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店内は、気味が悪いほどに白を基調とした造りとなっていた。客の入りは自身と同じくらいの若い男性が2人ほど。
俺は、先ほどまで客引きを行っていた「楓」と名乗った女性に言われるがままに、店入って右手にあるこれまた白色のソファに腰掛けた。楓は一度店奥に引っ込むと、数分後にビール瓶2本とジョッキ2つを載せたお盆を手に戻ってきた。
この店はボーイがいないのか、と物珍しい面持ちでいる俺の右横に楓は腰掛ける。
「お兄さん、若いねー。やっぱり学生さんなのかなー」
楓は一つ一つの文字を正確に発音しながら俺に尋ねてきた。そんな機械じみた声に若干の嫌悪感を感じながらジョッキの中のビールを飲み干し俺は自身が大学生であることを伝える。
「そうなんだねー。私と一緒だ」
そう答えながら、こちらを見つめ笑みを浮かべる楓の顔は見る者を魅了する端正な顔立ちであったが、生気がまるで宿っていなかった。
肩を超えるほどの長さに切りそろえられた黒髪の毛先は乾燥により一本一本がデタラメな方向を向いている。灰色にくすんだ肌とガサついた唇は化粧で隠しきれていない。アーモンド型の切長二重の目の下は黒色で要らぬ立体感を出してしまっていた。
そして俺の目を引いたのが、ざっくりと開いた衣装の胸元で、店内の照明を反射させ不気味に光る銀色の蝶型のペンダントであった。
「楓も学生なんだな。ところでなかなかお洒落なペンダントじゃないか。どこで買ったんだ」
楓の顔が一瞬、フラッシュを当てられたみたいに固まったが、すぐに笑みを浮かべて、
「これはね、買ったんじゃないよ。私たちの家族の証なんだ。とてもお金じゃ買えないよ」
楓は両手で蝶型のペンダントを強く握ると、口をつぐんだ。
「そっか。それは悪かった。あまりに綺麗なもんでな」
そう言うと、ジョッキの中のビールを飲み干し、ビールも飽きたなと呟く。楓が待ってましたと言わんばかりに側に置いていた白色のメニュー表を開き俺に見せてくる。
俺は、メニュー表の中に書いてある高級なお酒の中から、財布の中身と釣り合うお酒の名前を楓に伝えた。
店内は暖房を点け締め切っている所為なのかやけに息苦しかった。やっぱり俺はこういう雰囲気の店は好きじゃない。早く店を出て冷たい空気を思いっきり吸い込みたい気持ちと、楓から情報を聞き取らなければならないという使命感で、俺の頭はクラクラしていた。
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