クロカイキル~全部食らって壊して~

常闇の霊夜

『プロローグ』~僕が産まれた意味って?~


「おいナンバー『960』!立て!」


「……」


「仕事だ、さっさと歩け」


ここはとある研究所。ここでは人を使って欠損した部位を治すナノマシンの研究が進められていた。……表向きには。


その実際は、殺戮兵器と大して変わらない、非人道的行為が行われていた。№960と呼ばれた少年は、五年ほど前からここにおり、研究の過程で右眼球と右腕、左手の人差し指と薬指、左足と足の指を切り落とされていた。そして貴族から、遊び感覚で喉に熱湯を流し込まれて声帯が爛れてしまった。


「喜べ。今日がお前の最終日だ」


「……」


「喜べって言ってんだよ!」


何の反応も見せない960を銃で殴る職員。少し頭から血が出るが、そのままその職員を睨みつける。それが気に食わなかったのか、更にもう一撃頭を殴られる。


「どうせ死ぬ奴なんだ、何やっても文句ねぇだろ!?」


「……」


960は、己の定めを察していた。この体では、もはや何の仕事も出来ない。要は用済みで殺されるのだろうと。だが960には迷いがなかった。どうせ死ぬならこいつらを道連れにしたいとは考えていたが。


「おらっ!そこに立てよ!」


連れていかれたのは、絞首台。用意されているのは、天井から括り付けられたロープと、大きな穴。通称ゴミ箱である。観客席にはこの研究所に多額の提供をしている金持ちが大勢いた。960は理解した。こいつらは人が死ぬのを見るのが好きな、悪趣味野郎なのだと。


「うわっ。かわいそ……(笑)」


「どう死ぬのか賭けません?」


「いいですねぇ!ちなみに私は漏らしながら死ぬに賭けましょうか」


「……」


960は諦めていた。そもそも、彼には元から名前も人権もない、人でなしなのである。国の周りを囲むように、この場所にはスラムが乱立している。そこで生まれた奴らは、名前を貰えずに番号で呼ばれ、彼らのような市民権を得ている奴らに遊び感覚で殺されたりもする。


960は、運よくこの実験施設に入ることが出来たが、それも今日で終了するらしい。それに対しては特に文句も無いようであったが。


「……」


ただ文句があるとすれば、この国その物であろう。この世界は腐っている。一度誰かが破壊し、再生させなくてはならない。それが自分でなくとも。


「死ーね!死ーね!」


960は、自ら絞首台に向かい。


自ら穴へと飛び降りた。


「おいなんだ今の音は?」


「あっ、どうやら地下で爆発が起きたらしいですね」


960は、なんと生きていた。ロープが首にかかる前に千切れ、そのままゴミ山に突っ込んだのだ。なんとも悪運の強い奴であるが、そもそもすべてに絶望している960からすれば、運の悪い話である。


「だーっ!見たかクソ共ザマーねーぜ!この俺をどっかに止めておけると思ってんのかバーカ!」


「……?」


「ヘッ、後は人間でもいりゃぁなぁっているじゃねぇかよ!?」


960が再び首を吊ろうとしたとき、突如ゴミ山の中からやたらとテンションの高い人工生命体が現れる。960は、それが話に聞いていたナノマシンではないかと検討を付けていた。


「これも運命ッて奴?おい兄ちゃん、ぶっちゃけどうよ」


「……?」


「あれっ、喋れない?まぁいいや。とりあえず賛成なら首を縦に振れ。……この世界をぶっ壊したくない?」


その質問に、960は迷うことなく首を縦に振る。それはもう、首が千切れんばかりにである。それを止めさせそのナノマシンは話を続ける。


「よーし聞く気があるなら問題なしだ!とりあえずだな、今俺の体はぶっちゃけ弱い。その辺のゴミにもう一回触れただけで死ぬ」


「……」


「おいっ!なんだその呆れた表情は!しかしだな!お前に寄生する事で、俺はお前の体を再生することが出来る!」


「……」


「……喋れないの不便だな。先に喉直してやるよ」


そう言うと、ナノマシンは960の喉に触れる。そしてしばらくすると、960の声帯は復活し、再び喋れるようになった。


「……す、凄い」


「おっ、成功したか……。マジで出来るんだなやってみれば」


「おい」


「冗談だよ冗談!さてここからが本題だが……。まず、お前の体に俺が寄生する。んでお前の体全てを治す代わりに、俺の目的に付き合え。いいな?」


「ん。文句ないよ」


「よーし!んじゃまずは……。上にいる貴族カス共をぶっ殺しに行こうぜ!」


そう言い、960はナノマシンを自らに寄生させる。一方何も知らない上の方では、貴族達が次の犠牲者達がもがいているさまを見ていた。


「あっは!あいつバカだなぁ!自殺しちゃった!」


「おらーっ!蹴落とせよー!」


「おい女の奴隷もっと安く出来ねぇの?」


その時。ゴミ箱から黒い人影が、その犠牲者達を皆殺しにしながら上がって来た。突然の事に困惑する貴族達だったが、すぐさまブーイングを飛ばす。


「おいふざけんな!」


「ゲームが面白いところで邪魔してんじゃねぇよ!」


「おい殺せ!」


そして、その人影に天井に配置されたガトリング砲から、大量の銃弾が浴びせられる。これで死んだだろうと煙が晴れるまで待っていると、そこには目を疑うような光景が待っていた。


「……は?」


「初めてにしちゃ上出来だ。十点やろう」


「いらない」


そこには、全ての銃弾を体で受け止め、今にも射出し返そうとする960の姿があった。否、もう960ではない。彼の名前は『クロウ』。右腕と左足、そして右目を黒く輝かせたその姿は、一目で異形であると判断できる姿出会った。


「さてと……。どの辺を狙う?」


「あそこ、薄いよ」


「成程把握!ちょっと痛いけど我慢してくれや!」


そう言うと、クロウの右腕はマシンガンに変わり、そのまま銃弾をばら撒き強化ガラスで出来た客窓を破壊する。それに巻き込まれた奴が何人か死んだが、研究員達は特に気にしていない様子であった。


「おい!早く出口を開けろ!」


「ふざけんな!あんなバケモン聞いてねぇぞ!」


「誰か助けてくれー!金ならあるんだ!」


マシンガンを撃ち終えたクロウ。だがまだ終わらない。右腕を今度はロープに変え、一気に観客席まで飛んでいく。そして地下で拾ったナイフを左手に持つと、そのまま貴族達の虐殺を開始する。


「痛い!やめっ」「たっ」


「あっ逃げないでくださいよ」


そして、右腕は更に変化を進め、今度は剣のような形に変わる。これに切られた貴族は、一瞬でナノマシンへ変化して行く。だがそれは今クロウに寄生している『カイナ』のように、意志を持たないものであるが。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」


「ふっざけるな!クソやろうぎゃあああああ!?!?!」


そして何より、このナノマシンは替えられた端から、その人間の肉を食らう。なので掠っただけで、一般人では死が確定する。そんなこんなで貴族達を全滅させたクロウとカイナだが、ここで流石に研究員達が動き出す。


「よーしやったな!……。ってなんか部屋熱くね?」


「うん。この部屋オーブンみたいに加熱出来るから」


「マジ?成程、ドアが開かなかったのは俺らを蒸し焼きにするつもりか。肉もねぇのにな」


「骨も残らないよ」


くだらないことを言っているクロウとカイナ。その隙に研究員達はここを爆破して逃げようとする。


「とっとと逃げるわよ」


「はい。部下には?」


「邪魔だから別にいいでしょ。私がいれば研究所はまた作れるもの」


そして外へ出ようとする研究員達。だがなぜかシャッターが閉まっていく。元々研究員達のいた場所が配電盤であり、全ての機能の操作場であるのだが、あそこは扉を壊したので誰も入れないはずなのにである。


「あんた、つっかえ棒になりなさい」


「はぁ?!ふざけあっあっあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」


所長は隣にいた研究員をシャッターに投げ込み、悠々とその隙間を通る。一人潰れたが問題ないと、そのまま外に出ると、即座に起爆スイッチを押す。


「さてと……。次はどうしましょうか」


「しょ、所長」


「何よ。うるさいわね。今集中してるの」


「所長。所長所長所長所長」


「何よ!しつこい……。わ……。ね?」


後ろを振り向いた所長が目にしたのは、今まさに部下がチェーンソーで頭から真っ二つにされる瞬間であった。血が吹き飛び所長の体にかかっていく。


「……なんで」


「よぉ……。クソアマ」


「なんで生きてるのよ!?」


そこにいたのは、確かにカイナであった。なぜと聞かれたカイナは、どうして脱出したのかを簡潔に述べる。


「え?いやまぁ……。俺ナノマシンだからさ。こいつの体を一回粉々にして、そんで隙間を通って来た」


「ば、化け物……!でも残念だったわね!あんたに対して何も対抗策が無いとでも思ってんの!?」


だが所長は、流石にこのナノマシンを作った人物。即座にナノマシンを破壊する細胞の入った銃弾をカイナに浴びせる。


「うぎゃあ」


「ハッ、ざまぁ無いわね!これでもう……」


「動くな」


「なんちゃってぇ!」


だが、命中した弾丸は効果を発揮する事無く、いつの間にか後ろにいたクロウに頭を押さえつけられ、ナイフを首に押し当てられる。これには所長も想定外。圧倒的に取り乱す。


「どうやって分裂したってのよ!?一回死んだらあんたは」


「そう。俺もそう思ってた。……だがな、なんとこれは粉々にされた方が普通に意識を持って動けるみたいでな。……まぁぶっちゃけビビってるけど」


「……ッ!化け物!化け物!離れなさいよ!」


クロウは、自分が粉微塵になってなお、意識を保っていた。普通なら、意識を手放し楽になるだろうが、もうクロウにはその選択肢は無い。ただこの世界を壊すまで、ひたすら殺し続けるだけの存在になってしまった。


「黙れ」


流石に抵抗が鬱陶しかったのか、クロウは足で所長の左腕を砕く。あまりの痛みに絶叫する所長だが、今度はうるさいからと足を砕かれる。


「黙れって……言ったよね」


「おいそこまでだクロウ。こいつに今死なれちゃ困るんだ」


「……。で、何聞けばいいんだっけ?」


「ハァ…。お前なぁ……。幹部だよ、幹部」


「あっ、そうだった。おい。幹部はどこにいる?」


この国には、合計七人の幹部がいる。この国は大きいので、それぞれ七つのエリアに分かれており、その中で一番偉いのが幹部。二人はこいつらを殺害し、国のトップがいる『天国の塔』へ登ろうと考えていた。


「い、言えば……許して……」


「まぁ言わなきゃ死ぬだけだけど?」


「言います!言いますから!殺さないでください!」


そして所長から幹部達の場所を聞き、それを記録する。全ての居場所を聞き終え、カイナは所長の元を離れる。


「これで見逃してくれますよねぇ!?」


「まぁ?俺は良いよ?生みの親だし」


「じゃ、じゃぁ……」


「でもクロウが許すかなぁ?」


クロウの容赦ないパンチが、所長の体を貫く。腹に穴をあけられたが即死ではない。……いや、むしろこの場合は即死した方が幸せだったのだろう。


「なんでっ」


「今までの行為、忘れてないからね?」


そして、所長は生きたままナノマシン化していく。これがどれだけ恐ろしいかは、生み出した所長が一番よく知っている。そのまま発狂しながら、所長は粉微塵になりクロウに吸収されていった。


「さて!……どれから殺す?」


「近くから行こうか」


そして二人は、何事もなかったかのように、爆破する施設から脱出するのであった。

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