同調の輪
大学は窮屈だ。小学校、中学校、高校と違い、本当に様々な人が通っている。私は、大学内に誰も一緒の高校だった人はいなかった。そんな中で初めに話しかけてくれたのが、今いるグループの人たちだ。一人だった私に声をかけてくれて、感謝はしている。しかし、どうしてもこのグループの人たちとは話が合わないと思ってしまう。
「今日、先輩がさー…」
「私の彼氏がね…」
「ね、聞いてよ、同じ抗議受けているあいつがむかついてさ…」
全部で8人のグループなのだが、このように皆が思い思いの話をするため、聞くのにも一苦労だ。それに加えて内容も、お世辞にも良いものとは言えない。そして最後には、全員が口をそろえて、
「ねぇ、どう思う?」
と私に聞いてくる。そのたびに、本当は酷い、そんなに言うことはないのにと思いつつも、逆らうのが怖いため、
「うん、そうだよね。」とか「だよね、分かる」
とかを言って話をかわしている。
だから、あんなことが起きたのも、私のせいだ。あの時私が勇気を出していればこんなことにはならなかった。
ある日、グループの人たちは1人の人に目を付けた。きっかけは、とても些細なことだった。グループのリーダー的な存在の人がレポートの課題を提出していなかった時に、その子が、
「レポート出したほうが良いよ。」
と声をかけたことだった。優しさで言ってくれたのだろうけど、リーダーからしたらむかつく、偉そう、嫌いという対象になってしまった。始めは、軽いいじりみたいなものだった。まだ標的にされた子も笑っていた。その時に止めるべきだった。そう、いじめはとても残酷でだんだんとエスカレートしてしまったのだ。ある日、大学に行き、いつもの講義室へ入った。すると、明らかに空気が違っていた。何があったのだろう。グループの1人に聞いてみる。
「おはよう。ねぇ、なんか空気重いけど、何かあったの?」
「あぁ、おはよ。ほら、私たちがいつもいじっていたあの子いるじゃん?大学辞めたんだって。何でも、リーダーが、大学ではいじりって感じだったけど、SNSとかで相当な悪口を言っていたみたい。ま、リーダーを怒らせたんだもん。当然だよね。」
私は、その子の言っていることが信じられなかった。1人の人を、大学を辞めさせるくらいまで追い詰めたのに、なぜそのようなことが言えるのか。でも、私も同類だ。何もできなかったのだから。謝ってもダメなのはわかっている。申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
重かった空気もリーダーの子が来ると、いつもの雰囲気に戻った。みんなそう。リーダーに嫌われるのが怖いのだ。今日も、明日も、私はリーダーとグループの子に逆らえないまま、グループの聞き役として勤めていた。
―――そうだった。この事件の後、リーダーはイライラを発散するかのように何か月かに一回ターゲットを変えて同じようにいじめを繰り返すようになったのだ。そのターゲットは、私も。違う、ここで終わらせてしまったら、だめだ。もし、この場所に戻れるのなら、私は…。そう考えて、私はペンを取り、空白のページに続きを書き始めた―――
このまま、リーダーを自由にさせてしまっては、また前のように大学を辞める人が出てくるかもしれない。それは、絶対にダメだ。私は、どうにかしなくてはと決意した。でも、何も思いつかない。困った私は、違う大学へ進んだ親友に相談してみることにした。
「…あ、もしもし。突然電話してごめんね。ちょっと相談があって。」
「ん、どうしたのー?って、なんか声暗いね。聞くよー」
久しぶりに聞いた親友の声に少し安心感を覚えた私は、リーダーとそのグループの話を親友にした。
「そんな人いるんだ。ターゲットを変える、ねー。ま、でも、その人たちも悪いけど、悪いとわかっていながら止められない君も少しは悪いよね。」
「分かっているよ、だから解決したくて相談しているんだよ。」
「えー、それはさ、やっぱり自分で考えるべきだよ。それでもし、何かあっても私がいるから!大学は違っても、仲良いのは変わらないし」
「…分かった。考えてみる。うん、話したら少し安心できたし、勇気出てきた。ありがとう。」
「いえいえ!頑張って!」
次の日、私は講義室に入る前に深呼吸をした。大丈夫、昨日たくさん悩んだ、それに何かあっても私には親友がいる。私は、講義室に入ると今日のターゲットをいじっているグループとリーダーのところへ向かった。
「おはよう。話があるんだけど、いいかな。」
「あ、おっはよー!話って何?」
「もうさ、こういうことはやめよう。誰も幸せにならないよ?」
「は?何言ってんの。私が楽しいから良いんだよ。何、邪魔するの?それなら、容赦しないけど」
案の定リーダーは怒ってきた。グループのメンバーが、
「ちょ、お前何言ってんの。リーダーの言うことさえ聞いてれば良いんだよ。」
とか、
「今までそういう口答えしてこなかったのにどうしたの、今更。今なら間に合うよ、訂正しな。」
とか言ってきた。私は一瞬ひるんだけど、それでも決意は変わらない。
「いいよ、許さなくても。みんなが標的になるくらいなら私1人が標的になる!!」
大きな声でそう言うと、リーダーは、少し言葉に詰まった。でも、すぐに、
「あ、そう。それなら、これから標的は、ずっとお前だよ。覚悟しろ。」
そう言って、講義室をグループの人たちを連れて立ち去って行った。その日から、私は本格的にいじめをされた。前は、話しかけてくれた同じ講義を取っている人も無視をするようになった。毎日悪口を言われて、無視をされて、ものを隠されたり捨てられたりされて。正直とても辛かった。でも、家に帰ると、親友が必ず電話をかけてきてくれて、大丈夫、今日も頑張ったねと言ってくれる。その言葉だけで私は毎日を過ごすことができる。どんな飾らない言葉でも良い。自分の信じた人が、自分のことを肯定してくれるだけで安心することができる。
そんな日々が続いて、かれこれ半年くらい経っただろうか。いまだに大学で話しかけてくる人はいない。でも、今日は、いつもと少し違った。1人の子がゆっくりと静かに、しかしはっきりと私に声をかけてきたのだ。
「あ、の、私、あなたと仲良くなりたくて。今更って思うかもしれない。この半年間、私が標的になったら嫌だと思って、見て見ぬふりをしていた。本当にごめんなさい。」
「…じゃあ、どうして声をかけてきたの?」
「私、ずっと考えていたの。あの日、リーダーたちにはっきりと自分の意見を言っている姿を見てずっとあこがれていたから。だからこそ、助けたいって。でも、勇気が出なくて。それでも、昨日決めたの。明日は絶対に話しかけようって。」
私は気づいた。この人は、昔の自分に似ている。勇気が出なくてたくさん悩んで。でも、この人は強い。自分で始めから後悔しない選択を取ることができている。この人となら…。私はニコッと笑って
「正直、大学で半年間も人と話さないとなると結構辛かったんだ。話しかけてくれて嬉しい。これからよろしくね。」
「もちろん!」
そう言って笑ったあの子は、いつかの親友の笑顔と重なって見えた。
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