねぇ」

「俺達が全力でサポートするって言ってるだろ」

「そういう問題じゃないだろ」


 そりゃあ僕だって本音を言えば今すぐにでもイチャコラして結婚したいさ。

 でも萌夏には萌夏の人生があるんだ。

 無理強いは出来ない。


 僕は萌夏の幸せが第一だからな。


「そういう問題よ。愛と周囲のサポートがあれば恋する男女は幸せになれるのだから」

「それにな。俺達はお前を絶対に大学に行かせるからな。卒業後に働くなんて認めん」

「なんでだよ!」


 定職に就かないと安心して萌夏と結婚出来ないじゃないか!


「決まってるじゃない。子だくさんのイチャラブキャンパスライフを送ってもらうためよ」

「エロエロだな。最高だろ」


 このクソ親共が!


 でも分かる。最高です。


「でもやっぱり一番は高校生の間での学生結婚だわ」

「そうそう、義妹・・とのイチャラブ学生結婚を見届けるのが俺達の夢だからな!」

「う~ん、控えめに言って狂ってるぅ」


 そう、萌夏は僕の義妹であり血が繋がっていない。

 僕が幼い頃に父親が再婚し、萌夏は再婚相手の人の連れ子だった。


 しかもその再婚理由が『兄と義妹の結婚をプロデュースしたい』という狂ったものだったから驚きだ。


 それゆえ僕は小さい頃から萌夏ファーストになるよう両親に仕込まれた。

 義妹だから好きになっても構わない。

 むしろこんな可愛い義妹を好きにならない方がおかしいと刷り込まされた。


 萌夏は世界一可愛くて、兄として萌夏の事を第一に考え、愛情をとめどなく注ぎ込むことなど、義妹ラブの精神を教えられた。


 まったく何を馬鹿なことを。


 そんなこと言われなくても当然じゃないか!


 洗脳なんてされなくても分かっていたさ、ハハハ。


 だがどうやら『萌夏を幸せにする』という具体的な部分で僕と両親とで考え方が違ってしまったようだ。


 僕は就職して安定した収入を確保出来てから結婚するのが当然だと思っていた。

 萌夏に安心安全安定した生活を送らせて幸せにしてあげたいからね。

 高校で結婚して子供が出来たら大変じゃないか!


 でも両親は愛があれば幸せだと言う。

 愛があれば困難すらも幸せに感じられるだろうと。

 だから高校生の間に妹に手を出しなさいと。


 分からなくはないけれど、それでも僕は少しでも萌夏が苦しまないように安定を選びたい。


 しかし残念ながら僕は両親の策略により愛に溺れざるを得なかったのであった。


「それでお母さん達、考えたのよ」

「?」

「冬慈達が仲良くなる方法よ」


――――――――


「うう、またやっちゃったよぉ……」


 どうして素直になれないんだろう。

 悪いのは勝手に覗いた私なのに。

 ごめんなさいって言えば良かっただけなのに。


「お兄ちゃんの体、引き締まってて格好良かったなぁ」


 ああもうダメ。

 思い出すだけで恥ずかしくなってベッドの上をゴロゴロしちゃう。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん」


 好き。大好き。世界で一番好き。愛してる。お兄ちゃんのいない生活なんて考えられない。

 お兄ちゃんのことを想うだけで心臓が高鳴りすぎて弾けてしまいそうになる。


 もっとお話ししたいよ。

 優しく頭を撫でて欲しいよ。

 たくさんくっつきたいよ。


 それなのに恥ずかしくて、どうしても出来ないの。

 言いたくもない言葉が口から出ちゃって、つい距離を置いちゃうの。


 私のバカバカバカ!


 こんなんじゃお兄ちゃんに嫌われちゃう。


「そんなの嫌ああああ!」


 ぐすん、お兄ちゃん。


 なんて自爆して凹むのが私の日常だった。


 春と思しき期間が全く終わる気配を見せないから。

 いつになったら素直になれるのかな。

 まさかずっとこのままなんてことは無いよね。


 はぁ、お兄ちゃんと昔みたいにイチャイチャしたいよぅ。


「萌夏、入るわよ」


 お母さんの声だ。

 何か用かな。


「またそんな格好して」

「別にどんな格好しても良いでしょ」


 だってこれ以外の服なんて考えられないもん。

 お兄ちゃんの匂いがたっぷりついたワイシャツ。


 毎晩お兄ちゃんがお風呂に入っている間に新鮮なシャツと交換してるんだけど、今日は失敗して見つかっちゃったんだ。

 お母さんが洗濯する前にまた回収しに行かないと。


 そしてくんかくんかするんだ。

 はぁはぁ。


「そんなに好きなら仲良くすれば良いじゃない」

「着心地が良いだけだもん。そういうんじゃないもん」


 仲良くしたいけど出来ないの!


 お兄ちゃんの顔を見るだけでドキドキが止まらなくて恥ずかしくなってパニックになっちゃうんだもん。


「もう高校生になったんだから、いつまでも恥ずかしがってないで昔みたいに仲良くなりなさい」

「むぅ……」

「仲良くしなかったらお小遣い無しね」

「そんな!」


 横暴だ!


 お小遣いが無くなったらお兄ちゃんに可愛いって思ってもらうためのコスメも服も何もかもが買えなくなっちゃう。


 そんなの困る!


「いいこと。来月から毎月『仲良し証明書』をお母さんに提出すること。そうしたらお小遣いをあげるわ」

「なにそれ?」


 仲良し証明書?

 意味分かんないんだけど。


「詳しい事はお兄ちゃんに聞きなさい」

「え、ちょっと待って」


 それが出来ないから苦労してるのに。

 お兄ちゃんに聞くだなんて……ああもうどうしよう!


 仲良し証明書って何なのよおおおおおおおお!

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