第6話「先代肥料係と勇者」

スライムとの戦闘後、僕のレベルは3から5に上がっていた。


レベルが上がるほどより多くの経験値が必要となる。


凶暴化したスライムを一匹倒しただけで、レベルが二つも上がるなんて……それだけ危険な敵だったということか。


ちなみにアリッサ様の蔦の魔法は、消費MP1で使える唯一の魔法らしい。


スライムを倒した僕は足を怪我しているアリッサさんを背負い、村に帰ることにした。


「すみません、重いですよね」


「大丈夫です。アリッサ様は軽いですよ」


アリッサ様は僕より身長がある。


巨大スライムとの戦闘後にアリッサ様を背負って帰るのは正直しんどい。


「アリッサ様こそすみません。

 僕の体匂いますよね」


肥料係の僕に背負われて村に帰ったと知れたら、アリッサ様の評判に傷をつけてしまう。


「いいえ、ちっとも。

 それに私、肥料係って素敵なお仕事だと思うんです」


「えっ?」


肥料係が素敵な仕事?


「その昔、世界樹が若木だった頃。

 世界樹の世話係として任命されたのはエルフでした。

 それから一万年近くエルフ族は世界樹の世話をしてきた。

 他の種族はエルフ族のご厚意により世界樹の村に住むことを許されているんです」


祖父から聞いたことがある、他の種族は戦争や飢饉や自然災害などで行き場をなくしてこの村に住みついたって。


「今はユニコーンが勇者を務めることが多いですが、初代勇者はエルフ族から出ているんですよ」


村に他の種族が住み着くようになってから、より魔力が高い種族が勇者に選ばれるようになり、エルフ族は世界樹の世話に専念するようになったって祖父が言ってたな。


「知ってますか?

 コニーさんのお父様は勇者カイ様がまだ駆け出しの戦士だった頃、一緒にダンジョンに潜ったことがあるんですよ」


「父と勇者様が?」


「勇者様のうんこを拾うなら別々に行動するより、一緒に行動した方が効率的でしょう?」


「確かに」


モンスターとの戦闘を勇者様が請け負ってくれるなら、肥料係は勇者様のうんこを拾うことに集中できる。


それに勇者様と一緒に行動できれば、勇者様のうんこを探し回らなくて済む。


「コニー様のお父様とカイ様が初めて一緒にダンジョンに潜ったのは今から百年前のこと。

 私もそのとき見習いの回復役として同行させてもらいました。

 その時駆け出しだったカイ様は、ベテランの肥料係だったコニー様のお父様に助けられたんです」


肥料係だって何百年もダンジョンに潜っていればレベルが上がる。


肥料係が見習い戦士を助けることもあるだろう。


「でもそのことがカイ様の高いプライドを傷つけたようで」


確かにあの勇者様なら肥料係に助けられたことを、カッコ悪いと思うかもしれない。


「あのあとカイ様は、

『俺が勇者になったら肥料係とは一緒にダンジョンに潜らない!』

とぼやいてました」


「それでカイ様が勇者になってから、肥料係だけが後からダンジョンに潜ることになったんですね」


「勇者様のうんこの回収が遅れると、先程のようにモンスターが凶暴化してしまうので、効率的なやり方ではありません」


今のやり方だといずれどこかに無理が生じるだろう。


「コニー様のお父様はカイ様の無茶振りに、応えていらっしゃいました」


父にそんな一面があったなんて知らなかった。


「でも彼はかなりのストレスを溜めていたんですね。

 村を出て行ってしまうなんて……」


「すみません父のせいで迷惑をかけて。

 駆け出しの僕には勇者様の無茶振りに答える力がなくて……」


「コニーさんを責めているわけではありません。

 むしろカイ様のわがままを止められなかったことを後悔してるんです」


「アリッサ様……」


「コニーさんはお一人でとても頑張っておられます。

 ご存知ですか?

 ベテランだったコニーさんのお父様も、奥様と二人でダンジョンに潜っていたことを」


母が父のサポート役として、ダンジョンに潜っていたことは知っている。


だから小さな頃僕の側には祖父しかいなかった。


そんな話をしていたら村に着いた。


祖父は僕がアリッサ様を背負って帰ってきたことにとても驚いていた。


僕が留守の間に祖父が世界樹から授かったポーションでアリッサ様の怪我を治し、その日はアリッサ様とお別れした。

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