学校カースト最下位

@3ra-t

変わりたい。輝きたい。


起床時刻。今日も学校か。眠い、行きたくない。ベッドの中で自分と葛藤する。ママの声がする。私を起こす声。しょうがないから、起きてやるか。本当は、私が起きないといけないのに毎日のように無意識に思ってしまう。こんがり焼けた食パンの焦げたにおいが私の鼻を刺激して、冷蔵庫に入っている嫌いな食べ物が私の目に映る。


「おはようー」って言いながら教室に入ってくる陽キャを片目に私は今日も一人で読書をする。別に読書なんか好きじゃないし、本当は私だって陽キャになりたい。そう思いながら、私は本の世界に入ろうとする。本のいいところは人から話しかけられないところだ。本を開いているだけで、みんなが私を会話の対象外にする。まるで同じ空間にはいない人みたいな。本が好きな人は本を読むと価値観が広がるとか違う世界に行く経験?ができるみたいな感じのこというけど、そんなわけあるかって思う。そう思って読書出来たらどんなに幸せだろう。なんだか、私は悲しい人だな。今日読む本は、偶然、学校の図書館で見つけた本だ。題名は「―」である。毎日、図書館に通っているのだが、私はこの本をはじめて見た。図書館の端っこに小さく隠れるようにいた本。まるで私みたいに。1ページ目を開いてみる。胡散臭い言葉だ。「この本を手にするあなたへ。僕は君を変えて見せる」こういう言葉を目にすると本当にイライラする。この本の作者は頭がお花畑なのだろうか。しょうがないので、ぺらぺらとページをめくっていく。まるで自分が物語の主人公かのようにつらつら文章が書かれている。なんだよ。結局お前も一緒かよ。そんなのページを開いた瞬間からわかっていたよ。なんか、ちょっとでも期待した自分がばかばかしい。もういいや。そう思い本を閉じると、ちょうど予鈴が鳴った。私が大好きな音。ついに解放されるのか。思った瞬間またもやもやした。もうこんな自分いやだよ。


1限目の数学。先生が黒板にかく数式の意味すらわからず、ノートに写していく。私の得意な黒板写し。情けな。これを得意って勝手に自負している。いや、自負さえできてない。陽キャなら「これ得意―」とかどうでもいいことを大きい声で教室に響かせるのだろうけど。そんな私だって、別に、誰一人友達がいないってわけじゃない。昔は、昔は、いたんだよ。誰にも弁明なんてしなくていいのにそう頭の中で思いながら、2Xと書いた。すると、

「消しゴム落ちたよ。」

隣の席の美少女が私に声をかけてきた。私もこんな子みたいだったら物語のヒロインになれたかなと思いながら、ありがとうの「あ」も言えずに某アニメの黒い妖怪みたいな声を出した。キモっ。自分でもそう思う。しかし、美少女は僕にニコっと笑った。さっすがー。ヒロインは心も清らかで、そうやって男の子を落としてきたんでしょ。私には関係ないけど。授業が終わり、またあの時間がやってくる。10分しかないのに、10分もあると思う。そうやってまた自分の首を自分で絞める。すると、さっきの美少女が私に声をかけてきた。

「その本―。」

なんだか恥ずかしそうな感じで。まるで、アニメの中から飛び出してきたような美しい顔と声。誰が何と言おうが、そこには美少女がいた。しかし、私は最悪だ。

「何?」

空気が急に重くなった。声なんて出したくないのに。自分の不格好な大きな声が教室中に広がった。私に対しての憎悪の10秒間。

「あっ。ごめんね。」

きれいな人気者の声。クラスの陽キャが駆け寄ってくる。私にはビランに見向けられたかのようなチクチクする視線。泣けるものなら、泣きたいよ。だって、私、何もしてないよ。あなたが、声かけてきたんじゃん。ね。そうでしょ。なんで私なんかに話しかけてきたんだよ。頭の中がぐちゃぐちゃになって、気が付いた時には教室を飛び出していた。泣きたくない。泣いてたまるか。教室から聞こえていた私に向けた、罵倒らしき声は、だんだん聞こえなくなっていった。まあ、教室から出て、3秒でそんな声は聞こえなくなったが。2限目が始まる。チャイムが私を罪悪感に突き落とす。教室には戻れない。教室には戻りたくない。かといって、学校を出る勇気すらない。戻らなきゃ。足が動かない。熱いじめじめした階段の下で、動けない私は、惨めで憐れだ。こんな時に、「大丈夫」の一言を言ってくれる人や私を追いかけてくれる人はいない。知っていたけど、実際そうなると思っていた以上につらくて、悲しくて。私のことを助けてくれる人はいないんだよ。そうやって、他人を責める。初めて、授業を逃げ出した。ママに迷惑がかかるのかな。そもそも、担任の先生は気づいているのか―。


何事もなかったかのように、次の時間、教室に戻った。先生からは、どこに行っていたのか聞かれたが、保健室にいたというとすぐに次の授業に行ってしまった。先生が生徒に対して無関心なのは、当たり前だ。よっぽど素行が悪い人か、あいつみたいに美しい人にしか目がいかない人種なのだから。そうだよな。それでも、少しくらい、心配してくれたっていいのにと思った。未だに、私にはクラス中から痛い視線が向けられていた。何も考えたくない。嫌われている理由は知ってるし、もうどうすることもできないことくらい知ってる。なんだかすっきりしてきた。自分の存在の意味のなさを自覚できて。


次の瞬間、またあいつが近づいてきた。何考えているんだ。私の泣いている顔が見たいのか。私をバカにしたいのか。そんなのしなくたってあいつは十分に素晴らしい人間なのに。しかし、あいつは、私に話しかけることもなく、1切れの紙を渡してきた。かわいらしい紙に美しい字で書かれていた言葉は私を地獄に突き落とす。「放課後、図書館で待っている。来てね。よろしく。」さっきの事件はなかったことになっているのか。そもそも事件認定すらされてないのか。


図書館。私にとってなじみのある場所だが私はあいつが本を読んでいる姿は見たことない。だって、あいつの周りはいつも陽キャがいるし、勉強が特別にできるってわけでもない。そして、頭がよくなりたいとか思ってなさそうに見える。まあこれは私があいつに対する偏見だが。しかし私は、こんな性格だが頼まれたことは絶対にする。親の教育の賜物だろう。そういえば、私には放課後図書館に行くという習慣があるじゃないか。


放課後、私は図書館に向かった。太陽が私の肌に突き刺さって汗臭い声が運動場から聞こえてくる。頑張っている人はなんて綺麗なのだろう。そう思っているうちに私は、図書館の扉の前に立っていた。いつものように扉を開けて朝借りた本を返した。美しい本。本は昼休みに読み終えていた。こいつは、根っからの恋愛小説。私には絶対にはできない美しい体験をしている主人公とヒロイン。しかし、この小説は一体私の何を変えたんだろう。そもそも、何を変えようとしたのだろうか。まあ私にはピンとこない小説はたくさんあるので、それらと同じだろう。なんてこと思いながら、あたりを見回した。そこにはあいつの姿はない。少しばかり、イラっとしたが図書館には本がたくさんあるので本を読んで待つことにした。こんなにたくさんの本があったら一冊ぐらい読まれたことのない本もあるのかなと思いながら、おすすめの本のエリアに行き人気の本を手に取った。人気な本だけあって、この図書館にきて一か月しかたってないのに、多くの人の面影を感じられた。本を読み終えた6時前にあいつはやってきた。何の悪気もなく元気よく扉を開く。図書館にはあまりにも似合わない扉の開け方だ。そして、ずんずん私のほうへ歩いてきた。

「ねえ。私の本、読んでくれた?どうだった。面白かった。」

私を質問攻めにしてくる。何の話か分からなかった。

「私が書いた本『―』。私の力作なんだ。あなたが私の本を読んでくれた最初の読者。」

私をバカにしているのか。それとも、本当の話なのか。半信半疑で、本の内容を尋ねてみた。今度は丁寧に声を出す。ゆっくりと深呼吸をして、せーの。

「あの本は私のどこを変えようとしてくれたの。」

彼女は言った。

「そんなこと、私が教えると思う。私、本物の作家だから、そうだね。もしこの本が君を変えたのであれば、それがこの答えのアンサーだよ。変えてないなら、そうだねー。自分で考えて。」

彼女らしい答えだ。そう、たぶん彼女は確かにあの本の作者だ。数秒間、沈黙があった後、蝉の鳴き声が聞こえてきた。彼らの一生懸命生きる声に対して、彼女も何も思わないだろう。彼女は、少し本について語った後元気よく図書館を出ていった。その後私も、持っていた本をもとの位置に戻し、図書館を出た。


私のことは、誰も変えてくれない。憐れな生活が私を変えることはない。私は、惨めで、世の中は残酷だ。ただ一つの出来事が、私を変えることはない。疑問に思ったところで何も変えられないし、何も変わらない。そういうものだから。そういう世界を私は彷徨い続けるのである。

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